欠点≠美少女

 こ〜んに〜ちは〜!

 皆も大きな声で〜?

 せーの!

 こ〜んに〜ちは〜!

 じゃなくておはよう。

 朝のNHKでやってそうな挨拶をする。

 というわけでどうも、白川紫苑です。

 珍しく連続で私です。

 今朝、彼の家が珍しく鍵を締めていたので、合鍵で侵入しました。

 え、合鍵貰ってるとか、もう私、家族の一人じゃん。

「なんで入ってこれるんだよ」

 不満そうな彼。

「合鍵貰ったんだよ」

 自慢気に鍵をぶらぶらさせる私。

「カオルちゃんも、私のことお姉ちゃんって呼んでいいよ」

 そんな、おこがましくて呼べません!と朝から大きな声で叫ばれた。

 別にいいのに。

 どうせ私達、いつか結婚するでしょ。

 そうなったら毎朝こんなふうに……。

 まずい、いつものように一人の世界に入ってデレそうになった。

「いつか、呼ぶかもしれないね」

 そう言うと、珍しく単語帳なんかを読んでる彼の顔が赤くなかった。

「何、もしかしてそんな気なしに私と付き合ってんの?」

「いや、そんなことないけど……」

「ならいいじゃん。超絶美少女と結婚出来るとか夢みたいでしょ」

 なんだかんだ嬉しそうな彼を見て、私もニヤける。

 おっと、妹ちゃんの前ではしっかりモノのフリするんだった。

「カオルちゃんも女の子なら、早くこういう素晴らしい恋人見つけるだよ〜」

 なんて言っとく。

 これぞ、大人。

 私、大人。

 彼に白い目で見られる。

 こういうとき、見透かされてるのが不便。いや、嬉しいんだけどね。

「紫苑は期末テスト、余裕なの?」

「余裕だよ」

 正直、本気で余裕。

 なんで皆が必死になるのか私にはわからない。

 欠点回避すればいいんじゃないの?

「紫苑が勉強してるとこ、見たことないんだけど」

「別に勉強しなくたって授業聞いてれば取れるでしょ」

 実際そう。

 私は欠点なんて取ったことない。

 私の学校は、クラスの平均点の半分からが欠点で、私はいつも悪くても+2点あたりで耐えてる。

 なのに模試は才能のせいでクラス1位。

 私、こんな現実が許せない。

 才能だけで取れる人間がいるとか、おかしいでしょ。

 なんて自画自賛しとく。

 とにかく、今回も取れるはず。


「試験始め」

 詰んだ。

 ものの見事に詰んだ。

 数学なんかノリと根性で今までいけてたから勉強してこなかったけど、これ、丸暗記だ。

 開始5分で全問題に目を通し、見事に全部わからない。

 やっべぇーーーーーーー。

 当てずっぽうで書いて当たるもんじゃない。

 0点、という文字が頭に浮かぶ。

 まずい、完璧美少女の像が崩れる。

 授業で習ったことを必死に思い出す。

 あ、私、寝てたんだった。

 諦めたらそこで、試合終了だよ?

「終了です」

 私の人生も終了した。

 うまれーてーはーじめーてー。

 0。

 英語は単語と才能でなんとかして、多分95ぐらい。

 完璧。

 でも、数学0がガチでヤバい。

 今まで成績が良かったから親に放置してもらってたけど、これはまずい。

 上手く、誤魔化しきれるか……。

 私は秘技、名前書き忘れを行った。

 これでワンちゃんある。


 無事(?)に全教科終わって後日、点数が返された。

「白川さんが珍しいですね、名前書き忘れてましたよ。よって申し訳無いですがルール上、0点とさせてもらいますね」

 やったーーー!!!!!

 変に来ません使われなくて助かったーーー!!

 作戦成功。

 計画通り……!ニヤァ。

「白川珍しいな、誰だってこんなことあるって!」

「白川さんもうっかりミスってするんだぁ」

「白川クソワロタ」

「拙者が名を刻んでやりますぞ」

 皆も勝手に勘違いしてくれていた。

 ちなみに他の教科も点数はバラバラ。

 英語は98だった。

 結局いつもより悪いぐらいにおさまった。


「紫苑、わざと名前書かなかっただろ」

 彼にはバレていた。

「いや、そんなことないし?」

「今回、覚えていかないと取れないのに授業は寝てるし勉強はしてないし」

「私が0点なんて素で取るとでも!?」

「取りそうだろ」

 彼の中の私の印象 is 何。

「まだだ、まだ慌てるような時間じゃない」

「流石に0点は慌てたほうがいいよ」

「0点じゃないやい!」

 0点だけど!

「僕が教えてあげようか?」

 くっ!

 この私が人に教えてもらうなんて……。

 いや待てよ。

 それはそれで悪くないんじゃないか、と思った。

 私の妄想の世界ではお泊りまで行けてる。

「教えてもらっおかなー、流石に。次の模試、死にそうだし」

 期待で胸を狂喜乱舞させているのを、諦めたような雰囲気で隠し通す。

 これができるから、私は美少女なんです。

「僕はいつでもいいよ」

「来週末、暇?」

「暇」

「ならそこで!」

 約束成功。

 私、大勝利。

 流石に家族もいるから一夜の過ちは起こさないとして、どこまでイチャつけるかがポイントだった。

 私の頭の中では完全にもう、お泊り出来る前提。

「ところで、天文部の入部届けって紫苑はもう出した?」

「まだだよ」

「なら一緒に出そうよ」

 珍しく彼が誘ってきた。

 舞い上がりそうだけど、多分これはかが初めて部活に入るからどうすればいいかわかってないやつ。

 普通に出せばいいのに。

 私としてはラッキーイベント。

「いいよ!一緒に出そっか!」

 私はとびきりの笑顔で答えた。


 もう少しで夏休み。

 それまでに球技大会もあって、私としては楽しみで仕方ない。

 彼はきっと地獄だとか思ってるけど。

 いつか彼にも楽しんでもらいたいな。

 夏休みは、何しようかな。

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