美少女≠敵対 2

「それでさ〜、瀬戸っちと紫苑っていつから付き合ってんの?」

 ミミが聞いてきた。瀬戸っちって言うのがなんだか痒い。

「2年始まる前ぐらいからだよ。私達、そもそも話し始めたのが夏休みぐらいだから」

「やっぱり紫苑の相手って大変?」

「死ぬほど大変」

 彼女達もなんだかんだ紫苑には手を焼いているらしく、そんな話で盛り上がる。

 意外と楽しいかも?

 木村以来の友達でちょっとテンションが上がってくる。

「瀬戸と紫苑って二人三脚やるよね。練習しようよ」

「私達のパウワー、マイ達に見せてあげるよ」

 そう言ってどこからか取り出した麻を取り出す。

「見て、麻とアサゴロモの共有結合」

「紫苑と紫苑も共有結合させてあげようか?」

 そんなマイさんの冗談を無視して、さっさと結び始める紫苑。

「じゃあ、左足から行くよー!」

「わかってるよ」

 一歩同時に踏み出して、もう一歩も同時に踏み出す。徐々に加速していって、前練習した通りのスピードぐらいでは走れていた。流石紫苑。練習したらもうミスしない。するなら僕だけ。

「瀬戸っちと紫苑の愛の力だね〜」

「そんなんじゃないよ」

「え!?そんなんだよ!これが私達の愛の力!」

 あーいを、とりもどーせ〜〜。なんて言ってる。取り戻すどころかもうあるだろ。

「ていうか、大声で言ってて大丈夫なのかよ」

「あ、大丈夫だよ。瀬戸と同じで私達、浮いてるから。どうせ会話なんて誰も聞いてない」

 さらっと僕は浮いてるっていう新情報「織り交ぜてきた。そっちのほうがショック。

「ていうか、ミミとマイが浮いてるほうが意外」

「そうでもないよ。勉強してないし、提出物も出さないし、ずっと寝てるから。紫苑は容姿がぶっ飛んでるから浮いてないけど」

 ていうか、紫苑はある意味で浮いてる。可愛すぎて。一人だけ、レベチ過ぎて。

「ていう紫苑、委員長に睨まれなかった?」

 マイさんが聞く。

「なんで?」

「だって委員長、瀬戸のこと好きじゃん」

「えー!」

 えー!

 全然知らなかった。

「それまじ?」

 ミミさんもビックリしてる。

「噂で聞いたことあるだけだけど。瀬戸さっき、委員長となんか話してなかった?」

「話してたけど」

「紫苑があの真面目ちゃんグループに一歩距離置かれてる理由、瀬戸のこと委員長が狙ってるかららしいよ」

 女子の情報網こえーーーーー。

 木村からはそんな話全く聞かなかったのに。

 ビックリした。

 あれ?

 これって僕、もしかしてモテ期?

 紫苑と僕、もしかして立場が、入れ替わってるぅー!?

「は?」

 紫苑の圧。立場なんて入れ替わっていませんでした。すみませんでした。

「ちょ、紫苑?」

「瀬戸君、委員長と話すの禁止ね」

 紫苑こわー、なんてミミさんも言ってる。やっぱり皆、紫苑には怖がってるんだ。


 それから紫苑のつきっきり生活が始まった。休み時間も、僕の横でミミさん達と話してる。

「瀬戸っていつの間にか友達増えたよな」

 須藤が休み時間、何気に話しかけてきた。話しかけてくることはいいんだけど、僕の机に座られるのだけは気に食わない。

「そうな」

「最近どうよ」

「何の話だよ」

「白川に相変わらず、振り回されてんのか?」

 ニヤニヤしながら聞いてきた。そういえば須藤も、南さんから聞いてた。こいつはホントにポロッと言いそうで怖い。

「振り回されてないといえば、嘘になるな。別にいいんだけどな」

「ふぅーん。お前は嫌じゃねぇの?」

「別に、嫌じゃないよ」

「なら、いいんだけどよ」

 座っていた机から降りて、自分の席に戻っていった。須藤も須藤で話し相手が僕ぐらいしかいない。女子人気はあるけど、南さんという彼女がいるから誰も狙えない。


「瀬戸君、少しいいですか?」

 休み時間。紫苑がいなくなった隙を見計らって、委員長が話かけてきた。最近、話かけてくれる人が多くて、疲れる。嬉しいことだけど、なれない僕からしたら地獄。あ、チョコレートが食べたい。身体が糖分を欲する。僕の脳もキャパオーバーを迎えたらしい。

「良くはないけど、なにか用?」

「実はちょっと話ししたいことが……」

「ここでならいいよ」

「なら、また今度話そ」

 そう言って、そそくさと逃げるように離れていった。紫苑が帰ってくるからだろう。そんなに紫苑に怖がるなら、何もしなければいいのに。僕なんかじゃなくて木村とか狙ったほうが絶対いい。

 あ、わかった。

 僕みたいな話さない人の方が付き合えると思われてるのか。それはそれで癪。

 ➝他の方から連絡先もらった

 そんなことを考えてるとメッセージが来た。

 で、丁度紫苑が帰ってきた。こんなの送られてるってバレたら殺される。

 その後も携帯は震えてたけど、無視し続けた。


 ➝放課後、時間くれない?

 紫苑に見せて、許諾を得る。

 近くで紫苑も待機するらしい。僕が間違っても浮気しないかどうかをちゃんと確認するとのこと。するわけないのに。なんでこんなに哀れなやつを手放すんだよ。

 ➝いいよ

 待ち合わせ場所は屋上。天文部の権限で鍵を持ち出し、僕が開ける。紫苑も先に入っておいて、裏で待つ。

「それで、話ってなんだよ」

 現れた委員長に僕は聞く。正直、苛立っていた。

「白川さんに振り回されてない?」

 またそれかよ。紫苑の何も知らないくせに、勝手に紫苑を知ったような口ぶりで僕に警告してくる。一回目でも嫌気が差したのに、またこの話。

「振り回されてないよ」

「他の人から振り回されてるって聞いた。それに瀬戸君が可哀想な目にあってるって。だから頼って!委員長の私なら、白川さんから守れるし瀬戸君を助けられる」

「だから振り回されてないって言ってんだろ!」

 沈黙。張り詰めた空気。強い風が僕達を襲う。もう、肌寒いような天候になってきていたけど、そんなことは今、どうでも良かった。

「わかったらもう、口を挟まないでくれ」

「瀬戸君は白川さんに利用されてる!白川さんはそこまで悪い人ではないけど、知らず知らずのうちに瀬戸君を利用するようになってる!今回だってそう!瀬戸君は、それでいいの!?」

「僕の意思だ。ほっといてくれ」

 委員長をおいて、屋上を出る。これ以上は、限界だった。紫苑が悪く言われるのが、耐えられない。僕の紫苑を、他人が知ったような口で言う。そうやってまた、紫苑を闇に突き落とす。ただでさえ人間不信な紫苑を、この名前も知らないような人間は、ただ「委員長」というくだらない役職と権限で、勝手に悪者と認定する。

 くだらない。

 くだらない。

 くだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらない。

 こう言う人間が、世間からは評価される。

「心配だから声をかけました」

「あの子は悪い子だと思うので止めました」

 勝手なことすんなよ。

 人のことをわかった気で、人のことを上っ面だけで見て、紫苑のことを貶して。

 何が偉くて紫苑を傷つけるんだ。表面上は気にしないフリしてても、紫苑は多くの意見を耳に入れてる。それで、人と同じように傷ついてる。ただそれを、表に出さないだけ。心のどこかに埋めて、無視しようとしてるだけ。

 ホント、美少女ってすごいよな。

 妬みも僻みも、全てを受け入れて、それでいて、受け流す。

 僕には、無理だ。

 紫苑が少し悪く言われたぐらいでこれだから。

 あぁ、僕が一番、狂ってるのかもしれない。

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