人生二人三脚
休日、紫苑に呼び出されて公園へ向かう。紫苑が時間通りに来るとは到底思えないけど、一応約束の15分前につくように行った。
「あ、瀬戸君、ごめんお待たせー!」
15分過ぎてから、要するに僕が30分待っていたら紫苑がようやく来た。
「縄買ってきたよ」
ガチの縄。縄跳びの縄とかで良かったのに、ちゃんと麻で出来たような縄。
「なんでそんな大層なモノ買ってきたんだよ」
「だって私、形から入るタイプじゃん」
形から入られすぎても困る。
「それじゃ、早速結びますか!」
僕の左足、紫苑の右足に縄を巻く。プラスチックではなく、麻を肌で感じる。どこの高校生が午前中から麻で出来た縄で二人三脚するんだよ。
「これ買うとき、死んだ目で買ったから自殺すると思われてるかもしれないな〜」
紫苑がぼやくように言う。店員さんは、朝からこんな美少女が、麻で出来た縄を買うシュールなシーンに出会って困惑してるだろう。気の毒に思う。僕なら間違いなくその日はそのことで、頭がいっぱい。
「紫苑が誰かを殺すと思ってる可能性もある」
「瀬戸君を悩殺しちゃうぞ」
語尾に☆がついてそうな感じで言う。
「それ意味変わってきてるだろ」
「私の身体に見惚れてくれてもいいんだよ」
「そうな」
「紐が麻のせいでちょっと痛いね」
紫苑が言う。まさに自業自得。
「僕も痛いよ」
「ゆっくり動かして行こ」
紫苑が暴走する未来しか見えないけど。
「じゃあ足出すよ!せーの!」
僕が左足を出す。紫苑も左足を出す。勿論、こけた。
「おい!どっちの足を出すか先に言えよ!」
「ごめん!じゃあ、私が左足出すから、瀬戸君右足ね!」
どう考えても最初に縛ったほうを出せばいいのに、敢えて自由な方から行く紫苑。自由なことが好きな性格が出てるんだな〜、なんて思う。
「よし!行くよ!」
まず歩くところから始める。そこは難なくクリア出来た。いつも紫苑の歩幅に合わせて歩いてるから。そう思うとなんだか、感慨深いものを感じた。それでも問題は、走ること。
「だんだん歩くのは慣れてきたし、そろそろ走りますか!」
「絶対左足から出せよ!」
「わ〜かってるって!」
なんだろう。言いしれぬ不安。
「せーの!」
紫苑が左足、僕が右足を出して、スタートは完璧。そのまま加速していこうとした矢先。組んでいた肩を交わすよに紫苑が大勢を低くした。
勿論、コケる。
「急に大勢低くされたらバランス悪くなるっていうか体重持ってかれるんだけど」
「ごめんね。私、全力で走るとき大勢低くなるんだよ」
二人三脚で全力疾走しようとする人間を、僕は初めて見た。
紫苑が怖い。
恐ろしく、怖い。
まるで何も考えてない。
「全力疾走は慣れてからにしようよ。僕、歩くペースとランニングぐらいのペースは覚えてるけど、全力疾走のペースは覚えてないから」
夏休みのランニングがここで活きる。紫苑の可能な限りのランニングペースなら歩幅を覚えてる。
「わかった。なら、ランニングぐらいでまずはいこうよ。それで、だんだんペース上げてくから、出来る限りついてきてよ」
あくまで僕は、合わせる側。
「わかった。それで行こう」
「結構走れるようになったね、私達」
紫苑の全力の、7割ぐらいのペースでは走れるようになったらしい僕達。スタミナのない僕は当然、バテてる。
「本番このペースでいくの、リスク高くない?」
「高くないよ!実際転んでないし」
「でも、徐々に上げてく感じで走ろう。いきなり全力出すと、多分合わないようになるだろうから」
紫苑が空を見上げて、どうなるか想像してる。
で、笑い始めた。
あ、僕がコケたんだな。
「そうだね。なら最初はランニングぐらいのペースでいって、そこから私のペースであげるよ」
そういうことで作戦は決定。まだ秋ほど涼しくないような気温の中、風を感じながら涼む。まだ紐を解いてないせいで、密着した身体から紫苑の汗も感じる。
「死ぬほど暑いね〜、飲み物買いに行こうよ」
「このままで?」
「このままで」
二人で立ち上がり、お互い逆の自販機に向かおうとしてコケた。
「なんだか、私達の人生って多分こんな感じなんだろうね」
「そうな」
「逆の道に進もうとして、多分私達はお互いが引っ張り合って、結局同じ道に進む」
二人三脚で人生を感じる高校生。
なかなかシュール。
「僕達が違う道に進むことなんて、ないだろ」
僕が紫苑に、絶対に合わせるから。
「でも私達ってさ、私が先に先にって進んで、瀬戸君が私に合わせてくれる。私も瀬戸君が合わせてくれるって信じてるから、自由に出来る。思えば付き合ってからずっそうだよね」
自覚があってくれて、嬉しかった。でもだからって、紫苑が先へ先へと進むのを止めるつもりなんて、全くなかった。それが紫苑のいいところだから。それが紫苑の、哀れで可愛いところだから。
「僕が先に行くなんてこと、ないからな」
「瀬戸君が先に行こうとしても、私が追い抜かしちゃうからね」
「僕達の人生、ホントにそうかもな」
「ちゃんとずっとついてくるんだよ、瀬戸君」
「合わせられるスピードで頼むな」
休憩して、二人で帰る。
「二人三脚で帰っちゃう?」
「嫌だよ。死ぬほど恥ずかしい」
「お昼ご飯、瀬戸君の家で食べていい?」
「好きにしなよ」
二人で同じ家に帰ることが日常になっていて、嬉しいようで、怖かった。
この感覚をなくすことが、怖かった。
でもきっと、無くさないだろう。
なんだかんだ紫苑は、僕に気づかれぬよう、合わせてくれるから。
僕に何かあったら、寄り添ってくれるから。
二人三脚も、暴走しないでほしいな。
人生の二人三脚はずっと暴走しっぱなしだけど。
体育祭の二人三脚で僕達がぶっちぎるところを想像すると、ちょっと笑えて楽しみになった。
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