美少女≠同棲 2

 紫苑と同棲を始めて2日目。暇すぎてやることもなく、ただ無性にアイスを食べ続けて気づけば一日5本ぐらい食べてた僕達。

「瀬戸君、これヤバくない?」

「ヤバい、はっきり言って超ヤバい」

 ということで、二人で出かけることにした。

「やっぱり水族館でしょ」

「紫苑って水族館好きだよな、動物園は行かないのに」

「だって動物園なんて普段から行ってんじゃん」

 行った覚えがなくて、僕の頭の中をクエスチョンマークが飛び交う。

「もしかして、クラスのこと言ってる?」

「当たり前じゃん」

 なんでもないかのように言ってくる。紫苑、普通に怖い。


「白川先輩、こんにちは」

 僕達が駅に向かっていると、瀬川に会った。

「奈緒ちゃんじゃん、これから試合?」

「そうです」

「へー、どこでやんの?」

「公式大会なので、球場です」

 ほーん、とまた買ったアイスを食べながら言う。他人事。完全に、他人事。

「応援行ってあげようか?」

「いいんですか!?」

 いつもはクールって感じの瀬川さんが大きな声を出した。

 そして我に返ったらしく、真顔に戻った。

「うん、暇だから全然おっけー」

「あの、その、でもデート中だったんじゃ……」

「デート内容を試合観戦にすればよくない?」

 瀬戸君どお?と僕に聞く紫苑。

 こういうときはもう実質決定事項で、僕が断っても駄々をこねるだけ。最悪一人で行く始末。

「僕は全然いいよ」

「ありがとうございます!」

 嬉しそうな瀬川。やっぱり瀬川も可愛い。

「ところで、先輩って何でソフトボール部入ってくれないんですか?」

「前見せた通り私はもう動けないから」

 一日にアイスを5本も食べるやつが運動なんて今更出来るわけない。当然。

「それはそうですね。また遊びでやりましょうよ」

「おけまる水産まじ卍」

 もうそれ古いって!

 と色々ツッコみたいけど、ただうるさいだけの煩わしいやつになるので真顔で聞いておく。


「紫苑って観戦の趣味あったっけ?」

「ないけど、自分の後輩が頑張ってる姿見るの、なんかいいじゃん」

 瀬川の打席をなんとなく、ぼーっと見つめる。

 何が上手いとか何が下手とか僕には全然わからないけど、紫苑が応援してる姿がなんか可愛くて、感情の機微がよくわかって、それはそれで楽しいな、なんて思う。

 ただの紫苑観察。

「今日のためにいっぱい練習してきて、それでも力を出せなかったり、いつも以上に力が出たりするんだよ!なんかドラマチックじゃん」

「紫苑もそうだったりしたの?」

「私はどうかな〜、勝ちたいっていう気持ちはあったけどそれ以上に、負けたくなかったな〜」

 運動部っぽいことを言う紫苑。

「ホント負けず嫌いだよな」

「じゃないと美少女やってないよ」

 ニシシ、と紫苑が笑う。

 意味はよくわかんないけど、なんとなく理解できる。

 紫苑が言うから理解できる、みたいなことが最近増えた気がする。前まではなんとなくだったけど、最近はよく、理解できる。

 付き合ったらそれで終わりだと思ってたけど、そうでもないんだな。紫苑がいつかに言ってたけど、付き合うのが始まりなのかもしれない。

 僕達で、僕達の世界を作っていく。

 グラウンドという世界の中で、2つのチームが「ソフトボール」というスポーツを作り上げるのと同じように、僕達も僕達の世界で、2人で「愛」を作り上げていく。

 何事も同じなのかもしれない。

 与えられた世界で、自分達の世界で、何かを作り上げ、懸命に生きていく。

 僕達は作れるのだろうか?

 僕は紫苑を、守っていけるのか?

 僕は紫苑を、ずっと抱きしめられるのか?

 僕達はずっと、愛しあえるのか?

 僕達のゴールは、どこなのだろうか。

 恋愛に勝ち負けなんてない。

 だからこそ、ゴールが見えない。

 紫苑が言うように、共に死んでいくのがゴールなのかもしれない。

 別々に死んで、記憶としてお互いを保存し合うのがゴールなのかもしれない。

 人によって、それは違う。

 だからこそ紫苑は、自分と価値観の合う人間を選んでるのか!

「どしたし?」

 楽しそうに観戦してる紫苑を、僕は思わず見ていた。

 考えすぎかもしれないけど、でもなんとなく、紫苑ならそこまで考えてる気がした。

「何でもないよ、ただ、僕は紫苑がいいって思っただけ」

 そう言うと、紫苑が顔を赤くする。

「あのさ〜、急に言うのずるくない?」

「急じゃないよ。ただ、やっぱり僕には紫苑しかいなくて、紫苑には僕しかいないんだなって、思っただけ」

 そう言うと、紫苑がキョトンとする。

「何さ、突然自信湧いてきて。自分の方がソフトボール出来ると思ってんの?」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあ何さ」

「なんでもないよ」

 そう言うと肩を揺さぶられた。

 顔を赤くしてるのを誤魔化したいのだろうけど、無理だ。

 やっぱり、哀れで可愛いな。

 誰にも取られたくない。

 誰にも紫苑の真の魅力に、気づいてほしくない。

 僕だけが独占していたい。

 横で何か言ってる紫苑を無視して、僕はソフトボールを観戦する。

 ちょうど瀬川さんが打って、点が入っていた。

「スポーツ観戦って、今日のためにいっぱい練習してきて、それでも力を出せなかったり、いつも以上に力が出たりするのを観れて、楽しいな」

 僕が紫苑の方を見てそう言うと、僕が突然楽しそうにソフトボールを見出したのを不思議に思ってた顔が、一気に笑顔になった。

「それ、私が言ったまんまじゃん!」

「そうな」

「なんか、明るくなった?」

「変わってないよ、何にも」

「なら、私だけがわかるんだね!」

 同棲を通して、お互いが見えていく。

 さらに深くまで、見えていく。

 僕は紫苑に、依存していく。

 そしてより深い愛を、作り上げていく。


 その日の試合、瀬川のチームは勝った。

 ➝見てたよ。おめでとう。僕も感動した。

 それだけ送って、家に帰った。

 紫苑と二人で、家に帰った。

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