美少女≠体育祭

 変わらぬ朝。起きてリビングに行くと、妹+彼女がいるだけの、なんの変哲も無い朝。

 言うなれば休日だということが、だるいだけ。

「やっほー瀬戸君!体育祭楽しみだね!」

 いつもは眠そうなのに、今日は超ハイテンションな紫苑が待っていた。どこが変わらぬ朝だよ。いきなりしんどいじゃないか。

「おはよう、紫苑」

「お兄ちゃんって、なんの競技出るんですか?」

 紫苑に聞かずに、僕に聞けよ。

「私と二人三脚して、全員リレー走って……多分それだけ」

「白川先輩は何出るんですか?」

「私はね〜、二人三脚に全員リレー、棒旗取りだったかな」

 妹が僕を白い目で見てくる。紫苑の方が運動神経いいんだから、僕より多くて当然だろ。そんな目で見るなよ。

「私も見に行っていいですか!?」

「部活休みならおいでよ」

 ということで、僕の醜態を妹も見に来ることになった。

 憂鬱な日々、増えてくトラウマ、いらない僕の負の遺産〜。


「よぉ瀬戸、体育祭、全く楽しみじゃなさそうな顔しやがって」

 須藤が絡んでくる。暑苦しいったらありゃしない。もう9月中旬なのに。

「お前らが二人三脚練習してるとこ、一回しか見たことなったけど大丈夫なのかよ」

「大丈夫だと思うよ。紫苑がやらかさない限り」

 二人で意気揚々な紫苑を見る。やらかしそうな雰囲気しかない。絶対、何かしらしでかす。あの自称美少女は何を企んでるかわかったもんじゃないから。

「俺騎馬戦出るんだけど、何か応援してくれよ」

 そう話していると紫苑が来た。

「いいよ、私が応援してあげる」

 紫苑のその言葉に、男子共の地獄耳が反応する。ゾロゾロと血に飢えたゾンビみたいに群がってきた。ここを突破するには、美少女:紫苑の圧倒的パウワーが必要。

「しらかわ特戦隊!ファイ!おお!!」

 何が起こったのか、さっぱりわからない。

 紫苑が一人で謎の掛け声をして、一人で気合いを入れる。自体が読み込めず、全員が硬直する。珍しくスベった。

「しらかわ特戦隊!ファイ!おお!!」

 苦し紛れの2回目。キツすぎワロタ。これぞまさに、地獄絵図。顔から火が出そうな程赤くなる紫苑。そりゃそうだ。僕ならもう、とっくに舌を噛み千切って死んでる。

「男子のみんな!一番頑張った人には、私、白川紫苑が、その汗をシルクのタオルで、全身くまなく、拭いて、あ、げ、る」

「うおおおおおおおおおおおおお」

 うるせーーーーーーー。

 耳が壊れるかと思った。優勝したかのような盛り上がり。まだ始まってませんよ!

「そしてさらに、私達が勝ったら、何してもらえると思う?」

「何してもらえるんですか!」

「キッス」

「うおおおおおおおおおおお」

 元気100%。悲しきかな一番頑張った人の選択方法は紫苑に委ねられてるので、どう足掻いて無理。まず名前を覚えてもらうところから始めたほうがいいよ!名指しで選択するはずなのに、まず皆、名前覚えられてないよ!

「それじゃ皆、頑張ろうね!」

「おお!」

 ホントに白川特戦隊が組めそうな雰囲気。紫苑は自分がスベったのを誤魔化すので精一杯らしくて、もう既に疲れていた。

「結構誤魔化すのに無理したな」

 僕が言うと、不敵な笑みをした。もうバレてるから余裕ぶらなくていいのに。哀れで可愛い。

「私達も、二人三脚頑張ろうね!」

 無邪気に笑う紫苑も、それはそれで可愛かった。


「じゃあ瀬戸、二人三脚頑張れよ」

 地獄のような開会式といくつかの種目を終えた後、僕達の番になった。須藤と木村に応援される。

「頑張るよ」

「白川さ〜〜ん!!」

 キャァァァァという、女子の声援というより悲鳴が聞こえる。紫苑って、女子にも人気なんだな。

「瀬戸っちも頑張れ〜」

 マイさんなミミさんは割と近くにいた。

「紫苑って、女子にも人気なんだな」

「可愛いって、大変だよ?」

 紫苑が自信満々に言う。

「勝とうな」

「私達の愛の力、見せてやろうよ」

 不敵に笑う紫苑の期待に答えようと、僕も気合いを入れる。紫苑が何かやらかさない限り、大丈夫。


 多種目リレーなだけあって、僕達の二人三脚までに色んな人が走る。で、その間に麻の紐で結んだ後、紫苑が、作戦会議をするとか言い出した。

「まず、ポージングからスタート」

 もう既に嫌。紫苑一人がやるならまだしも、仮にそれでミスしたら、紫苑は笑って許されて、僕は血祭りにされた挙げ句吊し上げられ、十字架を背負って川にダイブコースまっしぐら。紫苑の美少女パワーが憎い。それをやって許されるのは紫苑だけだと、理解してほしかった。

「絶対やらないからな!」

「やほうよ!どうせ私達ほど二人三脚が完璧な人なんていないだろうから絶対追いつけるし!」

「やらないから!」

「私が止まったら、瀬戸君走れないよ?」

 うっ。二人三脚の悪いところが出た。最悪。

 ほーら。紫苑がやっぱりやらかした。

「何するんだよ」

「キスしようよ」

「絶対やらないから!」

 そう言うと紫苑がゲラゲラ笑う。

「わかったよ、諦めてあげるよ!」

 冗談でそんな必死なんなし〜、と笑う紫苑。こっちの身にもなってほしい。地獄だぞ、地獄。レースが終わってクラスのところに戻れば天国行きだけど。

「お、バトン来るよ」

 二人で待機する。僕がバトンを受け取る役。距離は100m。

「私は左足からだよ!」

「わかってらい!」

「今日調子いいから、8割ぐらいまで行けそうだよ!」

「合点承知!」

 前は3チーム。

 届いたバトンを片手で受け取り、紫苑が左足、僕が右足を同時に出す。

 同じ道を、二人で走る。

 周りが「1!2!」なんて言ってる中、僕達は無言で走る。ほぼ、全力疾走。

 それでも、僕達がコケることはない。

 ずっと同じ道を歩いて、同じ道で生きてきたから。

 ここから先、僕達が違う道を歩むことなんて、ないだろう。

 これからもずっと、一緒の道を、歩を同じにして、懸命に、生きていく。

 二人で風を切るのが、気持ちよくて。

 残り50m、紫苑に合わせるのが気持ちよくて。

 終わりが近づくのがなんだか、寂しかった。

 気づけば3チーム全員抜いていて、先頭だった。

「先頭の景色は譲らない!」

 なんて紫苑が呟く。ちょっと笑いそうになった。そうやって余裕ぶるなし。

 バトンを渡して、僕達の番は終わった。

 気づけば大差。

「ほらね!私達なら、勝てるっしょ?」

「そうな」

 結局、僕達の功績もあって、多種目リレーは1位だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る