落胆≠美少女

 彼と二人で来たせっかくのプールが、有象無象に妨害されて私は心底退屈になっていた。南のおかげでなんとかバレずにすんだけど、私達が一緒に遊ぶことまでは叶わなかった。

 男の子が私の水着をチラチラ見てくるのが嫌で嫌で、私は流れるプールに入って流された。

「白川次、何する?」

 それでも私は、美少女でなくてはならない。元気でハイテンションなようにしておかなくてはならない。

「次はね〜、波のプーフ行こっか!でも私、もうちょっと流されときたい気分」

 そう言って顔以外を水の中に沈める。

 ホントはこの水着だって、彼に見てもらうために買ったもの。彼のためだけのもの。それを有象無象が見て、喜ばれるのは、あまりにも癪だった。

 退屈。

 もう、帰りたい。

 ずっと彼と一緒にいたから、今横にいないのが私にとっては苦痛だった。

 あ、駄目だ、泣きそうになってきた。

 せっかくプールに来たのに、このまま終わるだなんて嫌だ。

「白川、それ流れるプールじゃなくて普通のプールだぞ」

 耳に残る、ぶっきらぼうな声がした。

 私が見上げると、私を見下ろす男の子の影。

「流れるプールはあっちな?」

 期待してなかったと言ったら嘘になる。

 でも、彼は来ないと思っていた。

 今すぐ、抱きつきたいてキスしたい。

 この人は私の、全ての願いを叶えてくれる。

「瀬戸君じゃん。木村君と温水プールに行ったんじゃなかったの?」

 いつもの美少女のメンタリティーを取り戻して、普通に答える。

 大丈夫、ニヤけてないはず。

 大丈夫、まわりと変わらない反応をしてるはず。

 私なら、出来てる。

「何ニヤニヤしてんだよ。変なやつだな」

 そう言って彼も入ってきた。

「瀬戸、お前やっぱ白川のこと追っかけてきたのか!」

「瀬戸もやっぱり白川狙ってやがったのか」

「違うだろ、水着みたいだけじゃね?」

 と有象無象が言いたい放題言ってる。

 そんなこと、どうでもいい。

 水着がみたいなら見せてあげる。

 追いかけたいなら私は足を止めて待ってあげる。

 狙いたいなら私はそれに答えてあげる。

 私にとって、君だけが特別なんだよ。

「そうだよ、皆いるしそれに白川もいるからこっち来たんだ。悪いかよ」

 そう言う彼に私はビックリした。

 誤魔化すと思ってた。

 隠すと思ってた。

「え、瀬戸マジで白川のこと好きなの?」

「好きだよ。お前らもだろ」

 照れたように彼が言う。

 その横で木村君は安心したような顔をしてる。

 あ、木村君のおかげか。

 後で感謝ぐらい言っておこうかな。

 私もハイになってきて、作り笑顔を笑顔に変える。

「辞めてよ!こんなところで告白なんて!私恥ずかしいじゃん!」

 そう言うと、有象無象がそうだそうだ!なんて言ってる。うるさいやい。

「ていうか、皆もってどういうこと〜?」

 私がからかうように聞く。

 そしたら、必死で否定してきた。

 皆私のこと好きじゃん!

 困ったな〜〜、モテるのも大概にしないと面倒なんだよね!

「皆私のこと好きすぎでしょ!嬉しいよ!」

 とびっきりの、普段学校では見せない笑顔で言う。これを意図的に出せる私は天才。

 有象無象は大歓喜。

 彼は照れてた。

「それじゃ、波のプール行こうよ!と思ったけど、お昼ご飯たべない?」

 ホッとするとお腹が空いてきたから。


「お前なにちゃっかり白川と同じテーブルとってんだよ」

 彼に対して男の子が言う。

「いいじゃん!今日勇気出して私に告白してくれたんだから!」

 そう言うと諦めたように皆は別のところに行った。

 ようやく彼と二人になれて、私も彼も、なんだか安堵したような気分になる。

「また告白してくれるなんて、嬉しいよ!」

 ヒソヒソ声で言う。

「告白って、何度しても照れるな」

 そう言いながら私と目線を合わさずに無表情を貫く彼。実は照れてるのを私は知ってる。それが可愛くていい。

「でも、前は私からしたようなもんじゃん?」

「自覚あったのかよ」

 あ、そうだ、とふと思い出す。

「木村君もこっちきなよ!」

「木村のやつ名指しかよ!」

 と周りの人たちが反応する。

 ちなみに私以外の女の子は別のところで食べてる。私だって正直女の子の方に混ざりたいけど、男の子がついてくるから無理だった。

「木村君、瀬戸君を説得してくれたんでしょ?」

「まぁそんなもんかな」

「ありがとね!」

「どうも」

「お礼にあーんでもしてあげようか?」

 調子に乗って私が言う。

 すると彼が私を睨んでた。嫉妬してる。

 彼もなかなか、私に対しての愛重いよね。

「してくれるならしてほしいけどな」

 なんて口を開けてる。

 ホントにしてあげようと思って私は私のたこ焼きを爪楊枝に指すと、彼が木村の口にたこ焼きを突っ込んでた。

「瀬戸君何してんの!?」

「木村にはこれぐらいで十分だよ」

 熱そうな木村。ちょっと可哀想。しかも、口がソースまみれになってるし。

 はふはふ言ってる木村はシュールだった。

「木村君大丈夫〜?」

「瀬戸てめぇやりやがったな!」

 私の知らない間に仲良くなってた二人を見て、私も嬉しく思う。

 同時にちょっと妬ましい。

 私も同性なら、ああやって気兼ねなく彼に絡めたのかな、なんて。

「ていうかさ、瀬戸君が私のこと好きって公表しちゃってよかったの?」

「紫苑が僕のこと好きなのは絶対秘密にしないといけないけど、僕が紫苑のこと好きなのは公表しても何も問題ないからな。ついでにこれで紫苑と堂々と普段から話せるし」

 確かに!!

 瀬戸君って頭いいよね。私はそんなこと思いつかなかった。

 あ、でも、私は変わらず耐えないといけないのか。それはそれで辛いや。

 それでも、登下校ぐらいならワンちゃん出来る。

 一緒に登下校する私達を想像する。

 いい!!

 あわよくば手もつないで……。

 いい!!

「早く食べてプーフ行こうよ!!」

 テンションの上がった私は完全に復活。

 有象無象でもなんでもかかってこい!!

 スライダー以外なら何でも行ける!!

 最初は焦ったけど、いい方向に転がって良かった。

 痛いような日差しの中、残りのたこ焼きを舌を麻痺させながら食べきって、私は今度こそ流れてるプールに飛び込んだ。

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