美少女≠料理
「料理ってさ、結局真心だと思うんだよね」
修学旅行前の平日。僕の家で料理する美少女。
「紫苑って、何年一人で晩御飯食べてたんだよ」
「2年ぐらい!」
自信満々に答える彼女の前のカレーは、まるでカオス。あるのかないのかわからないジャガイモ。ちなみに僕がいなかったら、皮を向かずにそのまま切っていた。切ってから剥く、というあまりにもオーバーワークなことをこなそうとしていたらしい。そして、でかすぎる人参。嫌いだから僕のところに全部入れてやろうと、大きめに切ったらしい。そして勿論、切り方なんか雑で、全部パワーで解決しようとしていた。
知識が全く無いわけではないのには伝わってくるけど、それが逆にカオスを招いている。
「どれぐらい自分で料理してた?」
「最初の一ヶ月ぐらい」
あとは、菓子パン食べたり食べなかったり、銀行から勝手にお金を引き抜いて豪遊したりしていたらしい。恐ろしい。あぁ、恐ろしい。
「でも、当日は瀬戸君もいてくれるんだし、大丈夫でしょ!」
「元々は紫苑が見栄張りたいって言うから練習してるんだろ!」
「あはは!そうだった忘れてた!」
そう、愉快に笑う紫苑。僕も楽しいから、別にいいけど。
「まぁまぁ、そう怒らず食べようよ!」
という出来事を思い出して背筋が冷っとする、2日目朝。大見栄を張れると早朝から目が輝いてるのは、美少女こと紫苑。
「有象無象共に食べさせるなら作らないけど、友達相手だし、私が作ってやんよ!この白川紫苑が、料理も出来るってとこ、見せてあげたいからね!」
尚、僕のサポート必須。
「というわけで、ゴーストシェフ、よろしく!」
ゴーストライターみたいに言うなよ。だいたい、家でやったのも結局7割僕だったじゃないかよ!そっちがゴーストだ!
「でも、ちゃんと紫苑を真心とやらを入れてくれよ」
「Air/まごころを君に……」
それが言いたかっただけだろ。でも、真心はしっかり入れてもらわないと困る。なんだか、紫苑の真心だけで2倍ぐらい美味しくなりそうだし。
そんなことを言いながら、紫苑は必死の形相で朝ごはんを食べている。後先考えないって、羨ましい。別に馬鹿にしてるわけじゃないけど。それが、紫苑の良さでもあるんだし。
「ていうかさ、ポテト足りないから瀬戸君のやつ頂戴」
黙って横流しする。僕、そんなにいらないし。ていうかそもそも、バイキング形式で、紫苑に勝手に取ってこられただけだし。
「あ〜、オムライス食べたい」
「食に貪欲な美少女って、なんだかレアだよな」
木村が横から言う。人のポテトとってるの見て、よく美少女とか言えたな。
「食べないと死ぬよ?」
「お前は1か0でしか話せないのかよ」
眠そうにツッコむ紫苑と、笑う女性陣。いや、紫苑のことだから。何自分で笑ってんだよ。
「お前、ホントに料理出来んのかよ」
「出来るに決まってんじゃん!何いってんのさ!」
「お前の料理って、ほぼ瀬戸の料理じゃね?」
紫苑、もうバレてるからやめようよ。
「は!?言ったね!見せてやんよ!私の力!」
「助けてください」
午前中の自由行動で国際通りを歩き回り、お腹を空かせてやる気満々で作りに来た僕達。ちなみに勿論、思い出づくりのネックレスなんて見つかってない。班の思い出としても何かあれば、なんてミミさんも言ってたけど、結局紫苑が全否定するから決まらなかった。
そして今、やはりといっても過言ではない。紫苑が、助けを求めてきた。班分けは、火担当と鍋担当、お米担当そして、僕達食材担当。「スターバーストストリーム!」とか言って、最初は張り切ってたのに今は失墜。
「何ができないんだよ」
「ジャガイモ、切りすぎないか怖い」
可愛いなおい。そして、玉ねぎを切って涙目になってる。哀れで可愛い。昨日、あんなに恋バナしてた人間とは思えないぐらいに。
「わかったよ。見ててあげるよ」
そう言うと、嵐が晴れたように、明るい顔に戻った。
「頼むよ!それと、皆にバレないように!」
「わかってるよ」
相変わらず雑に切る紫苑を、ハラハラしながら見守っておく。見ててあげるのも楽じゃないよな。
「それで出来てるよ」
「よし!」
で、切った食材を入れに行っていた。
僕達の役目はこれで終わり。こういうことがあるたびに毎回、見ていろって言われるんだろうな、なんて思う。仮に僕達がまた、一緒に暮らすようなことがあれば、毎日こんななのな。想像すると顔が赤くなりそうで、慌てて思考を切り替える。それでもいつまでも、こうしてられたらいいのにな、なんて平和を願った。
「案外、美味しくできたね」
ソロソロと自分の切った野菜を食べ、自分の切った人参を僕に流す。
「人参食べろよ」
「知ってる?小さい頃からお母さんがいない中で生きてたら、好き嫌いって増えるんだよ」
つまり、親のせいって言いたいわけかよ。
「そんなに嫌いなのかよ」
「ウマ娘になりたい」
「そうな」
そして何より面倒くさいのが、他の班の奴らまで、紫苑の手作りが食べたいと押し寄せてくる。皆、紫苑のこと好きすぎだろ。僕も人のこと言えないか。
「ところでさ、私の料理、美味しい?」
いつもと違って、自信なさそうに聞く紫苑。自分で美味しいって言ってたんだから、自信持てよ。
「美味しいよ」
「俺、白川って料理出来ないと思ってたわ」
おい木村、それはまずい。
「あ〜ん?私が出来ないって?喧嘩売ってんのかぁ?どこ中じゃこらぁ?」
昭和だな〜。もう令和だぞ。
「白川、基本雑いし」
「雑くないよ!丁寧だよ!」
「紫苑は雑いって。ねぇマイ?」
「この前の家庭科の刺繍なんて酷かった。全部波縫い」
どんどん、明るみになっていく哀れな紫苑。可愛いな〜、なんて僕は眺める。
紫苑と二人でいるのは勿論、楽しいけど、皆でいるのも、それはそれで、いい。
「また皆で何かしたいな!」
須藤が言う。
「あ、私は基本瀬戸君と二人でやりたいので結構です。皆とやるとしても須藤君抜きで」
「なんでだよ!」
「だって何もしてないじゃんか!やったこと言ってみなよ!」
「火つけただろ!」
「ほぼ木村君じゃん!」
そんな会話をぼーっと聞いていると、委員長と目があった。僕のことなんて、諦めたらいいのに。どうせ紫苑が離さないし、僕も紫苑から離れる気、ないし。修学旅行中にアクションを起こすのはやめてほしいな、なんて思う。
そしてこのやかましい中、僕は次の海まで、生きていけるのか。体力、無くなりそうだった。
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