闘争≠美少女
「木村君に聞きたいことあるんだけど」
休み時間、ひっそりと木村君を呼び出す。
「なんだよ」
「昔のこと掘り下げるみたいで悪いんだけどさ、私に告白しようと思ったのって、なんで?」
「なんでって、好きだったからだろ」
照れたように言う木村。彼と違って可愛いな〜、なんて思うことはなかった。しょうもないことで私は彼が好きなんだと再認識する。
「そうじゃなくて。ある程度行けると思ったから告白しようと思ったと思うの」
「あ〜。それは、白川が俺のこと好きだっていう噂を聞いてよ」
やっぱり。そんなことだろうと思った。
「わかった!それが聞きたかったの。ありがと」
木村は何が何だか分からないみたいな顔してたけど、どうでも良かった。私の中で、だいたいの情報は揃った。
この話と委員長の話を照らし合わせて、私の中でストーリーを作る。筋は通っていることを確認。我ながら珍しく、頭がよく回る。何かを為せる程の人間じゃないけど、私は私の持ってる力を全て使う。それだけで彼一人なら、守れそうだから。
➝放課後、話したいことがあるんだけど
私からメッセージを送る。
➝珍しいじゃねぇか
返信が来た。
➝放課後、屋上で待ってる
➝二人でか?
➝二人で
争い事は私も嫌い。それに、私は力が弱い。襲われればもう、逃げる術はない。だけど私の身体一つで交渉出来れば、彼を守れるかもしれない。そこまではされないなんて甘い期待は今のうちに投げ捨てておく。
「ごめん瀬戸君、私放課後ちょっと用事あるから一人で帰ってくんない?」
「いいけど、珍しいな」
「あれ、寂しいのぉ?」
「そんなんじゃないよ」
そういう彼を見送って、私は天文部の権力で屋上の鍵を手に入れる。彼は影の薄さで、私は天性のコミュ力で、教師が私達を疑ったりすることはなかった。
「なんだよ、白川が俺を呼び出すなんて。浮気は推奨しねーぞ」
「似たような話ではあるけど残念ながら私は浮気なんてしないよ」
一息で言う。私が緊張しているのがわかる。
もう私は一つ、ミスを犯してる。私が出口側に立っていないこと。何かあっても、これじゃ逃げられない。屋上なおかげで現実からは逃げられそうだけど、彼を置いて私一人現実から逃れるわけには行かない。行くなら一緒に行きたいから。
「で、何の話だよ」
「私達のこと、別れさせようとしてるでしょ」
「そんなことねぇよ」
「そんなことあるでしょ」
相手が黙る。風だけがなびいてる。彼と委員長も、こんな感じだったのかな。
「木村君が文化祭の日告白したのは、私が木村君のことを好きっていう噂を聞いたからって言ってた」
「それが何だよ」
「あわよくばこれで、私が木村君に乗り換えるかもしれないと思ったんじゃない?」
「だからそれと俺の何が関係あるんだよ!」
「さらにその前、お化け屋敷に入った後、私達を置いてったよね、須藤君?」
「そうだけど、それが何だよ」
ここからが大事。須藤相手に、私がちゃんと上手く立ち回れるか。待ってて瀬戸君、私達のことは、誰にも邪魔させないから。
「あれは仕組まれてた。私達が二人で回っているところを見られたくないと思うはずの瀬戸君は、きっと私と別行動を取るように出ると踏んでた。そうやって、私達を引き剥がそうとしてた」
「言いがかりだろ」
「まだあるよ。プールの日、ここで決めに来たよね。ミミとマイが教えてくれたよ。本来、クラスでプール行こうって言ったのは須藤君で、それなのに来なかったって」
須藤が黙る。私は勘違いしてた。こいつはボケなんかじゃない。考えて行動してる。私達を、引き剥がすために。
「たまたま用事が出来たんだよ」
「そう言ってるけど、今度は最終手段を使ってきたよね。委員長をそそのかしたの、須藤君だよね。振り回されてないって言ったら嘘になるって、瀬戸君は須藤君に言ってた。逆に須藤君にしか言ってない。それなのに、何故か委員長がその話を知ってた。これはつまり、須藤君が言ったんでしょ。完璧な証拠だよ。人の恋心を利用してまでするって、最低」
この後が、重要。私のここまでの推測は、間違ってないはず。これを彼が認めたあと、どう動かれるか。力で来られたら逃げるしかない。私に喧嘩は無理。脅されたら、受けるしかない。相手依存になるけど。
「それで、俺が何の目的かはわかったのか?」
「いつか噂で聞いたことがある。須藤君は私のことを狙ってるって。それなのに、友達の瀬戸君と付き合ってるってあのとき、ひなちゃんに教えられたからこんな行動をとった。だから須藤君は、私達の仲を引き裂いて、というか瀬戸君の自爆を狙って私を手に入れようとした。違う?」
「8割、正解。でも少し違う」
負け惜しみ。私はそう、断定する。
「何が違うのさ」
「よく思い返してみろ。一個だけ、見落としてる」
須藤君は文化祭で私達を置いていくことで、私達を別行動させるように仕組んだ。木村君の告白を誘って、私が浮気するのを誘った。プールで私達が分断するように仕組んだ。
あれ?
須藤はプールに来てない。なら、なんのメリットがあって私達を分断した?
違う。
何かが違う。
何か、私の中でズレてる。
「あ」
いつかに彼と言っていた。
人は思い出したくないことを思い出したとき、何故か「あ」って言っちゃう。
思い出したくない、気づきたくないことが頭をよぎる。
「確かに、俺は白川が好きだった。でも、瀬戸が白川を好きだって聞いたとき、俺はすぐに諦めた。こんなんでも、俺と瀬戸は友達で、俺は瀬戸が友人として大好きだ。だから傷つけたくないんだ。瀬戸はお前といることによって、だんだん狂ってきていた。どんどん、お前の色に染まっていく。それに白川は瀬戸の好意で遊んでるって耳にして俺は、お前と瀬戸を引き剥がそうとしたんだ」
「でも……」
「でもそう、これを踏まえると一つ、違和感のある行動がある」
「須藤君はずっと、私と瀬戸君が付き合ってるって知らなかったってことになる……」
「俺はプールのあと、木村から知ってる体で話されて、お前らが付き合ってるって初めて知った」
私は間違えてた。初めから、全部間違えてた。何もかも、何もかも全部間違えてた。須藤は多分、プールの後で気づいたんだろうけど後に引けなくなったんだ。
よくよく考えれば、委員長のときだけおかしいんだ。私のミスを誘うんじゃなくて、瀬戸君のミスを誘ってる。須藤は絶対、瀬戸君を悪者になんてしようとしない。
私のバカ。
何が美少女だ。
ホントに私は、何もなせない。
でも、彼だけは守りたい。
屋上の鍵を須藤に渡して、私は彼のもとに走る。全力ダッシュなんて柄じゃないなんて言ってる場合じゃない。
私は階段を8段飛ばしてとんで、駆け下りた。
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