美少女≠敵対

 体育祭練習のとき、紫苑に全員リレーの交代を頼まれたとき。紫苑の順番を見ると、最後から4番目だったので、なんとなく察した。

 紫苑は色々とご褒美を用意してくれたけど、そんなの無しでも変わってあげていた。

 最初、紫苑が死ぬほど嫌そうな顔してたから、アンカーの前とか一番目かと思って、僕も死ぬほど嫌な顔をした。でも、取り越し苦労だった。飲み物も紫苑が分けてくれるそうなので、ないお金を出さなくてすんだし。

 それに、何も言わなくても変わるのに、必死な顔してお願いする紫苑が哀れで可愛かった。

 それで、順番の確認も済んで僕も木村のところに戻ろうとすると、委員長の女の子に止められた。

「何?」

「白川さんに、嫌々やらされてない?」

 紫苑と僕の間の話に首を突っ込まれて、いやそれより紫苑に対する悪口を言われるような気がして、ちょっとイラつく。僕も大概、紫苑に依存してるな、なんて思う。

「嫌々ではないよ。別に僕、どこでもいいし」

「白川さんに引っ張り回されて、瀬戸君が嫌がってるんじゃないかって私、心配で」

「白川が僕をこき使ってるって言いたいってこと?」

 出来るだけ無表情に、冷静に答える。確かに引っ張り回されてるのは事実だけど、こき使われてると思われるのは違うと思う。僕も紫苑も、お互いで成り立ってるから。

「そうとまでは言わないけど……。何かあったら私に相談してね」

「わかったよ」

 呼び止められたせいで、木村が大勢の輪に戻っていた。僕にとっては数少ない友達の一人だけど、木村にとっては数多の友達の一人。

 価値観がまるで違う。

 だから僕にとっては、木村一人いなくなることで大ダメージ。須藤は南さんと話してるし。仕方なく、一人でぼーっとすることにした。


「何暇してんのさ」

 寝転んだら流石に怒られるから、一人で運動場をぐるぐるするヤバイヤツになっていると、紫苑が話しかけてきた。紫苑の友達も一緒にいるけど。

「やることなくてな」

「私達も暇つぶしに話してるし、こっちおいでよ」

 紫苑に誘われた。

「えっと……」

「紫苑がいいなら私らもいいよー」

 紫苑の友達もいいと言ってくれたので、混ざることにした。ちなみに死ぬほど気まずい。

「紫苑と瀬戸君って仲良いよね〜」

「別にそこまで喋ってないと思うけど」

 そんな会話が聞こえてきて余計、気まずくなった。


「瀬戸っちってクラスの誰と仲いいの?」

「木村と須藤、あと南さんぐらい」

「あー、たまに南と話してるの見るわ」

 何これ尋問?

 話したことのないクラスの女子と友達いるかどうかの確認。謎。ボッチの晒し上げ。

「紫苑と仲いいの?」

「白川とは、南さん経由でたまに話す」

「えー、私達、仲いいじゃん」

 紫苑がいらないことを言う。

 いや確かに、紫苑がそういうツッコミを入れたいのは理解できるけど、ここは我慢してほしかった。

「ぶっちゃけ紫苑って、瀬戸のこと好きなの?」

「へ!?」

 普段は好きだ好きだって言ってる紫苑が、他人に聞かれたら顔を赤くする。同様する紫苑はレア。

「え、マジで瀬戸のこと好きなの!?」

「違うよ!何いってんのさ!」

「瀬戸〜、紫苑がこんなこと言ってるけどどう思われます〜?」

「白川が僕を選ぶとは思えないんだけど」

 周りから見れば本当にそのとおり。間違えなく、そのとおり。否定する要素が全くない。

 勝った!!

 だがまだだ……まだ笑うな……。

「そもそも、僕なんか選ぶぐらいなら木村を選ぶだろ。運動もしてないし、勉強が出来るわけじゃない僕を選ぶのは合理的じゃないよ」

「なんか否定されすぎて逆にマジに見えてきた」

「そそそそそ、そんなことないよ。私と瀬戸君が付き合ってるなんて、そんなわけないじゃない!たはー、勘違いも困りますなぁ〜」

 紫苑のいらない援護射撃。

 ホントにいらない援護射撃。

 怪しまれる一方。紫苑も「やらかした?」みたいな顔でこっちを見てくる。

 おい、こっち見んなよ!見たら余計怪しいだろ!それに付き合ってるとか付き合ってないとか話してるのに「付き合ってるわけない」って急に話題だしたら怪しすぎるだろ!

「ごめん、二人ってもしかして、付き合ってた?」

 ほらぁぁぁ。

 どこのホラー映画だよ。彼女のせいで高校生活を破壊されてる。現状、全部紫苑のせい。

 そこ、開き直りたそうな顔でこっちを見るな。

 万事休す?

 って言ってる紫苑の声が聞こえる。

「こうなったら、拳で決めるしかないね」

 何をだよ。

「紫苑って誤魔化すの下手だよね〜、瀬戸君、苦労するでしょ」

「そうな」

 僕ももう、諦めた。紫苑のせいで、またバレた。いや、業も二人で背負うか……。あぁ、最悪。行進してるほうがマシ。

「そんな気にしなくても大丈夫っしょ。私ら紫苑の味方だし。誰にも言わないよ。あ、私の名前は安藤美海。ミミちゃんって呼んでね」

「私は冬木麻衣。紫苑からはアサゴロモって呼ばれてたけど最近ようやく覚えてれた。マイって呼んでね」

 勝手にもう付き合ってるところまで話が進まされてたし、僕も諦めた。

「よく付き合ってるってわかったな」

「紫苑がよく瀬戸の話してるからね。好きなのかなー、と思ってたけど付き合ってないって自白したし」

 それは自白じゃないだろ。いや、自白か。

「えっと、マイさんは……」

「マイ」

「マイは……」

「瀬戸君、私以外を呼び捨てするの?」

 逃げ出したい。

 よく男子はハーレムなんてものに憧れるけど、地獄しか待ってない。現実はそう、甘くない。幼馴染と関係が深くなるわけがないのと同じ。

「マイさんがこう言ってるんだし許してくれよ」

「わかってるよ。冗談冗談」

 早く体育の授業終わらないかな……。

 天国にでも逃亡したい。

「マイって、去年もクラス同じじゃなかった?」

「それミミ」

 二人とも顔の整ったロングヘアーだから、どっちがどっちかわかんないんだよ!

「瀬戸君って結構紫苑と似てるね。お似合いだよ」

「そりゃどうも」

 50分授業中の、今でやっと30分。

 僕の地獄はまだまだ続きそう。

 現実って辛い。

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