日常と体育祭

 →白川先輩と誰かが揉めてるとこ見ちゃったんですけど、大丈夫だったんですか?

 瀬川からのメッセージ。そっかー、見ちゃったかー。

 →大丈夫だよ。紫苑が自分で解決するって言ってたし、後は任せることにした

 なんて、聞かれてもないことをホイホイ答える僕。

 →それならいいんですけど……。先輩のこと、よろしくお願いします

 それを読んで、携帯を閉じた。

 紫苑なら多分、大丈夫。なんだかんだ、なんでも完璧にこなす人間だから。僕も紫苑を信じてる。


「体育祭の二人三脚の練習、体育の時間にもう一回やって、前日にもう一回やろうよ」

 数日後。体育祭3日前。あのことが無かったかのように元気な紫苑が言ってきた。その後南さんともなんともないし、多分、解決したと思っていいのだろう。聞くのも野暮だと思って、紫苑から言うまで何も聞かないことにした。

「いいよ。僕もそう思ってたし。せっかくなら、勝ちたいよな」

「Yes!we can do it!」

 なんて、登校中に叫んでる紫苑。朝からテンション高すぎて、なんだかウザい。


 体育祭前日。天文部に設営の仕事なんてあるはずもなく、僕の家で二人で季節外れのそうめんを食べ、公園に来ていた。

「めっちゃ練習して、本番緊張するの、中学以来だよ」

 紫苑でも緊張なんてするんだな。

「僕も。なんだか、練習ってすればするほど不安になるよね」

「わっかるー!」

 おーもしろい!

「まぁそう気負わずに行こうよ!ほら、多種目リレーだからころんだところで笑って終わるって」

「そうな」

 とは言いつつ、それでいいのだろうか。なんて思う。

「さ!体育のときは上手く行ったし、今日も上手くやろうよ!」

 相変わらずどこから取り出したのかわからない麻の紐で、いや見た目は縄で、僕達の足を結んだ。


「いや〜〜、疲れたね」

 一回もコケることなく走りきった僕たち。人生もこうだったらいいのに、なんて思う。どうせコケるから、期待なんてしても無駄か。

「もう足上がんないよ」

「私、瀬戸君と肩組みすぎて身体が覚えちゃったよ」

「僕も」

「なんかえっちだね」

「そうはならんだろ」

「なっとるやろがい」

 こんなしょうもない、他愛もない会話を繰り返す。全てが日常に戻ったみたいで、なんだか安心した。こんな日がずっと、続けばいいのに。

「南とはね、結局和解したよ」

 紫苑が唐突に、切り出す。気分屋って恐ろしいよね。

「私のこと散々殴って、瀬戸君に言われて振られて、やっと我に返ったみたい。あのあともちょっとだけ揉めたけど、結局謝ってくれたよ」

 それなら、良かった。ずっと揉めたままだと、僕まで気まずい。それに何より、事態が悪化しなくて良かった。紫苑がまた殴られたとかになったらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしてたし。

「なら、一安心していいってこと?」

「そうだね。南さんと私達が関わることはもうないだろうけど、ひとまず、そういうこと。ごめんね」

「紫苑が謝ることじゃないよ」

 詳しく聞くと、とりあえず二人で話し合ってみたとか。振られて頭が冷えて、いったい自分が何をしたかを理解したらしい。それで、紫苑と事実確認をした。

「私は自分のことしか考えないで、周りの人の気持ちなんか考えないで、利用するだけ利用した。勝手に私が白川さんに押し付けたことを実は私が、周りにしてたって、やっと気づいた。ごめんなさい。白川さんの顔を殴って。瀬戸君を悪者にしようとして」

「気にしなくていいとは言えないけど、わかってくれたなら、それでいいよ。ひなちゃんとは良い友達になれると思ってたけど、残念だよ」

「恋愛って、難しいですね」

「そうね」

「瀬戸君を、幸せにしてあげてください」

「まぁ、任せときなよ」

「私は影から、見守っています。どうか、お幸せに」

 なんて会話をしたらしく、紫苑が一人二役で演じてくれた。盛られてそうだけど盛られてなさそうな微妙な話で、流石の僕でも判別出来なかった。紫苑曰く盛ってないらしいから、まぁ、信じるか……。

 そして須藤からも、僕にメッセージが来ていた。

 →白川から聞いたか?

 →聞いたよ。

 →すまなかったな。勘違いと言えど、お前らの仲を引き裂くようなことして

 →気にしなくていいよ。僕のためを思ってくれてたって、紫苑から聞いたから

 →ま、体育祭、お互い楽しもうぜ

 →そうな

 須藤も、体育祭が楽しみらしくて、なんだか安心した。須藤はホントに、特に悪いことをしてるわけじゃなかったからもう二度と〜とかそういうのも嫌だった。ずっと僕の、いい友達で、いてほしかった。


 →瀬戸先輩、白川先輩と二人三脚出るって、マジですか?

 珍しくよく、瀬川からメッセージが届く。「前夜祭だー!」なんて勝手にはしゃいでる紫苑と晩ごはんを食べながら、メッセージを返す。

 →まじだよ

 →白川先輩、絶対張り切ってますよね

 →「私の名を言ってみろ」とか言ってたよ

 →白川先輩ってたまに漫画のネタ使いますよね

「ちょっと瀬戸君。彼女の後輩とばっかり喋って浮気ですかぁ?」

「そんなんじゃないよ」

「浮気したら、北斗百裂拳だからね」

 紫苑の百裂拳を想像して、ちょっと笑う。シュールすぎるだろ、必死でパンチする美少女って。哀れで可愛い。

「北斗百裂拳って、実際は155発打ってるらしいよ」

「詐欺じゃん」

「一回で倒せる相手に155回もわざわざ打つって面白いよね」

 僕達、何の話してんだよ。

「二人三脚も、どれだけ離しててもさらに離せるといいな」

「愛が違うからね。愛が」

 恋ダンスでも踊ろっか!なんて紫苑が言う。もしかして、酔ってる?

 あ、通常でこれか。

 ホントに踊ってる紫苑を無視する。

「ポージング練習したいね」

「いらないよ」

「あれがいい。ギニュー特戦隊の、ギニューとジース以外やられて、二人だけでポーズ取るけど不揃いってやつ」

 どれだけのマイナーシーンなんだよ。しかもそれを、一人でやろうとしてる。勝手にやらせればいっか。これもなんだか平和でいい。

 誰だよ、夏休み入ってすぐ、何か起きないと暇だとか言ってたやつ。

 この状態が一番じゃないか。

 体育祭、楽しみだな。

 横のイカれた美少女は、もう現時点で楽しそうだけど。

 そんな未来に期待して僕は、紫苑の横に立ってポーズを決めた。

 平和より何より、紫苑の明るい顔が、一番良かった。

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