美少女≠恋バナ

 僕は今日、人生で初めての沖縄に向かっていた。修学旅行で。「海って大きいね〜」なんて馬鹿なこと言ってる美少女は放っておいて、僕も飛行機から窓の外を眺める。

「瀬戸君知ってる?」

「何をだよ」

「冬の海の方が、夏の海よりなんかいいんだよ」

 全然知らないや。紫苑の主観だし。

「それは知らなかったな。夏と何が違うんだよ」

「冬のほうが人少ないし、水も気持ち的には冬のほうが澄んでる」

 やっぱり全部、個人の主観。なんかもっと、データ的なものを期待したのに。

「取りあえずさ、自由行動の時間、どこ行くか決めない?」

「僕と二人で決めることじゃないだろ」

 6人班なのに、僕と二人で、いや、僕の意見なんてどうせ聞きっこないから実質1人で決まるようなもの。あ、でも、残り5人いたって誰も紫苑に刃向かえないか。なら、無理だ。でも、隣で目を輝かせてる紫苑を放置するのはなんだか可哀想だし、行きたいところぐらい聞いてあげることにした。

「まず、美ら海水族館は確定」

 出たよ水族館。ホントに好きだな。僕達、どこに行っても行ってるだろ。

「ジンベエザメいるんだよ!マジで見たいんですけど!」

「それはいいね。他には?」

「バナナボート乗りたいのと、海にあると噂のハート型の岩も見たいし、熱帯ドリームセンター行きたいし、国際通りは勿論、あ、それとそれと、海で泳ぎたい」

 海で泳ぐのとそのハート型の岩は被ってそう。多分、はしゃぎすぎて自分でも何言ってるか把握してないんだろうな。

「はしゃぎすぎて体調崩すなよ」

 そう言うと、紫苑がちょっとムッとしたような顔をする。

「そりゃはしゃぐよ!だって、人生で一回きりの修学旅行だよ!?超楽しみじゃん!」

 跳ね回りそうなテンションで、紫苑が叫ぶ。僕達の飛行機、紫苑に落とされそう。


「アーロハー!」

 それハワイだろ。南国違いで不正解。

 ホテルについて、17時まで自由時間。取りあえず国際通りをぶらぶらすることになって、色々見て回る。

「思い出作りに、何か買いたいね」

 今日は班行動ではないから、大胆に2人で回った。紫苑の強い希望で。僕も正直、どこかのタイミングで二人でまわりたかったから、都合が良かった。

「そうな。ネックレスとかならわかりやすい?」

 そう言うと、紫苑は目を見開く。

「珍しく名案じゃん!」

「珍しく、が余計だよ」

 二人で、そういう系のモノを、見て回る。僕的にはいいモノが多かったけど、紫苑は納得行かなかったらしく、今日のところはホテルに帰った。

 と言っても、僕が落ち着ける環境にいられるはずもなく。通されたのは紫苑の部屋。

「ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!ニーハオ!」

 アロハの次はニーハオかよ。

「紫苑のキャラ汚すぎ!」

「これが、大激闘っていうゲームなんだわ。強ければ生き、弱ければ死ぬ!生き残るのはこの私よ!」

 自信満々の紫苑に開始早々ボコられた僕は、死んだ目で画面を見ていた。部屋に連れこまれたかと思えばコントローラーを握らされ、あんまりやったことのないゲームを強要されたかと思えば、弱いと笑われる僕。惨めだな〜。全てで紫苑に負けてる。何をやっても彼女に勝てない、哀れな彼氏。

「瀬戸っちってゲームとかやんないの?」

「やらないよ」

 意外そうな顔で見られる。そんなやってそうかよ。

「あ、エロゲ派か」

「やらないってば!」

「えー!?瀬戸君エロゲやるの!?」

 紫苑はまず、話を聞いてくれ。

「じゃあ、普段家で何してんの?」

「本読んだり、動画みたりしてる」

「えっちなやつ?」

「見ないよ!」

 女子3人にゲラゲラ笑われる。情けねぇ!この構図は、どう見ても根暗男子で遊ぶ明るい女子達。あぁ、僕はいつからこんな立場になってたんだろう。

「じゃあなんの動画見るのさ」

「日常系とか?」

「あ、私も見るよ!」

 紫苑が動画見るのは意外。本を読んでるか、ゲームしてるかだと思ってたから。

「紫苑こそ何見るのさ」

「ゾウが大暴れする動画とか、スライムを潰す動画とか」

 全然意味のわからない動画だった。紫苑らしくて、なんだか安心した。これでカップルチャンネルとか見てても、逆にドン引き。

「瀬戸君可哀想だし、他の男の子も呼んであげるか〜」

 そして召喚される、須藤と木村。

「晩御飯まで暇だね〜」

「誰か何かやることプリーズ」

 人口密度が上がっただけで、特に何も変わらないスタイル。僕は嫌い。とりあえず人呼ぶの、意味わかんなくない?

「恋バナでもする?」

 言い出しっぺは紫苑。紫苑に恋バナとかないだろ。あったとしても、それただの惚気だろうし。

「紫苑の恋バナ聞きたい!でも、男子達、想像してるのと違う紫苑出てきて同様しちゃうかもよ?」

「僕はパスで。まるで聞いてられないから」

「え〜、瀬戸君がパスなら、また夜にしよっか」

 夜なら僕は強制参加かよ。

 結局、ゲームをしてるうちに晩御飯の時間になって、食べに行った。ちゃんとしたホテルなだけあって、美味しかった。それに、皆と食べるのって、レアだし。


「ささ!じゃあ、恋バナ始めますか!」

 ニコニコの紫苑と共に、地獄の会議が始まった。会議でもないけど、会議みたいなもん。だってこの場には、紫苑の彼氏と紫苑を好きだったやつが2人。なんだよこの地獄。僕は気まずくて、死にそうだった。

 早く、終わればいいのに。

 これがまだ、修学旅行4日間のうちの1日目。あぁ、1日目はかなり長そうだな……。

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