部活≠美少女

 この世で一番可愛いのは誰だ!

 どどんがどんどんどん!

 紫苑でーす!

 将来の夢はありったけのマカロンを死ぬまで食べることです!

 はい。

 と、いうわけで今日も朝から彼の家に来ています。

 今日は勝手に部屋に侵入して、起こしに行こうと思ってます。

 動画配信者のクソ企画みたいに私は張り切って階段を上がる。

 ソッとドアを開けるとまだ寝てる彼がいた。

 ここで私がやってみたいのは、起きたらべッドの下から彼女が出てきた事件。

 我ながら超面白い。

 と言っても面白いのはこれをやる私だけ。

 私が面白ければ全て良し!

 と言うわけでベッドの下に潜ろうとしたら狭すぎて入れなかった。

 クソが。

 こうなったら次の「起きたら下着姿で彼女が横に寝ていた」作戦を決行する。

 さっそく制服のシャツを脱いで……。

「何やってんだよ」

 最低なタイミングで彼が起きた。

 ちょうど、ボタンを開けてるとこ。

「おはよ、昨日の夜は、忘れないから……」

 無理矢理決行。

 白い目で見られる私。

 白川だけに。

 テヘペロ。

「テヘペロじゃないよ」

「うっさい早く起きろし」

 そう言って階下に降りる私。

 この自由さ、もう私の家と言っても過言ではない。

「白川先輩、何してたんですか?」

 妹のカオルちゃんが不思議そうな顔で聞いてきた。

「大人の、ひ、み、つ」

 誘惑的な、色っぽい声で言うと妹ちゃんの顔は真っ赤。

 ホントお兄ちゃんにそっくりだね!

 朝から一人で爆笑する。

「冗談だよ、起こしてきただけだってば!」

 また私一人であはは!と笑う。


 ちなみに、私は美少女で、何をやっても怒られないので基本学校は楽しい場所です。

 でも今日は、どうしても行きたくありません。

「白川先輩、とりあえず明日、体験入部来てくださいよ」

 と、後輩の奈緒ちゃんに言われた。

 だるっ。だるっ。だるっ。

「え〜〜〜、全然嫌だけど?」

「約束は約束です。来てください」

 ゲロゲロ〜〜〜〜〜!!!

 運動なんて1億と千年ぶり。

 多分私は動けない。

 それに、彼と一緒に下校出来ないと思うと、まるで生きてる意味を感じられません。

 あ、ちなみに恋愛はご覧の通り重い方です。

 身体もヘビーだろって?

 ぶっ殺すぞ。

 超スマートだし。

「高校の部活って結構ガチでしょ?」

「そんなことありませんよ」

「私、ランとか耐えられないんだけど」

 普通に美少女を崩したくありません。

 運動出来ないって思われんじゃん。

「適当に力抜いてくれれば大丈夫ですよ」

 やっぱりランあるんじゃん……。

 私は走れるか走れないかじゃなくて走ることが嫌なんですぅ〜。

「でもそんなことしたらあれでしょ」

「なんですか」

「今やぁ、チームええ感じやねん。なんでお前みたいなや、ゆるい考えを持ったゆるキャラがおる。はっきり言って邪魔害悪、出ろ!って言われるんでしょ?」

 完璧な声真似で私が言う。

 こんな可愛い女の子がガラガラ声を出すのは変なので、彼の前でしかやってこなかった。

 毎回変人を見る目で見られたけど。

「動画の見すぎです」

「私、運動したくないんですけど」

「運動不足なので一度くらい来てみてくださいよ」

 うっ。

 運動不足は事実。

 仕方ない、行くかぁ。


 と、決意した私を今呪っています。

 それにあの日、彼は勝手に帰ったので私は許しません。

「瀬戸君は見学という名目で私の専属マネージャーね」

 本気で嫌そうな彼の顔。

 私の汗と涙が見られるんだから来いよタコ。

「なんで僕がそんなこと」

「私がやるんだからやるんです。私達、二人揃って一人みたいなとこあるじゃん」

 適当な自論。

 でも実際、ホントにそう思ってる。

 私にかけてるところを彼は持ってると思う。

 思慮深さとか、ちゃんとした優しさとか。

 だから、私達二人揃うと一人前になれる。

「わかったよ」

 なんだかんだ了承してくれる彼。

 いつものこと。


「皆、おはよー!」

 大きな声で教室に入る。

 すると有象無象共が私を迎えてくれる。

「白川さんおはよう!」

「白川おはー」

「よ、白川」

 なんだぁ、テメェ?

 部活に来た監督みたいな対応をされる。

 ていうか、私にだけ露骨に媚び売るなよ。

 他の子にも媚び売ってあげて。

「おはよ!」

 それでも私はニコニコと対応する。

 我ながら神対応。

「先輩、ちゃんと着替え持ってきてくれたんですね」

 奈緒ちゃんがしれっと教室にいた。

 この子も多分、私のことが好き。

 私の横は一生空かないのに。

「持ってきたよ。私は約束を守る女なので」

「授業終わったら私が迎えに行くので待っていてください」

「おっけい」

 あー、嫌だな〜〜〜〜〜。

 部活のある日は毎日こんな感情だった。

 いかにしてサボるかを常に考えてる。

 憂鬱。

 白川紫苑の憂鬱。


「先輩、迎えに来ました!」

 ダラダラしてた私に、張り切って現れた後輩ちゃん。

「さ、行きましょう!」

 目、輝かせんなし。

「わかったし〜、あと5分待って」

「お前みたいなゆるいキャラ」

「あ〜あ〜わかりました、行きますぅ」

 嫌々立つと、引っ張って連れて行かれた。


 いざ体操服+ジャージに着替えて、あ、ジャージは暑いか。

 いざ体操服に着替えてグラウンドに行くと、準備運動をしてる他の子達がいた。

 何こいつ、みたいな目で見てくる。

「監督、前に言ってた白川先輩です」

 監督と呼ばれてるその人は、優しそうな若い男の先生だった。

 良かったぁ。

「じゃあとりあえず、軽くでいいから練習に入ってもらって、しんどくなったらいつでも抜けていいからね。あと、水分補給は好きなタイミングでいいから」

 もう暑くてしんどいです!なんて言えるはずもなく、仕方なく準備体操に混じった。

「おい見ろ!白川だ!」

「しかもジャージ無しの半袖半ズボンだぞ!レアすぎる!」

「初めてちゃんと見たけどマジで可愛いな」

「俺ちょっと狙いて〜」

 彼以外に肌をあんまり見せたくなくて、いつもジャージを着ていたけど、今日は流石に暑すぎた。

 もう6月だし。

 雨降れや。

「ちょっとあなた」

 先輩の人に話しかけられた。

「はい」

「本気じゃないなら部活、来ないでもらえる?」

 ひぃぃぃぃぃぃぃ。

 これが嫌で部活辞めたんだった……。

「はい!」

 二度と来ません!

 すごい笑顔で私は言った。

 自分でも怖いぐらい、ニッコニコ。

 そのまま準備体操とか言って走らされた。

 私はもうクタクタ。

 足つりそう。

 あ、癒しの彼は!

 来てなかった。

 その代わり大量の有象無象が来ていた。

 あんにゃろー、ぶっ殺す。

「白川さん、シャツ着てる?」

「へ?」

 そう言われて自分の身体を見ると、汗で肌着が透けていた。

 有象無象。

 同じグラウンドでやってる野球部。

 皆が私を見ようとしてる。

 し、死ぬ。

 彼以外に見せる気ないのに。

 クソ暑い中、私はジャージを着込んだ。

 溶けそうだった。

 そのままキャッチボール、ボール回し、ノックまでして、私は案の定ぶっ倒れた。

 熱中症。

 頭がクラクラしてもう限界。

 皆が近寄ってきて私を取り囲む。

 あ、でも、目を閉じると楽だ。

 そう、天に召されそうな……。


 じゃない!

 慌てて飛び起きると、もう保健室だった。

「紫苑、大丈夫?」

 いないはずの彼がいた。

「紫苑、水筒持っていってなかったから水分補給せずにぶっ倒れたんだよ」

 あ〜、そうなんだ。

「ここまで私をおろしてきたのって誰?」

「僕だよ」

 なら、安心。

 この私の胸を堪能していいのは彼だけ。

 誰かもわからないボケに担がれて胸を感じられたとかだったら最悪だった。

「ていうか、あの場にいたんだ」

「いたよ、後ろの方で見てた」

 なんだかんだ私を見てくれてる彼が愛おしい。

「私、運動部向いてないや」

「そうな」

 ちょっと休んで、二人で帰った。

 なんとなく一緒に帰れることが嬉しくて、手を繋いだ。

 いわゆる、恋人繋ぎ。

 お互いの指を絡めあって、なんだか変な感じ。

 これちょっとえっちだよね。

「何かしら部活入りたいなら、天文部入る?」

「何それ」

「実質廃部の部活」

「入る」

 それつまり、彼と二人じゃん!とテンションをあげる。

 天文部かーー。

 午前2時に踏み切りに、望遠鏡を担いで行きたくなった。

 彼と一緒なら、何をしてても楽しい。

 これからも、ずっと一緒。

 人生とかいうつまんないクソゲーも、楽しくなりそう。

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