修学旅行の班決めは、ただの戦
「9月29日はなんの日でしょうか!!」
寝起きそうそうに、僕に叫ぶ美少女。傍から見れば羨ましい光景かもしれないが、そうでもない。美少女ってだけで、パワーが湧いてくるのかな。
学校に軽く化粧をしてくる人なんかもいる中、今日もすっぴんで元気いっぱいの紫苑。別にすっぴんを批判してるわけじゃないし、化粧をすることに肯定も否定もない僕は、この美少女をぼーっと眺める。やっぱりすごいや、こいつ。
「知らないよ。紫苑の誕生日ってわけでもないだろ」
そういえば、紫苑の誕生日を聞いたことがない。教えられたこともないから、僕が覚えてないわけじゃないと思うけど。
「今日はなんとね、月見の日だよ!」
そう言って手に持っていた食パンを、わざわざ立ち上がって豪快にかじる。なんの演出だよ。
「つまり、部活あるってことか」
「そういうこと。週一のミーティングですら幽霊な私達もなんと、参加出来まーす!」
もういっそ、僕達部活やめたほうがいいんじゃない?
ミーティングに全く参加しないのにイベントだけ来るのは、ただの迷惑客。ちなみに紫苑には、全くそんなつもりはない。本物の自己中だから。
「白川先輩!いつか私も連れてってください!」
どこに連れて行くんだよ。心の中でそうツッコむけど、口に出しては言えなかった。
「カオルちゃんも高校生になったらいいよ〜」
カオルは中2。僕達は高2。だから一緒に高校生なんてありえない。相変わらず、紫苑は適当。
「で、月見って何がいるんだよ」
少し考える紫苑。今考えるなよ。
「団子と、それと私への愛情でよかったはず」
「元々愛情はあるから、あと団子だけだな」
そう言うと、妹と紫苑の顔が赤くなる。哀れな美少女の方はわかるけど、妹は関係ないだろ。
「お兄ちゃん、朝から恥ずかしいこと言わないでよ」
「言い出したのは紫苑だけどな」
言われた紫苑の方は、まだ固まってる。いつになったら慣れるんだろう。もう付き合って半年になるのに。
「とりあえずさ、学校行く前にお団子買っていこ!!」
紫苑はあれから天体観測にハマってか、部活になるとテンションが高い。それでもミーティングには断固として行こうとしないけど。自由奔放で、普通なら人生楽しそう。
それで、僕達は団子を買って学校に行った。
「今度の修学旅行の班分けをしたいと思います」
もっと大事なイベントが待ってたじゃないか!!紫苑言えよ!!
こっち見て「ごめん」みたいな顔してやがる。
班分けは男子3、女子2or3で組むらしく、全て自分たちで組めとのこと。
乱闘が始まりそうな雰囲気。紫苑争奪戦。男子全員からさっきを感じる。今紫苑に話しかけようものなら、間違えなく、殺られる。
「ミミ〜マイ〜、同じ班なろ〜」
紫苑の班の女子があっさり決まった。何故か、盛り上がるはずの班決めは、糸を張ったように静かである。ものの見事に異様な光景。ナニコレ珍百景に投稿したら、間違いなく、採用。
「瀬戸、俺らと組もうぜ!」
木村と須藤。
「あぁ、勿論!」
ボッチ回避!ボッチ回避!ボッチ回避!うおおおおおお!!!
皆が皆、お互いの様子をうかがっている。誰がまず、紫苑を誘うか。断れれば公開処刑、そして、誰ともそいつとは班を組まない。命がけである。
「白川、俺らの班と組もうぜ」
木村が行った!!勇者だ!!だが、だがしかし、これは懸命な策だ。
「お!いーよー!」
僕がいる限り、紫苑が断ることはないから。え、なら僕が誘えって?
嫌だよ。まだ死にたくない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
男子が、撃墜されたかのような声で叫ぶ。そして、頭を抱えて苦しみだす。怖すぎるだろ。バイオテロかよ。
「おい木村!お前、俺と班変われ!」
「須藤!お前そこじゃなくていいだろ!」
「瀬戸どけよ!!」
乱闘勃発!怪我人必至!
「まぁまぁまぁまぁ、待ち給え、諸君」
紫苑がいつの間にか教卓に立ち、皆をなだめる。表情はウザいけど、ナイス!
「クイズで正解した班に、私の班と組む権利を与えよう。それでどうだい?」
「うおおおおおおおおおお」
言い方が、癪。何が美少女だよ。皆を手玉に取って楽しいかよ。
「第一問!3つの中から、私が一番好きなものを選べ!
1.セロリ
2.ポップコーン
3.パフェ
さぁどれだ!!」
セロリ選んだやつとはもう二度と関わらないんだろうな〜〜、なんて思う。というか、この中でポップコーンちゃんと選べるやつがいったい、何人いるのか。
で、結果はポップコーンは僕達だけ。セロリを選んだバケモノもいた。誰がこの世で好きでセロリ食べるんだよ。
結局、僕達の班の一人勝ち。紫苑のおかげで負傷者なく終われた。よかった。死人(僕)1とか、全くシャレにならない。しかも、ありそうで怖いし。ちなみに紫苑は、すんごい笑顔。もう、すんごい笑顔。嬉しそうで良かった。
「で、班長誰やる?私やらないよ。須藤やってよ」
「瀬戸にやらせろよ」
「駄目だよ!瀬戸君可哀想でしょ!いいから須藤やれし」
須藤の扱いが雑。多分このままゴリ押されて須藤なんだろうな〜、なんて思う。さらば須藤。
「わかったよ。俺がやりゃーいいんだろ?」
「そゆこと♡」
「副班長は?」
「私やらないよ?」
紫苑はさっきからこれしか言わない。やらないならしきるなよ。
「マイ、行けるよね?」
野球部の監督かよ。
「わかったわかった。どうせ紫苑が言ったらそれで決定なんだから、もういいよ」
で、僕と紫苑が食事係という謎の係り。どうやら、食事の準備のときに駆り出されるらしい。それってだいぶダルくない?
でも、紫苑が二人のやつがいいって聞かないから、諦めた。
あぁ、月見まで、まるで地獄。
係決めも早く終わらせてほしかった。ギャーギャーうるさいし。
月の彼方まで、飛んで行きたかった。
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