美少女≠山登り

「一体どこまで行くんだよ」

 山を登る。真っ昼間から。9月の半ばなのに暑くて暑くて仕方なかった。汗がひどい。普段、せいぜい紫苑と遊ぶ程度だから山登りなん絶対しないし。慣れないことはしないほうがいいな、なんて思う。

「山登った先に神社があるんだよ」

 僕の問いに答えてくれた。ちなみに答えてくれなくても良かった。

「よく、ここ来てんの?」

 流石にバテてる紫苑が、今回の山登り(?)企画者の木村に聞く。

「違う。神社によく行くだけだ。今回がたまたま、この山の上なだけ」

 絶対嫌がらせだろ。わざわざ文化部二人を運動部が山の上まで登らせるとか、ただのイジメだ。

「木村君、流石に休もうよ。私もうぶっ倒れそう」

 膝に手を起き、その場に紫苑が立ち尽くす。僕も紫苑の横で空を見上げる。頭がボーッとする。僕はここで死ぬのか?

「お前ら、まだ10分ぐらいしか山登ってねーぞ。天文部って山とか登って見るんじゃねーのかよ」

「そんなことしたら、天体観測じゃなくて、私達自身の死体観測になっちゃうよ」

 紫苑は冗談言うぐらいの元気はまだありそうだった。本格的にヤバイのは僕。

「木村、あとどれぐらい登るんだよ」

「お前らのペースだと、15分ぐらいじゃね?」

 ゲロゲロ〜〜〜〜〜!!!

 天国の方が近そうだった。

 ほら、紫苑なんて川を見て「三途だ〜」なんて言ってる。

「さっさと登ろうぜ。白川はわかるとして、瀬戸は男だろ」

「僕は真の男女平等社会を目指してる。男らしさを押し付けられない社会が理想」

「いいねそれ。私も女らしさを押し付けられない社会が理想だよ。木村君はどんな社会が理想?」

 ゼエゼエ言う天文部二人を木村は置いていこうとしてるのか、と言いたいぐらいのペースで登っては待ってる。

「俺は一夫多妻制がいいな」

「彼女いないくせに、よく言うよ」

 あ、紫苑が火に油を注いだ。

「木村ってモテるのに、なんで彼女作らないんだよ」

 僕が誤魔化すように木村に質問する。

「白川の言ってたことに看過されちまってよ。なんか適当に恋愛出来なくなっちまったんだよ」

「いいじゃん。木村君、私のこと好きすぎでしょ」

 美少女が美少女出来てないなか、必死に語ってる。美少女も大変だな〜、なんて思う。多分本人はこれでも可愛く出来てると思ってそう。哀れで可愛いな。

「そうだな」

 それだけ言って木村は僕達を置いて登っていった。

 紫苑のせいだ。


「お前ら遅いぞ」

 先に待っていた木村が僕達バテバテ組に言う。

 お前が早すぎるだけだよ、と言い返したいけどそんな元気もなかった。

「木村君、おんぶして」

「彼氏の前でよく言えるな」

 木村が鼻で笑うように言う。

 木村の言うとおりだ。

「だって私の彼氏見てよ。私以上にバテてるよ。こんな人におんぶされたら地の底まで転がっていきそう」

「僕も今紫苑なんて持ったら潰れて立てないよ」

 そう言いながら僕にもたれてくる紫苑。

 だから僕潰れるって。話聞けよ。


 お賽銭を入れて、二礼二拍手一礼。紫苑のところから全て一回多く音が聞こえたけど、無視した。

 皆、何祈ってるんだろうな、なんて思う。

 僕は安定の平和。それと入試合格。入試、来年だけど。

「紫苑、全部一回ずつ多くなかった?」

 神社の横にあった団子の出店で三色団子を買って、横にあった椅子に3人で座って休憩する。木村は余裕そうだったけど。

「あれ、多かったっけ。覚えてないや」

「白川ってそういうところ適当だよな」

「紫苑はそういうところだけじゃなくて、全部適当だけどな」

 なんのことかわからない。みたいな顔をする紫苑。

 ある意味尊敬する。思い当たるところしかないだろ。

「全部って例えば?」

 木村が聞く。紫苑の実態を知らないほうが絶対可愛く見えるのに。

「全部だよ、全部」

 僕は一人の夢を壊さずに守った。

 英雄。

「私のどこが適当なのさ」

 紫苑まで噛み付いてきた。

「思い当たることしかないだろ」

「ないね。私はだいたい完璧にこなすから」

 どこをどう見てそう言ってるのだろう。とりあえずクラス全員の名前覚えろよ。

「今さっきの神社の礼拝だって、適当じゃね?」

 木村がツッコむ。こいつ、須藤より使える。

「そんなことないさ。2回でも3回でもおんなじだよ」

 爆弾発言。全神社ファン大激怒。美少女炎上。

「な、木村。この発言がもう適当だろ?」

「そうだな」

 紫苑は変わらず団子を食べていた。気にしないその大胆な性格が羨ましい。


「神社参りっていいね!」

 そう、帰りに騒いでいた紫苑はあっという間に電車で寝た。テンションの上げ下げが早くて僕達まで疲れる。

「俺、ホントはお前と二人で回るつもりだったけど、白川連れてきたほうが面白かったかもな」

「そうな」

 逆に僕と二人じゃ、そんなに盛り上がらないよ。多分、つまらない。

「お前と話たかったのは、実言うと一つだけなんだ」

「なんだよ」

「改めて白川を見てるとな、いつの間にかいなくなりそうな危なっかしさとか、生に無頓着なこととかを感じるんだよ。だから多分、お前じゃないと白川を支えられない。だから、俺の分まで白川を頼む」

 そう言われると、僕まで照れる。言われなくてもわかってるのに言われると、妙にソワソワするし、張り切る。そんな自分にイラつく。

 木村は真剣に言ってるんだから答えないとな、なんて思う。

「大丈夫だよ。紫苑は多分、いなくなったりしない」

「だといいな」

 紫苑もいい友達(?)を作ったな、なんて思う。僕の友達でもあるわけだから、結局自画自賛になる。

 まさか僕に、須藤以外に友達が出来るとは思っていなかった。紫苑のことをここまでわかってるやつがいるとも。

 2学期は勿論紫苑とも、そして紫苑以外の人達とも、もしかしたら上手くやっていけるかもしれないな、なんて思った。

 それでもこれでも、全ては僕の肩で幸せそうに、ぐっすり眠ってる美少女次第なことに変わりはない。

 いつか僕も、紫苑頼みなことを克服出来ればいいのに。なんて今更、神社で願うべきことを思いついてしまった。

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