美少女≠交渉 2

「私、修学旅行から帰ってね、気づいたんだよ」

「何をさ」

 修学旅行明けの学校一日目。授業中、ひたすら寝続けて未だに寝ぼけてる紫苑がボヤいてる。

「私、誰かいないと寝れない身体になっちゃった」

 なんだよそれ。

「それでどうしたんだよ」

「私の家、家族も全く帰ってこないからさ、もうずっと瀬戸君の家に住んでいい?」

「駄目に決まってるだろ」

 何を持ってして許されると思ったのだろう。もうそれただの居候じゃないか。いくら紫苑といえど、無期限で僕の家に居座るのは流石にまずい。ていうか、聞き方的に許されると思って提案してる。すごい精神。仮にも異性なのに、平然と泊まろうとするなよ。

「なんでさ!カオルちゃんもいるじゃん!このままだと私、不眠症で死ぬよ!?」

「死なれたら困るけど、授業中ずっと寝て回復してるだろ!」

「それじゃ卒業出来ないじゃん!」

 確かに……。でも、駄目なものはだめ。一人に慣れたら寝られるだろうし。ここで甘えさせるのは、僕としても本望じゃない。「ケチ!性欲0男!男らしさ0!」とか叫んでたけど、無視した。


「で、お兄ちゃん修学旅行楽しかったの?」

 帰ってきてすぐに寝たから、あまり妹と話してなかったのを思い出す。そういえば、お土産も渡してなかったっけ。

「楽しかったよ」

「いいな〜、私も同じ高校に入ったら、3年後行けるのか〜」

 お兄ちゃんみたいな人でも楽しいんだもんね。なんて付け加えられる。うるさいな。

「あ、これお土産」

「あ!ちんすこうだ!ありがと!たまには気が利くね!」

「たまには、が余計だよ」

 そうそう、須藤のちんすこう。僕一人で食べ切れるはずもないから、家族へのお土産で使うことにした。完璧な作戦。そのまま夕飯を楽しんでいると、インターホンが鳴った。セールスにしては遅すぎる。今の時間は20時半。誰だろ。

「はい」

「やっほ〜、遊びに来たよ〜」

 黙ってインターホンを閉じて、夕食の席に戻る。悪い夢でも見てるだけだろ。まさかそんなはずがない。帰らせたし。直談判なんていう手を使うはずは……ある。そういえばいつかも、直談判に来た。僕がNoと言っても来るのが紫苑。誰だよ、アイツのこと美少女とか言ってる奴。バケモノの間違いだろ。メンタルお化けめ。

「インターホン何だったの?」

「何でもないよ。セールスだった」

「へー、今度はどんなセールス?」

「家に泊まらせろっていうセールス」

「え!?セールスになってないし、怖すぎでしょ!」

 妹がびっくりして言う。

 だろ?

 怖いだろ?

「だから絶対、今インターホン開けちゃだめだぞ。多分、まだ外にいるから」

 そう言うと、家の鍵が開く音がする。そういえば、合鍵持ってやがった。このセールス、鍵開けて入ってきやがる。怖すぎだろ。

「おじゃましま〜す」

「え!?白川先輩!?」

「あら紫苑ちゃん、いらっしゃ〜い」

 母親も母親。素直に入れるなよ。

「瀬戸君さ〜、出たんだから開けてよ〜。待ってたのに」

 これだから開けたくなかったんだよ!それに、開けたくなかった理由はまだある。

「あ、ちんすこうじゃん。食べていい?」

「いいよ」

 ニヤニヤしながら聞いてくる。絶対、わかってる。手慣れた様に僕の部屋へ、大量に持ってきた荷物を起きに行った。そして、僕の携帯が震える。見たくないけど、見ざるを得ない。

 ➝須藤君

 ➝要求はなんだの

 ➝言わなくてもわかるでしょ?


「と言うわけで今日からまた、私のこと泊めていただけませんか?」

 自信満々に聞く紫苑。荷物まで持ってきてるんだから勿論、勝ちを確信してる。バケモノめ。

「お父さんに聞かないとわからないわね〜」

 と母親が言ったから、なんだかんだ僕の家に留まることには成功した紫苑。そして妹とゲームして待っている。メンタルの防弾チョッキ、さらに着込んだ?前はもっと、緊張してたのに。


「お義父さん、おかえりなさい!」

 紫苑が玄関で待ち伏せして、父親を出迎える。何やってんだよ。というか、媚びを売んなし。

「紫苑ちゃん、久しいね」

「いえいえ!」

「今日からまた泊まるの?」

「はい!」

 勝手にもう決定事項になっていた。

「じゃあまた今日からよろしくね」

 僕の家族、紫苑に甘すぎる。これでいいのかよ。よく人の娘を軽々しい気持ちで預かれるな。僕もこれぐらい、器の広い人間にならなくちゃいけないってことか……。そんなわけないか。

 こうして、紫苑は交渉なんて必要なしに、僕の家に侵入した。で、また占領される僕の部屋。紫苑の私物がたくさん。チンアナゴまで持ってきてるし。そういえば、抱えて入ってきてたな。人がいなくてもチンアナゴがいるじゃないか!そいつと寝ろよ。

「また一緒に寝れるね〜」

 美少女とは思えないニヤケ顔。やっぱりこいつ、美少女じゃないや。ただの変人だ。

「そうな」

「チンアナゴ投げしたい」

「僕、ジンベエザメしか持ってない」

「それでいいじゃん。やろうよ」

 投げるどころかチンアナゴで殴ってくる紫苑。抵抗もせずに殴られる僕。というか、ベットはもう既に、紫苑のモノになっていた。いつまでかわからないけど、僕のベットで寝れる生活はお預け。神様がいるなら、このなんちゃって美少女を一人で寝られるようにして欲しい。

「私、お風呂入ってくるね!」

 人の家で自由にお風呂に入れるそのメンタル、羨ましい。

「新生活、楽しみだね!」

「そうな」

 そう言うと、ドアから首だけだして、紫苑を見せる。僕からしたら、地獄か天国かわからない。退屈はしないだろうから、そこだけ、期待する。

 あぁ、平穏は何処へ……

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