集団行動≠美少女

「1!2!」

 凡人に向かって〜?

「1!2!」

 体育祭練習の時間。行進の練習。もっと言えば虚無の時間。この私が声なんて出すはずもなく、ニコニコ笑顔で行進する。なんで行進なんてするんだろ。絶対いらないでしょ。

 あ、靴紐ほどけた。

 負の連鎖。

 嫌になってくる。

 男の子は私達女子の前を行進している。彼は背が低い方だからギリギリ見えるかな、なんて思ったけど被って見えなかった。士気が一気に下がる。有象無象が邪魔でならない。ちなみに、私は高いわけでもなく低いわけでもないので真ん中あたり。


「白川さんって球技以外も出来るの?」

「んー、まぁまぁかなー。得意でも不得意でもない」

 各競技の練習時間、私はどこの競技にも属することなく、暇つぶしに転々と回っていた。

 それで、適当に面白そうな競技に混ぜてもらう。

 クラス全員リレーとかいう種目もあるらしいけど、それの練習はまた後日になった。

 それ、男女混合リレーにまとめれば良くない?

 なんて思う。

 私みたいな足が速くも遅くもない人間からしたらただの晒し上げ。というか、私みたいな美少女がいくら男子といえど抜かれるシーンが見られてしまう可能性があるということ。

 これがめちゃめちゃにマズイ。

 私のとしては適当に必死さが出ない程度に鮮やかに走ることが理想。

 だって、私の必死な姿とか見られたくないし。そんなこと言うとクラスの一部の女子にまた「白川さん、全力でやってくれる?」とか言われる。ウザ。

「ねぇ、ひなちゃん。あの真面目女子軍団、また私の悪口言ってなかった?」

「あ〜、白川さんは男子に人気だからって調子に乗ってるって言ってましたよ」

 やっぱりか〜。

 敵ばっかりじゃん。

 だけど、私だってボッチじゃないから、ひなちゃん以外にも仲のいい(フリをしている)子はいる。だからつまり、味方もいる。

 でもその子達は私みたいに黒く染まってなくて、キラキラしてる。

 羨ましい。

「私の友達って、皆何出るかわかる?」

「そこまでは流石にしらない、ごめんね」

「全然おっけー」

 珍しく自分で聞きに行くことにした。

「ねね、皆ってなんの競技出んの?」

「私リレー」

「棒旗取りだよー、紫苑も出るって書いてたじゃん」

 そう、私は棒旗取りも出る。

 美少女だから、3つも出されることになった。

 ちなみに真の理由は、多種目リレーとかいう二人三脚が含まれてる競技にいるから「白川さんは運動神経がいいんだからもう一つ競技に出ろ」と言われて断れなくなったから。

 いったいいつから、私が二人三脚しか出ないと錯覚していた?

 砕けろ、鏡花水ーーーー。

「棒旗取りって結局、何するし?」

「なんか棒の上に乗った旗取るらしいよ。紫苑去年見てなかったの?」

「あー、見てなかったわ。多分トイレ行ってた」

「ま、紫苑はなんでも適当にやってれば運動神経で誤魔化せるっしょ」

 それもそっか。

 あ、待って。

 私部対抗リレーも出るから実質4回出勤じゃん。

 体力が持たなさそうだからランニングしないと。これで彼も朝のランニングに強制参加が決定した。

「てか、私、真面目ちゃん達に嫌われてんだけど理由わかる?」

「あー、それ、私らが原因かもー。前の文化祭でシフト時間遅れてからずっと嫌味言われるんだよね。紫苑関係ないから大丈夫だと思うよ〜」

 あ、そうなのか。ならただの嫉妬か。

 昔からそう。

 私がどれだけ正しいことをしてても偽善だの、人気集めだの、男子にいい顔したいだけだの、妬んでくる。これも美少女としての運命か……。

 とりあえず、話しかけてみることにした。

「ね、私の全員リレーの順番って、何番?」

「白川さんはアンカーに近いところだった気がする」

 どえええええええええええええええええ。

 彼じゃないけど、体育祭サボりたい。

 生き恥確定。

「それって変更出来る?」

「出来るけど、相手の合意もいるから、白川さんの位置じゃ難しいんじゃないかな」

 あ、なら話は簡単。

「それ決めるのって、男の子がやってるの?」

「いや、私達だよ」

「瀬戸君って何番?」

 そういうと、確認してくれる。

 なんだ私、やっぱり嫌われてないじゃん!

「真ん中の方だよ」

「なら、私と瀬戸君の順番変えといてくんない?」

「でも、瀬戸君の同意が……」

「大丈夫大丈夫!私が事後報告しとくし!」

 そう言っても、オドオドしてなかなか変えてくれない。私がいいって言ってるんだから早く変えろし。だんだん私はイライラしてきた。

 聞かないなら見てない間に勝手に変えてやろうかと思った頃、委員長の子が前に出てきた。

「瀬戸君の意思なしで勝手に変更するのは駄目だと思うんだけど」

 瀬戸君の意思は私の意思であり、私の意思は瀬戸君の意思なんですぅー。なんて言えるはずもなく、無様に黙る私。

 情けねぇ……!!

「いいんだよ別に。絶対言いって言ってくれるし」

「そういう問題じゃないでしょ」

 ごもっとも。

 ぐぅの音も出ない。

 代わりにグーが出そう。

 そう言えば前、彼も同じようなこと言ってた気がする。

「じゃあ瀬戸君呼んでくればいいんだね?」

「でも今瀬戸君は他の競技の練習中……」

「おーーーい!瀬戸くーーーん!」

 無視して叫ぶ。どうせ彼が真面目に練習してるはずなんてない。

 やっぱりすぐに来た。犬みたいだな、なんて思ったことはナイショ。

「私と全員リレーの順番変わってくんない?」

「えぇ!?」

 超嫌そうな彼の顔。

 キスしたら一瞬で「いいよ」って言ってくれそうだな〜、なんて思う。可愛いよね、瀬戸君。でも、流石にそれは卑怯だと思って正当法で行くことにした。

「瀬戸君さ〜、今日飲み物持ってきてないでしょ」

 ボソッと呟く。彼ならこれでも聞き取れるはず。

「それに、私とデート行き過ぎてお金ないよね」

 これも多分、周りには聞こえずに彼だけに聞こえてる。私達ら長く一緒にいすぎて、ボソボソと話すだけでも会話が出来るようになっていた。

「私の飲み物、わけてあげてもいいよ」

「僕が白川と交代するよ」

 テンポよく彼が答える。流石、という言葉以外出てこない。私のことをよくわかってる。大好き。

 なんだか委員長に睨まれてるけど、無視して友達の元に帰った。

 I'm winer!!

 それで、あとは彼に任せることにした。なんだか委員長と話してるし。多分、私には関係ない。そもそも興味ないし。

 ホント私って、集団行動出来ないな。

 でも、これが私で、私を崩すと生きていけないから。

 私がこのくだらない世界に紛れたら、それこそ生きてるのか死んでるのかわからない。

 誰も私を私だと、感知出来なくなるだろうから。

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