熱帯接待水着隊

 3日目。イベント事のときは何故か、24時間ある一日が2時間ぐらいに感じるのと同じ原理で、3日目が2日目のように感じる。早朝5時30分に叩き起こされ、死ぬほど眠い中、朝食を食べさせられる。あの朝に強いと名高い白川紫苑様でさえ、今日は眠そうだった。

「今日は朝のうちに海行って、午後から国際通りでカフェ巡り兼何か思い出作れるモノ探しね」

 いつの間にか紫苑によって作られたスケジューリングに、僕達は何も疑問を持たないという怪奇現象。怖い。洗脳されてる。もう、戻れない。


「海と陸の体積比って9:1って知ってた?」

 珍しくジャージ姿の紫苑。下に水着を着込んでるらしい。夏休みにプールで着てきたのと、同じやつ。

 ホテルの裏側にある海だから、僕達のほぼ貸し切り。それでも、あんまり水着になりたくないらしい紫苑と砂浜に座っていた。だから、こんなしょーもない雑学を急に話題に出されている。可哀想な僕。

「面積比は7:3ってよく聞くのに、体積比はあんまり聞かないのなんでなんだろうな」

「皆、外面のほうが重要ってことでしょ。人間の本質が透けて見えるね」

 そう言うとと伸びをする紫苑。ゴロゴロするだけでも、楽しい。僕達二人を除く残りの4人は、海で遊んでいた。ポール飛ばしたりして。

「私も入りたくなってきた」

「行ってきなよ」

「何言ってるし。瀬戸君も行くんだよ」

 紫苑に手を取られて引っ張りあげられる。手をひかれるまま、海に入った。

「足だけだけどね」

 無邪気に、そして気持ちよさそうに、波を掻き分けていく紫苑。太陽光と海が反射して、美しく紫苑をライトアップする。こんな人が、僕の彼女か。紫苑以外、恋人という存在を作ったことがないから、彼女を作るという大変さはわからないけど多分、紫苑と付き合えるって、奇跡的なモノなんだろうな。ある意味、現実が信じられない。

「そんなところで私と見とれてないでさ、もっと深くまでおいでよ!」

 こけないように、波を掻き分ける。紫苑に追いつけるように、懸命に。

「潜って勝負ね!先に出た方の負け!」

「ちょ、紫苑!ジャージ濡れる!」

「あ、忘れてた」

 ちょっと待ってて。と言って、砂浜に戻り、誰も自分を見てないか確認してから、戻ってきた。

「なんかさ、波を掻き分けて彼氏のところまで行くって、人生みたいだね」

「そうな」

「色々あるけど、乗り越えて瀬戸君の横に立つみたいな?」

「今からもうちょっと深いところ行くんだろ?」

「なら、二人で乗り越えないとね」

 僕の手を握って、前に進む紫苑。相変わらず、僕は後ろ。紫苑の可愛い水着が眩しい。肌がキレイすぎて、思わず触ってしまいそうだった。

 肩が水に触れるぐらいまで来たとき、紫苑が立ち止まって僕の方を向く。3.2.1.とカウントダウンするから、僕も紫苑と同時に潜った。

 今更ゴーグルを忘れていることに気づいて、おとなしく目を瞑っておく。視界が奪われたことによって身体がより敏感になり、繋いでいる紫苑の指と僕の指が絡まる感触が更に、伝わってくる。細い、弱々しい指。僕を包むように、繋いでくれる。

 あ、ヤバい。そろそろ息限界。紫苑はまだ水中だろう。僕の負けか〜〜。何させられるかわかったもんじゃない。どうせ罰ゲームはあるし。

「紫苑、僕の負け……」

 見て、びっくりした。海から、何か棒が出てる。迷わず水を突っ込んでやると、美少女が釣れた。

「何すんの!酷いじゃん!」

「酷いのは紫苑だろ!シュノーケルはずるだろ!」

「無しなんて言ってないじゃん!持ってこないほうが悪いよ!」

 周囲を確認してた理由って、それかよ畜生。てっきり水着が恥ずかしいとかかと思ってたのに。ゲラゲラ笑いながら水を更にかけてくる美少女に、敵意が湧いてきた。

「もう一回勝負しよう。で、次僕にシュノーケル貸して」

「全然嫌だよ!一回勝負!あー、一生懸命目を瞑って私の手を握る瀬戸君可愛かったな〜」

 天を見上げながら想像する紫苑が憎い。

「あ、それにそれに、シュノーケルって私が思いっきり口付けてるから間接キスなんて次元じゃないよ?」

「キスしてるんだから変わらないだろ」

 そう言うと、紫苑が逃げるように水中に潜った。ついでに、シュノーケルの変わりにゴーグルを渡してもくれる。

 潜ると、紫苑がニヤニヤしながらこっちを見ていた。紫苑の顔を眺めていると、突然咥えていた呼吸器を外して、僕にキスをした。

「おい、何すんだよ!」

 慌てて水から出る。息ができないとかそういう問題じゃないだろ!

「なんだかしたくなったんだから仕方ないじゃん!」

 なんだよそれ!

「そんなこと置いといてさ、私達もボール遊び混ざりに行こ!」

「置いとけるかよ!」

 そう言う僕を楽しそうに笑って、紫苑が逃げるように走っていく。水中だから走れないけど。

「なら、私のこと捕まえてみな!皆の前で後ろからだきつくことになるけど!」

 僕にそんなこと出来るわけない。悔しそうな僕を見て、また紫苑が高く笑う。僕も明るい人間なら出来たのか!?いや、無理。明るくない人間に明るかったらなんていうこと、考えるほうが無駄。

 ボール遊びに混ざって、紫苑にボールを投げつけることで憂さ晴らしした。最低だと思うかもしれないけど、柔らかいやつだから問題なし。紫苑も笑って逃げ回るだけだし。僕が投げたところで大した威力にならないし。接待なんて、僕がするはずがない。真の男女平等社会を目指してるし。

 僕達は散々遊び回って、死にかけながら昼ご飯を食べた。ちなみに、海水は飲みまくってる。辛い。海水がキレイだったから良かったけど。いや、良くないか。午後からの国際通り、紫苑がいよいよ何買うか決めてくれるそうなので、楽しみにしていた。なんで買ってなかったか、予想つくから期待してないけど。

「私に任せときなよ!」

 とか言ってたから、任せることにした。

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