全力≠美少女

 私は最強〜♪

 どうも、白川紫苑です。先程、有象無象共に二人三脚で格の違いを見せつけてやりました!拍手!!パチパチパチ〜。

 きっと皆もこれで、瀬戸君のことをもっと評価してくれるはず。いくら私が絡んでるといえど、これは流石に彼の功績も讃えないと駄目でしょ。というより寧ろ、褒められてない姿が想像できない。期待に胸を踊らせながら、クラスの元へ帰った。

「白川さん、超カッコよかった!!」

「流石白川さん!」

「紫苑やっぱり何やっても出来るね〜」

「紫苑サイコー!!」

 等々。マイとミミも褒めてくれた。仲間から褒められるのは、なんだか嬉しい。そして彼が気になって、男子の方を見る。

「瀬戸お前、何白川さんと肩組んでんだよ!」

「なぁなぁ瀬戸、白川ってどんな匂いだった?」

「瀬戸が羨ましいわ。俺も白川と身体密着させたかった」

 こいつら、欲望しかなかった。

 キモいっつーの。

 あ、ヤバい。アイツらをからかいたくなってきた。

「瀬戸君!私達、頑張ったね!」

「そうな」

 目をそらす彼。照れてる照れてる。そしてここまで計算通り……!!

「もっと喜ぼうよ!」

 そう言って私は大胆に、彼との距離を詰める。あ、抱きつきたくなってきた。

 う〜ん。

 流石にそれはまずいかな?

 あ、キスしたくなってきた。

 それは私も恥ずかしいや。

 耳、甘噛みしようかな。皆の前でそっと、甘く、私が彼の耳たぶを噛む。柔らかいんだろうな……。

 あ、これ、いい!!!

 想像して一人で照れる。

 あわよくば彼の耳を舐めて……。

 はっ!!!!

 私は慌てて我に返った。そうだ、今、彼と二人じゃなくて、周りに無像君達がいたんだった。

 状況をよく考えろ、美少女こと白川紫苑!

 彼に一歩近づいた状態でフリーズしてるだけの私。カオスすぎるでしょ。店に入ろうとしてのれんをくぐったものの、ドアの前で固まってる女子高生ぐらいカオス。

「私達、息が合うのかもね!」

 苦し紛れにそれだけ言う。し、死にた〜〜〜。横目で周囲を見ると、嫉妬してるような様子。私は耐えた。でも、代わりに彼が逝った。ごめん、私またいらないことしたかも。

 ま、いっか!

「しお〜ん、一緒に飲み物買いに行こ〜」

「行くぅ〜〜!!」

 マイが私を救う。か、神!!!

 私は飛びつくようにマイの元へ向かった。走って。多分、これが今日一番の走りになるだろう。私予定だと、少なくともそう。これ以上走らされるなら、私はほふく前進したほうがマシ。

「紫苑の全員リレーの番、紫苑以外男の子らしいよ〜」

「へ?」

「他クラスの表、勝手に見てきたらそう書いてあったよ」

 天罰。神は私に慈悲などない。あぁ、神様仏様デンデ様。まだお慈悲が残っておられましたら、大差で負けた状態でバトンを私に回してください。お願いします。お願いします。もう二度と美少女なんて自称しませんので。

 こうなったら流石の美少女様でもお祈りするしかなかった。あ、もう自称しちゃった。

 ま、いっか!

 ほれなのに、私が神頼みしてるなんて露知らず、クラスの有象無象ときたら

「白川頑張れよ!お前なら走れるって信じてるぞ!」

「白川が抜かれるわけねぇだろ!寧ろ抜いてくれるって!」

「白川さん男子まみれの中に自分で飛び込んだらしいよ、器が違う……」

「白川はホントになんでも出来る美少女だよな。マジで尊敬するわ」

 私のライフは0。普段の行いが良すぎるせいで、周りに期待されすぎてる。あぁ、溶けてしまいたい。美少女っていうだけで、なんでここまではやし立てられるのか、理解不能。それでも、それに答えるのが美少女としての役目。

「皆、任せて。私、絶対負けないから」

 クラスが湧く。美少女も、辛いな。


 大歓声の中、バトンがまわっていく。接戦。どのクラスも一歩も譲らぬ戦い。そういうの間に合ってるんで、結構です……。

 私の前の人の時点で、順位は真ん中。レーンに並ぶよう呼びかけられ、灼熱の外に放り出されそうな動物園のゾウみたいに、私はノッソノッソと出ていった。あぁ、憂鬱すぎる。

「白川さん頑張れーー!!」

 という悲鳴にも似た声援が聞こえてくる。私、ただの美少女であって天才じゃない。なんなら、いつも肝心なところでミスる残念な人間。本気で走りたくない。でも、抜かれたくない。私の中に葛藤が生じる。そんな中、現実は時間をくれるはずもなく、目の前までバトンが来ていた。

 私のだいぶ後ろの方に並んでる彼の方を見る。心配そうに、私を見てた。

 そんな顔すんなし。

 自分に苛立つ。なんで私は、心配させてんだろ。やればできるでしょ、私。それなのに全力を出すのがダサいとか言って、葛藤してる。そんなことより何より、彼の前で私は、抜かれたくない。バトンを受け取って、私は久しぶりに全力を出す。


 身体が鉛のように重い。昔はもっと、軽かったのにな。それでも、言い訳なんてしてられない。彼の前で私の、カッコいい姿を見せたい。

 後ろから迫ってくるのが足音でわかる。体格差があるせいで、進路妨害しても多分、すぐ抜かれる。それなら、真っ向勝負。いつでも私はそうしてきたし。

 気づけば、終わってた。誰も抜かず、誰にも抜かれず。私はやっぱり、平凡な人間。何にも為せない、所詮、一人の哀れな人間。

「白川さん、すごいよ!!」

「よく抜かれなかったな!」

 うるさい。私以上に何もない人間の癖に。人を外面で判断するような人間に、私を慰める権利もない。

 悔しかった。

 有象無象共に慰められるのが、癪でならない。

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。

 誰も人がいなかったら地団駄踏んで叫びまわってた。

 結果は4位だったらしい。私は悔しすぎて、涙が出そうだった。

「ほらな。全力で走る練習、しとけばよかったのに」

 彼が私に、薄く笑いかける。

 やっぱり彼には、かなわないや。今私が一番欲しい言葉を、かけてくれる。

「今度から朝、私と全力ダッシュね」

「えぇ!?僕も走るの!?」

 嫌そうな顔をする彼に、なんだか癒やされる。

 慰めなんかより、嬉しいや。

「紫苑もそう悔しがらずに、残りの体育祭、楽しもうよ」

「そうだね!」

 私はまた笑顔を作って、皆の元に戻る。

 どれだけ私、負けず嫌いなんだろ。

 何も響かないのに、私を褒める皆。そうじゃないんだよな〜〜。私の性格をミリもわかってない。

 美少女は、辛いよ。

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