惚=美少女

 びっくりしたぁ。

 まさか瀬戸君が叫ぶとは思わなかった。

 瀬戸君って、キレないと思ってたのに。

 私のことになったら、怒ってくれるんだ。

 正直、惚れた。

 元々惚れてたけど、惚れた。やっぱり、カッコいいや。

 委員長が屋上を出ていったのを確認して、私が鍵を閉める。相変わらず死んだ魚の眼で下駄箱で待機してる彼と一緒に帰った。

「私のことだから、怒ってくれたの?」

「そんなんじゃないよ。ただ、苛ついただけ」

 照れたように言う彼は可愛い。より一層彼を好きになって、私は横を歩いてるだけなのに赤面する。私の彼氏がこんな人でよかったな、なんて思う。

「照れなくていいのに〜。私、嬉しかったし。怒ってくれて」

「短気だって紫苑に思われたくなかったのにな」

 彼はたまにしょーもないことを気にする。そんなの私が気にするわけないのに。私も短気だし。

「そんなことで嫌いになる私じゃないのは

 わかってるでしょ?」

「そうな」

「委員長、ちょっと可哀想だったからフォローして上げなよ。私がフォローしたらただの嫌味になるし」

「そもそも紫苑がフォローするのは意味分かんないよ。だって、あの場にいない設定だし」

 あ、そっか。忘れてた。

「瀬戸君のどこが好きなんだろうね」

 彼女の私が聞くことじゃないってわかってるけど、不思議に思った。瀬戸君の魅力は、関わってみないとわからない。だからこそ、どこが好きなのか気になる。委員長が瀬戸君のどこを好きかなんて私にはどうでもいいけど、ただ、人の恋愛観が知りたかった。

「きっと友達いないところだよ」

「いないといいの?」

「浮気しにくいらしいよ」

 瀬戸君は友達増えようが浮気するような人じゃないのに。多分、そういう理由じゃないだろうけど。

「瀬戸君って、容姿だけで見たら誰が好きなの?」

 珍しく容姿面の質問をするのにも、意味があった。ミミとかマイも、正直可愛い。トータル的な面で見ると、多分、私より可愛い。

 私は美少女なだけで、他は何も持ってない。特段何かに才能が秀でているわけでもなく、何かが出来ないわけでもない。何にも興味ないし、何に対してもやる気が出ない。

 見た目以外、全部欠損してる。

 だから、私のことが羨ましいって思ってる人は全員、外面しか見てないってこと。マイやミミは多分、内面まで見てると思うけど。

 だからこそ、内面でも好かれつつ、外面でも好かれたかった。私にしては、珍しい。彼にだけ特別。

「外面だけでも紫苑かな」

「彼女だからとかいうエコヒイキなしでいいよ」

「そんなのしないよ。しなくても、紫苑が一番可愛いと思う」

 昔は「可愛い」って言うだけで赤面してたのに。育ったな〜、なんて感動する。気分は恋愛初心者男子高校生育成ゲーム。こんなこと思ってるから委員長に振り回してるだの遊んでるだの言われるんだろうなー。

「めっちゃ嬉しいところ悪いんだけど、瀬戸君は別に容姿はそこまでだよ」

「わかってるよ」

 とか言いながらちょっと残念そうにしている彼を見て笑う。私、性格悪。

「でも、内面は世界で一番好きだよ」

「そりゃどうも」

 知ってますよ、と言わんばかり。

 それでもこれでも、ホントは照れてるのに隠してるのをわかってるから、これでいい。


 隠してるといえばそう、彼はきっと、私のことを過大評価してる。

 私は、本気で、他人の意見を気にしていない。

 だから心底どうでもいいと思ってて、悪口を言われようが嫌味を言われようが、全く気にしていない。多分彼は「紫苑は繊細だから〜」とか思ってるだろうけど、繊細だけど他人に興味もないから何も思わないんだよね。

 風で飛んできた石が肩に当たってガチギレする人なんていないでしょ?

 それと同じ。

 それでも、彼の中で過大評価されてるのはなんだか嬉しい。私を見て、私をより、気づかってくれてるんだし。

 こういうところで、あぁ、好きだな、って思う。

 そして、また委員長と彼のやり取りを思い出して悦に浸る。で、一人でニヤニヤする。

 彼に白い目で見られた。

「何さ」

「別に?」

「彼氏のカッコイイとこ思い出してニヤけちゃ駄目なわけ?」

 ちょっと照れたように顔を背ける彼。いいよいいよ、可愛いよ〜〜。

 まずい、さっきから私、デレデレしかしてない。美少女としての風格を取り戻すため、自分の中でちょっと気合いを入れる。何の気合いかはわかんないけど、気を引き締めた。

「委員長のこと、もう瀬戸君に任せて大丈夫だね!」

「どういうことだよ」

「私が心配しなくても、全然浮気なんてしなさそうってこと!」

「そうな」

 彼はなかなかの私狂いだから。

 それが今日、よくわかった。

 だから放っておいても大丈夫。

 ちなみに私は狂ってる人が好き。

 ささ、委員長は放っておいて、私は私のやらなきゃいけないことが見えてきた。

 委員長の言っていたことをよく思い出す。

 確信を得たくて、南に連絡する。

 南は皆と仲がいいから、きっと情報を持ってるはず。その情報を使って、ミミとマイにも協力してもらう。

 いつもは彼に任せっぱなしだけど、今回は一人でやる。彼は気づいてないから、彼にも、バレないように。

 私一人の戦い。

 美少女、いっきまーーす!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る