美少女≠月見
「はんごーすいさんって、何つくんの?」
「自由って聞いたよ」
「菓子パンでよくない?」
駄目に決まってる。何も作ってないじゃないか。
「事前に食べ物申請しとくんだってよ。俺、焼きそばがいい」
須藤が言う。
「No,It's so bad」
紫苑がチッチッチッ、とか言って指をふる。菓子パン野郎にだけは多分、みんな言われたくなかった。
「俺はカレーがいい。ノーマルだし」
流石イケメン木村。彼こそ何でも出来る。どこかの残念美少女は何をやらせても哀れで可愛いだけだけど、こいつは格が違う。
「うーん、soso.だね」
さっきからなんだよ。
「あ、私ラーメン食べたい」
「流石につくれないでしょ」
頑張ったら作れそうだけどな。
「で、紫苑は何がいいんだよ」
どうせこの質問を待ってるだけ。ほら、すごい笑顔になった。
「お好み焼きなんて、どお?」
「パス」
「なんでさ!」
「時間かかるし面倒くさいだけ。僕はカレーに一票。マイは?」
「お好み焼き以外なら何でもいいよ」
袋叩き紫苑。ぐええぇ、なんて言ってる。で、ちょっと拗ねてる。
「私、ウニ食べたい」
全員で無視。
拗ねてる紫苑は放っておいて、他の皆で大方決め終わった。紫苑は、とりあえず僕と同じ役割にしておけば文句言わないだろうっていう、半場押し付けられるような形で決まった。ちなみに本人もそれで良かっらしく、満足してる。
「月見、超楽しみ!」
切り替えスピードが恐ろしく速い紫苑が、買ってきた団子を食べながら言う。え、これって見ながら食べるんじゃなかったの?
「そうな」
呆れて言う。
これが自分の彼女かと再認識して、意識を一旦シャットダウンする。
再起動して何度確認してみても、顔は美少女。中身は哀れ。
なんだよ、この最高の彼女。
これが毎回、5秒ぐらいは感じられる。
口を開けば、もう無理。ただの野生の残念美少女。
「さ、白川さん。そろそろ行くわよ」
部長に言われて、二人でひょこひょこついていった。
「あ、そうそう。私が参加するのはこのイベントで最後だから、天文部を後は任せたわよ」
屋上に向かう階段の途中、先輩がそう言う。
「わかりました!屋上の鍵は任せてください!部対抗リレー、最下位という結果含め楽しかったです!」
一部本音が漏れてけど、先輩も笑ってくれていた。単に屋上に行ってみたいっていう理由だけで入った天文部だけど、意外と天体観測は面白い。
「今日は望遠鏡も無しでいいから。ただ月を見ることを楽しみましょ。欲しかったら持ってきてもいいわよ」
勿論、あんな重いもの置いて行く。
「持っていきます!!」
えぇ。
で、僕が持つ。なんでだよ。
「楽しみだね!」
本気で楽しみそうなこの笑顔に免じて許すことにした。僕の前だけ見せる、この純粋無垢な笑顔は、何よりもキレイだから。
「おお〜、月がキレイですね〜」
団子をたべながら紫苑が言う。後輩二人は、僕が持ってきた望遠鏡で空を見ていて、先輩も後輩に付き添っている。だから、僕達二人。
「そうな」
「後どれくらいさ、一緒に月、見られるのかな」
紫苑が月を見ながら言う。物思いにふけるとはまさに、このこと。
「そんなこと、わからないよ。もしかしたら今日で最後かもしれないし、数え切れない程、見れるかもしれない」
「未来は不確実でわからないのに、私達は未来の準備をするんだ」
未来に不安があるのは、いつもの紫苑。だって僕達はきっと、何者にも慣れないから。今だからこそ、自分として輝ける。将来、有象無象になるのが、怖かった。
「美少女も、現実的な悩みをするんだな」
「違うよ。美少女だからこそ、だよ」
きっと、今を失うのが怖い、という意味だろう。得たものを失うことが怖いんだ。僕だってて、紫苑という人間を失わないか、怖い。想像するだけで生きていけない。
「記憶をリセットして、紫苑と1から生きていきたいな」
「無理だよ。思い出は消えないし、私達がしたこと、言ったことは絶対消えない。いい思い出も、悪い思い出も、私達は一生共有して、生きていくの。未来に抱えた不安も、いっしょに抱えなが」
紫苑が薄く笑って言う。一生。重い言葉を軽く使うのが、紫苑らしい。
「僕達、月みたいに、いつまでも存在を示せるかな」
「月も、月単体なら何者でもないただの惑星。それと同じで、私一人なら無理だけど、瀬戸君かいてくれたら、私はずっと輝ける。逆に瀬戸君も、私がいればずっと、輝ける。こうやって依存して、お互いのアイデンティティを守って、存在を示して生きていくの」
私達はどうしたって、生きていくしかないから。と小さく言う紫苑。生きることへの葛藤は、どうやったって消えない。紫苑みたいな人間でもそうなんだから、きっと、皆がそう。
「月がキレイだね」
紫苑が今度は、何でもない、普通の笑顔で言う。ただし、作られた笑顔ではない、純心無垢な、笑顔。
「そうだな」
「今度は、現実のせいで汚く見えないね」
「今の状況が、夢みたいだからな」
二人で並んで座って、月を見る。
この夜があと何度続くかなんてわからないから、今一瞬を、特別に生きる。
そうやって生きる人間じゃないと、未来も楽しめないんじゃないか?なんて思う。
団子を食べる紫苑を見つめる。
今、哀れでも何でもないのに、愛おしく思えた。
僕もどんどん、紫苑に依存していってる。
どちらかを失いそうなとき、ホントに僕達は一緒に死ぬだろう。
紫苑と一緒に死んだって、未来は何もわからないのに、安心するだろうな。
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