僕と君と、思い出を共有して

 3日目午後。今朝、海に入り続けたせいで疲れて果てた僕達は、ゾンビみたいになって国際通りを徘徊していた。

「結局、白川は目星つけてんのかよ」

 国際通りでゾンビごっこしてると特殊部隊に殺されそうなので、紫苑が言ってたカフェ巡り+避難をしていた。つまり、テーブルで野垂れ死んでるただの屍に変化する。

「つけてないよ〜、ネック……じゃなくて置き物とかがいいよね?」

 ネックレスは僕とだろ。

「今の一瞬でツッコみたいところが無数にあるけどな」

 頼んだサンドウィッチを食べながら、須藤が言う。その間、ミミさんとマイさんはピクリとも動かない。ホントに死んでる。

「だって、班の思い出って難しくない?」

「それはそうだよな」

 木村が言う。確かに僕も、班の思い出となると、検討もつかない。シーサーで良くない?

「シーサーで良くない?」

 紫苑が共鳴した。わたしーたちはよくにてるね〜!あ!また揃った!

「瀬戸君なんかある?」

「シーサーで良くない?」

 僕達はどうせ別のモノを更に買うから、正直何でもいいっていうのが強い。他のメンバーは違うだろうけど。須藤なんて目向いて考えてる。あ、これ寝ないようにしてるだけか。毎晩2時ぐらいまで木村とゲームしてるつけが来ていた。愚かな奴。

「ていうか、沖縄に来てサンドウィッチかよ」

「いいだろ別に。ホテルの料理で散々沖縄らしいもの食べたじゃねぇか」

 それもそう。飽きるぐらい食べた。

「とりあえず、次のところ行こっか」

 死人共を連れて、またゾンビごっこ。色々なところで立ち止まって、色々見る。

「紫苑、貝殻とかどお?」

「ミミってそんなにロマンチックだっけ?普通に嫌だけど」

 なかなか、決まらない。偶然、そこらにいいのが落ちてないかな、なんて思う。あ、そうだ。ふと、思いついた。

「各自でいいと思うやつ買ってきて、それを箱かなんかに入れて取ったやつはどう?」

「お、いいね。思い出にもなるし」

「俺、瀬戸の案に一票。思いつかないしそれで頼むわ」

 ということで、各自で買いに行くことになった。ついでに紫苑に個別にあげるやつも見つけられて、これで一挙両得。我ながら、頭がいい。名案。


 とは言ったものの、結局何にするかは、死ぬほど悩んだ。それこそ頭がねじれるぐらいには。

 で、選ばれたのはコップでした。わかりやすくていいよね。

 20分ぐらい待った後、全員が集まった。ちなみに最後に来たのは須藤。なんだか想像通り。

「で、どうやって交換する?」

「ホテルに戻って、それでルーレットしよっか」


「と言うわけで、ルーレットのやり方は乱数にしまーす!」

 誰のプレゼントかわからないモノに番号をふり、自分の携帯の乱数表で出た数字のモノを選ぶ。かぶれば、じゃんけん。つまり、完全に運任せにする。ちなみに、自分のを引いた場合、もうひとり、自分のものを引いた人がいれば交換する。被る人がいなくなるまで、繰り返すらしい。面倒だけど、時間あるし、いいか。

「じゃあ早速、乱数回すよ!せーの!」

 僕は5番。

 紫苑が1番。

 早速、引いたものを開けてみた。

「あ、私、自分のだ」

 僕は、他の人のやつだった。ちんすこう。これはどう考えても……。

「俺のやつ、瀬戸が引いてんじゃん!」

 やっぱり須藤かよ。置き物とかって言ったのに食べ物じゃねぇか!話聞いとけよ!この班、話を聞かないやつが2人くらいいる。よくよく考えるとすごい班。まとまってるのが不思議。

「あ、私も自分のやつ引いた!紫苑、私と交換しよ〜」

 と言うわけで、つつがなく交換会が終わった。何事もなく、特別なことも無く。暇になったので、必然的に各自で適当に時間を潰すことになる。

 ➝一緒にホテルの周り、歩こうよ

 ➝いいよ

 当然のように来る紫苑からのメッセージに答えて、ロビーで待つ紫苑と一緒に外へ出た。


「お互いの、引けなかったね」

「仕方ないよ。運だから」

 やっぱり現実は、くだらない。どれだけ願っても叶わない。そういうのが、現実。運命なんてものは、ない。

「それでね、私、ちゃんと瀬戸君に用意してきたよ」

「僕もだよ」

 結局二人で選んだものじゃないから、お互い、好きなものを渡すことになった。

 二人とも照れて、なんだかぎこちなくプレゼントを交換する。お互い、小さな箱。

「あ、珍しい。同じじゃん」

「まーすストーン」

 紫苑に危ないことが起こらないようにと、紫苑の願いが、叶うように。願っても叶わないとわかってるのに、僕達みたいな小さな存在は、願うことしかできない。だからこそ少しでも、紫苑の側にいられるように、紫苑の心の支えになれるように、身に付けられるものを、選んだ。

「私達、考えることは一緒だね」

「そうな」

「なんか嫌だな〜。貰えたのは勿論、すごい嬉しいんだけど、被っちゃったら、なんだか現実らしくなくて」

 そう言いながらも紫苑は、さっきからずっと、貰ったものを眺めてる。角度変えたりしてるけど、どうしたって一緒だよ。

「気味悪いな」

「そうだけど、でもなんだか、嬉しいよね」

「たまには期待しても、いいのかもな」

「だめだよ。さっきのプレゼント交換、外れたし。運は信じられないけど、自分達のことは信じていいってことだと思う。私達、お互いのことが一番良くわかってるし。だから何がいいたいかって、これからもちゃんと、私のこと見ててね」

 夕日と海と紫苑と、それとこのプレゼントと。人は何かと一緒にことを覚えると、強く、記憶に残るらしい。だから多分、このことは、この風景は、一生忘れないんだろうな、なんて思う。僕の一生がどれくらい長いかなんてわかないけど、もしかしたら次の瞬間には、一生は終わってるかもしれないけど、きっと僕は、このことは忘れない。紫苑に貰ったプレゼントと共に深く、自分の中に刻み込む。

 夕日と共に見える、前を向いて歩き始めた美少女の横顔は、何よりも存在感があって、美しかった。


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