買い物と彼女と水着と

「プール行かない?」

 夏休みが始まって2週間くらいたった頃、天体観測以来僕達は何もしていなかった。強いて言うなら頻繁に水族館に行くぐらい。行って何するかって、魚を見るだけ。あとフィレオフィッシュを食べる。

「魚みてたら泳ぎたくなったとか?」

「ノリはそんな感じ」

「それで、いつ行くの?」

 んー、と悩む紫苑。

「明日?」

 いつも急すぎるんだよ!

 気分で動く紫苑なら普通なのか……。

「でも僕、水着も何も持ってないよ」

「なら今から買いに行こっか」

 時間は18時。紫苑が昼寝から目覚めた直後。

 今から行って何ができるんだよ。

「明日買いに行って明後日行かない?」

 ちょっと残念そうだったけど、了承してくれた。ていうか、紫苑も水着もってないだろ。


「私も水着持ってなかったので、一緒に買おう!」

 やっぱりな。とんでもない計画性の無さ。

 夏休みに水族館以外行ってなかった僕達の軍資金はたんまりあるから、そこそこ良いのを買おうということになった。

 というわけで、ショッピングモール。

「それで、僕か紫苑か、どっちのやつから探すの?」

「どっちでもいーよー」

 アバウトな奴。

「じゃあ僕からで」

「イエス!レッツゴー!」

「そっちじゃないよ」

 適当に歩いて行きそうな紫苑に首輪したいと思いつつも、僕のを適当に選びに行った。

 正直、なんでもいい。

「これでいいや」

「この瀬戸内海ってでっかく書いてるやつどお?」

「嫌すぎるだろ!」

 僕の名字と掛けてるんだろ!

「迷子になったときわかりやすいよ」

 寧ろ迷子になるなら紫苑だと思った。

 でも何を考えるかよくわからないような顔をしてるやつだから、多分周りからは迷子だとは思われないんだろうな、なんて思う。

「ていうか、二人って味気ないから須藤とひなちゃんも誘わない?」

 確かにずっと紫苑と二人だし、それもいいかも。

「いいよ」

「じゃあ早速誘っとくね!」

 紫苑が携帯をいじってる間に僕は会計を済ませておいた。

「それじゃ次、私の方だね」


「クソエロいやつか、めっちゃ地味などこにでもいそうなやつ、どっちがいい?」

「圧倒的後者」

「私と仮に二人っきりなら?」

「それでも後者」

「私の身体にパワーがないって言いたいの!?」

 急に大声を出されて僕もビックリする。

 そもそも、女性用水着コーナーにいるだけで死ぬ程恥ずかしい。さっさと決めてほしいっていうのが本音。

「そんなこと言ってないよ!紫苑はそういうのじゃなくて可愛いのの方が似合うだろ!」

 顔を赤くする紫苑。

「そんなに私、可愛い?」

「かわいいよ」

 紫苑はさらに顔を赤くして、いくつか候補に上げてた水着を持って試着室に入った。

 普段から自分で言ってるのに、照れるんだな、と哀れに思った。

「いくつか着て見せるから待っててよ」

 そう言われて前の椅子に座って待つ。

 ホントは店を出て待ちたかったけど、自信満々に「じゃーん!どぉよ!」と誰もいないところに向かって叫ぶ紫苑を想像すると心が痛かった。

 それなら僕が奇異の目で見られたほうがマシ。

 我ながら優しいな〜、なんて思う。


「じゃ~ん!どぉよ!」

 お世辞でもセクシーとは言えない胸を張って紫苑がドヤる。

 多分自分ではかなりセクシーだと思ってそう。ポーズ的に。なんか身体反ってるし。

「可愛いじゃん」

「でしょう!?3つ着たけどこれが一番可愛かったんだよね!でも、瀬戸君の反応がイマイチか」

「僕にどんな反応期待してんだよ」

「絶叫」

 ホラーかよ。

「実際ホントに可愛いよ」

「他の男に見せたくないくらい?」

「当日は須藤はずっと目隠しだな」

 シャッ!と勢いよくカーテンを閉めると、すぐ出てきた。

「これ買う!」

 そう言ってダッシュでレジまで行った。

 別に走る必要ないだろ。

「次下着!」

「え!?」

「行くよ!!」

 そういえば前、下着が足りないとか言ってた気がする。


「黒が似合うと思う?」

「なんでさっきからセクシー路線に走ろうとするんだよ」

 大人の魅力が欲しい、とか言う。

 じゃあまずその性格をどうにかしろよ。

「じゃあピンクとか?」

「ピンクは似合うと思うよ。水着だって水色だし、透明感ある色がいいと思う」

 で、色々と下着を手にとっては戻しを繰り返す。

「ほぼ紐がいい?」

「ちゃんとしたやつがいい」

「なんでさ、男の子って紐が好きなんじゃないの?」

 ド偏見。ド偏見で生きてやがる。

「今僕達一緒の部屋にいるのに、そんなの出てきたら親に確定で怪しまれる」

「それもそっか」

 そう言って結局、水色にしたらしい。

 僕は選ぶところは見てなかったから、詳しくは知らない。どうせ家に帰ったら自慢されるだろうし、わざわざ見る必要なんてないし。

「あ、須藤来れないって」

「じゃあ二人か」

「目潰しされると思って逃げたんだ」

 目潰しまで言ってないのに。


 一通り買い物が終わって帰路につく。

 夕日がキレイ!なんて紫苑が言ってたけど、僕は夕日を見ると天体観測のときの紫苑しか頭に出てこなかった。何か食べたくなって、二人で肉まんを食べる。夜ご飯が近いのはわかってるけど、食べたくなっあから仕方ない。

「プール、楽しみだね!」

 熱すぎて食べられないから冷めるまで待っていると暇で暇で仕方ないから、というふうに紫苑が話しかけてくる。

「僕もだよ」

「瀬戸君大金持ちになってさ、プールある家買ってよ」

 無茶苦茶だな。

「買えたらいいのにな。僕もそれぐらいお金欲しいよ」

「お金ってありすぎても意味ないから難しいよね」

「無いより全然いいと思うけどな」

 というか、紫苑の家は大金持ちだろ。

「瀬戸君がいたら、お金はある程度あったらそれでいいや」

「紫苑って物欲とかないよね」

「死ねば全部失うんだから合っても一緒だよ」

 最近紫苑と、生死観の話を良くする気がする。

 元々か。

 明日のプール楽しみだな〜、なんて思うけど予定を全く立ててないから不安でもあった。

 どうせ紫苑のことだから聞かないか。

 さっさと諦めて肉まんを食べる紫苑を見る。

 予定なんて無視しそうな顔をしていた。

 明日、不安だな〜。

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