美少女≠お泊り
お風呂で寝て沈みかけて、目が覚めた。
お風呂で寝るのは危険だというけど、ホントだった。
それを実感しながら僕は髪を洗って身体を洗う。
入る前にも洗ったけど、寝ぼけてもう一回洗った。
お風呂から上がって部屋に戻ると、僕のシャツを着た紫苑がいた。
「お風呂長かったね」
「うん。寝かけてた」
「危ないから寝ちゃ駄目だよ!」
紫苑にも軽く怒られる。
時計は23時を示していて、まだ寝るにはちょっと早いけど、寝てもいいぐらいという微妙な時間帯。
「紫苑、どこで寝るの?」
「聞かなくてもわかってるくせに〜〜」
ニヤニヤしながら言ってきた。
「なら僕がソファーで寝るよ」
紫苑と同じベッドで二人で寝るのは、刺激が強すぎる。
「こんな美少女が誘ってるんだから一緒に寝た方がいいよ!」
「美少女すぎるから駄目なんだよ!だいたい、刺激強すぎるんだよ」
そう言うと、紫苑は顔を真っ赤にして、目をそらしながら口を開いた。
「私だってその、恥ずかしいわけじゃ、ないんだからね。瀬戸君にだから、してあげるわけで、特別なんだから」
可愛すぎて死ぬかと思った。
紫苑が普段、哀れで可愛いのは事実だ。
だけどそれ以上の事実として、可愛すぎる、ということがある。
元がぶっ飛んで可愛い。
「それは、ありがたいけど……」
「私、一緒に寝たいんだよ……?」
途端に僕は冷静になった。
紫苑がこんなこと、言うはずがない。
これは、作ってるな。
だから手で口元を隠してる。
多分あの手の下にはニヤけた口があるはずだ。
まだ、バレてないと思ってる。
やっぱり哀れだ。
哀れ過ぎる。
この完全にバレてる状況で、まだ自分が優位に立っていると勘違いして、上目遣いなんかも始めた。
あーあー、これはやってますわな。
なんて、哀れなんだ。
僕の心は鷲掴みにされた。コレのほうが僕に効くのもおかしいけど。
「わかったよ、一緒に寝るよ」
「いぇーーーい!!パーリナーーーーイ!!」
急にテンション爆上げになって踊りだす紫苑。
酔ってんよか、っていうレベル。
「どうしたんだよ」
「さっ!早速恋バナしよ!」
修学旅行の夜かよ!
「わかったよ」
「ほら、電気消して布団入って!」
紫苑が空けてくれているスペースに入った。
狭くて身体が密着する。
まだ暗闇に目が慣れてなくて、手探りで紫苑を探すと、すぐ横に感触があった。
「そこは太ももだよ」
「解説すんなよ」
「身体触りたいのかと思って」
そういう紫苑も手でガサガサしてた。
「何探してんの?」
「瀬戸君の手」
紫苑と僕の手が触れ合って、指を絡め合う。
目が慣れてきて、薄っすらと、ゼロ距離の紫苑が見えだした。
「顔近いし」
「僕だってこれ以上は無理だよ」
「私は余裕あるよ」
じゃあ下がれよ!と叫びたい。
「2回目だね、一緒に寝るの」
「そうな」
「まだ、慣れないや」
ヒソヒソ声だけど、紫苑が照れているのがわかる。
僕も照れていた。
「やっぱり、瀬戸君の前で寝るの、嫌だな。死ぬみたいで」
「そんなこと、言うなよ」
握っていた手を離し、僕の手を掴む紫苑。
そして僕の手に、柔らかい感触がした。
「私の心臓、動いてるよね」
「うん」
「私って、生きてるんだよね」
「生きてるよ」
「感情があれば生きてると思ってたけど、最近は違うとも思ってきたの」
「どうして?」
「私の感情が残ってても、私の身体がないと、瀬戸君を感じられない。私の魂と瀬戸君の魂が融合することは、ないと思う」
あ、仮に死んだ後にも融合出来ないなら、ね。と付け加えた。
「だから私、自分の身体も大事にしたい。容姿は、瀬戸君に好かれたらなんでもいい。でも、中身だけはずっと私だからね」
紫苑が僕の手を離し、今度は僕の顔に触れる。輪郭をなぞるように、冷たい手が僕を包む。
「私をずっとずっとずっと、愛して。それで私と、ずっと一緒にいるの。私は君のために生きて、君と一緒に死ぬの。それまで沢山の愛を私に送って欲しい。私はいつまでも、あなたの物だから」
切ないような、安心するような、そんな顔の紫苑が見える。
僕は腕を紫苑の腰にまわして、抱きしめた。
紫苑がそれを望んでいるような気がして。
僕自身もそれを望んでいるような気がして。
「私達一人ひとりは冷たいけど、一色にいると暖かい」
「そうな」
「もっと強く、抱きしめていいんだよ?」
もう片方の手で、紫苑の頭かかえ込む。
それに抵抗する様もなく、紫苑は僕の胸に頭をつける。
「そういえばさ」
紫苑が少し離れて、話した。
それが一瞬悲しく思える。
「ん?」
「球技大会のご褒美、まだだったね」
そう言って、紫苑は布団の中でガサガサし始めた。
「目、瞑って」
そう言われて、目を瞑る。
本当ならこのまま寝てしまいそうだったけど、緊張のしすぎで、心臓の音がうるさすぎて、眠れなかった。
「動かないでね」
そう言われ、固まる。
すると、紫苑に僕の頭が抱き込まれた。
「これが私からの、ご褒美」
柔らかい感触が、顔全体を覆う。
スベスベの肌と柔らかさと、一定の感覚で撫でられる頭。
「よく、頑張ったね。私、君が活躍して嬉しかったんだよ。自分の彼氏がカッコよく見えて、最高に可愛くて。だから、今日はこのままおやすみ。私の胸の中で、おやすみ。また明日、私と一緒に生きてね」
紫苑の安心するような、静かな声。
人肌の温もりを感じて、なんだか安心感に包まれて、眠くなった。
ずっと、紫苑の腕と胸の中で眠っていたい。
僕も紫苑を、抱きしめた。
お互いがお互いを、抱きしめるように、眠る。
紫苑の心臓の鼓動を感じながら、眠る。
紫苑はちゃんと、生きていた。
紫苑が動くような気配がして、目が覚めた。
まだ薄暗くて、夜中より少し、周りが見えるぐらい。
時計は3時9分を指していた。
「起こしちゃったかな?」
僕の目線のすぐ上にいる紫苑と目があった。
「紫苑こそ、どうかしたの?」
「いや私、目、覚めちゃって。時計見ようと思ったら起こしちゃった」
「全然大丈夫だよ。僕も、寝が浅かったのかも」
緊張していたのは事実だから。
「私の胸でも揉んどく?」
挑発するようでもなくて、本気そうに言っていた。
「なんだよ突然」
「触りたいかな〜、と思って」
「また今度な」
「照れてるでしょ」
「照れてるよ」
僕はもう一度目を閉じた。
後ろから紫苑が僕に抱きつく、柔らかい感触があったから、余計に、安心して眠れた。
「瀬戸君おはよ〜」
そう言われて薄く目を開ける。
外はもう明るくなっていて、カーテンの隙間から差し込んでくる日差しが眩しかった。
紫苑の方を見ると、キレイな肌色の肩が見えた。
「何さ」
「服着ろよ」
「私、寝るときは脱ぐ派なんだよ」
「前は脱いでなかっただろ」
そう言うと小さく笑った。
「私の胸の中は、どうだった?」
「安心出来たよ」
「そりゃよかった」
布団の中からシャツを探したし、着始めた。
僕も布団から出て、歯を磨きに行った。
「一緒に歯磨きしてると、夫婦みたいだね」
普段なら絶対見れないボッサボサの紫苑。
コップ片手にどこから持ってきたのかわからない歯ブラシをくわえ、眠そうに話していた。
「そうな」
「眠いとユーモアもクソもないね」
「紫苑髪やべーな」
「新しい枕で寝るとこうなるんだよ」
何も考えず二人で磨く。
「白川先輩、おはようございます!」
運動部ってなんで朝から元気なんだろう。
「おはよ〜、カオルちゃん」
「だらしない先輩も可愛いです!」
「美少女は何してても美少女なんだよ〜」
適当なこと言ってうがいしていた。
「先輩の髪、私が整えていいですか!」
「むしろしてくれてありがたいよ〜」
まだ寝てそうなオフモードの紫苑と元気な妹がリビングへ行った。
僕は制服に着替えてからリビングへ向かう。
「紫苑ちゃんよく眠れた?」
「お義母さんおはようございます!よく眠れました!」
いつもどおりサラサラの髪になり、急に元気になった。
なんだよ、髪と比例してんのかよ。
「朝ご飯置いておくわね」
「ありがとうございます!」
そう言って紫苑は僕の部屋に制服に着替えに行った。
紫苑が僕の家で一緒に生活してるのは変なのだけど、なんだか親しんでる感覚。
誰も違和感を感じていないような、そんな感じ。
溶け込むのも早いのが美少女なのか、なんて思う。
二人で準備して、終業式に行った。
今日で長かった1学期が終わる。
夏休みか〜〜。
いったい何をするんだろう。
去年は紫苑と散歩しながら喋ってただけ。
今年は多分、そうではないだろう。
楽しみだな。
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