Hello,new world
夏休みが終わって、夢から日常に戻ってきた気分の頃。
紫苑が朝食にいるのに違和感が感じなくなっていた。あぁ、自分が怖い。その代わり、制服の紫苑には違和感があった。制服なんて、天体観測以来だと思う。
「一人で寝るのって結構寂しいね〜」
紫苑がパンを食べながら言う。
「そうな」
「白川先輩おはようございます!先輩がいなくなって私、寂しいです!」
「私も自分の家だとボッチで寂しいよ〜。ロックでもやろうかな」
紫苑はホント、最近何を見てるかわかりやすくて助かる。
完全に日常に戻って、何もない日々。宿題も終わってるから怒られる要素もない。帰りは紫苑と映画かな、なんて思う。こういう日は紫苑は誘ってきがちだから。
「宿題、全部忘れる美少女って私だけだよね?」
僕の家に全部宿題を忘れた紫苑の戯言。
今朝の電車までは「私、今年珍しく宿題全部やってっから絶対褒められるでしょ!」とか言ってたのに学校に来たらこの始末。
哀れで可愛い。
「美少女パワーじゃ無理かな?」
「流石に白川でも無理じゃね?」の意見が大多数。僕も皆に同意する。
「でもさ、人間は普段、全力の30%しか力って出せないんだけど美少女は残りの70%も出せるんだよ?」
謎理論。なんだよ、残りの70%って。僕はそんな紫苑を見ながら、適当に携帯をいじっていた。
「よ、瀬戸。夏休み前ぶりじゃねぇか」
「須藤。お前のせいで散々な目にあったよ」
「俺何もしてねぇよ」
何もしてくれないから困ってるのに。何があったか伝えても、須藤は笑うだけだった。
「いや〜、それは運が悪かったな!ところで、白川とは上手くやってんの?」
「まぁ、ぼちぼちな」
ふーん。とだけ言って外を見る須藤。自分で聞いたのに興味なさそうな顔すんなよ。
「お前、白川といて楽しいのかよ」
「楽しいよ」
「それならいいんだけどよ」
それだけ言って須藤は席に戻った。別にいてくれてもいいのに。
「よ、瀬戸」
「あ、木村」
我ながら友達増えたよな、なんて思う。木村だけだけど。
「あれから白川と、どうなんだよ」
「別に。何も変わってないよ」
皆同じことしか聞かない。そんなに気になるのかよ。
「今度一緒に遊びに行かね?」
「3人で?」
「いや、2人で」
どういう風の吹き回しだよ。あ、僕のこと吊るし上げようとしてるのかもしれない。怖すぎる。行きたくない。
「いやだよ、何するんだよ」
「お前ともっと仲良くなりたくてな」
「紫苑も連れてくならいいよ」
そう言うとちょっと目をそらして頷いた。僕としても紫苑を盾に使うのはなんだか癪だけど。なんだかんだ仕方ないか、なんて思う。だって、紫苑の方が僕よりよっぽど強いし。
始業式はなんてことない、全然耳に入らない校長先生の話で始まり、2年もいるのになんとなくでしか覚えていない校歌を歌わされた。これに何の意味があるんだろ、なんて思っていると紫苑からメッセージが来た。
➝超☆暇なんですけど
➝僕もだよ。なんかやることない?
➝アントゲームする?
嵐山で紫苑と歩きながらやっていたゲーム。暇つぶしにはなりそうだった。
➝いいよ。お題は?
教卓を見ると、担任の先生も寝ていた。これすなわち、無法地帯。
➝須藤
➝南さん。あの二人、静と動で真逆だから
➝私もそう思う。なら次は、新学期なんてどお?
なんとなく、教室を見渡す。寝てる生徒が大半。なんなら教師も寝てる。日常。そう答えようとしたけど留まる。僕には何かしら、変化があった。友達が増えたり、部活に入ったり。多分、これから知らないことや未知のことが増えるだろう。ならそれは、日常じゃない気がした。
➝new world.
1.2分ぐらいして返信が来た。
➝なるほど。最初は意味わかんなかったけど、瀬戸君にとっては確かにnew worldだね!
➝そうな
➝ようこそ、new worldへ!
紫苑の方を見ると、僕を見てニコッとする。
「学校一日目の魅力って、午前中で終わることだけだよね」
「そもそも学校に魅力がないからな」
帰り道、二人でのらりくらり歩いて帰る。
僕が紫苑を好きだって公表したことにより、帰りに誘っても誰も何も思わなくなった。
「今日映画何やってる?」
紫苑がネットで調べながら僕に聞く。ネットで調べてるのになんで聞くんだよ。
「知らないや」
「あ、恋愛モノやってる。これ見に行こっか」
僕の意見無しで決定される。
新学期とか関係なく、紫苑は紫苑だった。環境が変わっも、人は結局変わらない。僕が見る世界が変わるだけで、僕の周りの人の世界は変わらない。不思議だな〜、なんて思う。
人間一人一人が自分で世界を作るのに、客観視すると何も変わらない世界。人間が宇宙を認識したとろこで宇宙にとっては何も変わらないのと同じ。多少の変化はあってもいいと思うのに、皮肉かのように何も変わらない。ただ、未知が増えるだけ。ただ、道が増えるだけ。
「ウルトラポップコーン塩で」
「それ昼ご飯にするつもり?」
「昼は勿論別で食べるよ?」
バケモノめ。その細い体のどこに収まってるのか不思議なぐらい。
「今日のは面白かったね!」
「病気の余命系だったな」
「だんだん弱っていくのを毎日見続ける主人公の辛さと、死を受け止めてる家族が鮮明に書かれてて、泣きそうになったよ」
「私も〜。久しぶりに本気で泣きそうになった」
口を塩まみれにした紫苑がなんか言ってる。説得力は皆無。寧ろ見てなかったんじゃないか、まで思う。
「それじゃ、カフェ行こっか!」
夕日が見える時間のに昼ご飯と謳う紫苑。
なんだかんだ、いつも通り。
何も、変わってない。
何も心配なんてしなくていいんだな、なんて思う。紫苑みたいに、行き当たりばったりでいいんだ。そう思うと、心が晴れる。
Hello,new world.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます