争いでは何も生まれない

「というわけで、私と白川先輩で勝負します」

 放課後、いきなりやってきた瀬川さん。

 クラス全体に説明をする。

「なんと言っても白川だ!思慮深くいのに気さくで、優しくて才色兼備、文武両道、それに加えて謙虚で完璧美少女なんだぞ!」

「そうだそうだ!もっと言ってやれ!ミスコンNo.1がなんだってんだ!」

「俺達の白川に勝てると思うなよ!」

「私達も白川さんに勉強教えてもらってるんだから!天才なんだよ!」

 と、男女問わず好き勝手叫ぶ。

 紫苑を男女平等社会のマスコットにすれば、実現出来そうだな、と思った。

 紫苑は嫌がりそうだけど。

「ですが皆さん、私に投票していただけると、そんな可愛い白川先輩が部活をしてくれるんですよ?」

「それがなんだってんだ!」

「白川先輩のユニフォーム姿、見たくないんですか。同じグラウンドで汗を流し、たまたま手を洗うところで一緒になるとタオルを貸してくれる上に、まさに天使のような笑顔でこう、囁いてくれるんです」

 静まりかえって、瀬川さんの次の言葉を、待つ。

 教室全体が、息を呑んだ。

「部活、お疲れ様って」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

「キャァァァァァァァァァ」

 男子の咆哮。

 女子の悲鳴。

 教室が揺れる。

 そして話してる間に段々声のトーンが上がっていった瀬川さんも、実は紫苑のことが大好きなんだろう。

 それにデレてたし。

 紫苑の狂信者しかいなかった。

 そして当の本人はというと、珍しく照れたような顔をしていた。

 ちなみに冷静なフリをしてる僕も想像して叫びたくなった。

 絶叫。

 恐怖。

 嫉妬。

 こんなことを僕以外にするなんて絶対許せない!!

 言うわけ無いだろそんなこと!俺の彼女が!!

 全集中の呼吸をする。

 それこそ死ぬ気で怒りを抑えた。

「俺、瀬川に投票するわ!」

「く、背に腹は代えられないでござる」

 拙者野郎、お前はグラウンドにいないから投票しても意味ないだろ。

「ソフトボール部ってマネージャーありますか!?私、なります!!」

「今から入れる保険ってありますか!?」

 等々。

 紫苑はちょっと呆れたような顔をしていた。

 好きになられ過ぎたか〜みたいな。

「というわけで皆さん、2ヶ月後はよろしくおねがいしますね!」

 大絶叫の中、したり顔で瀬川さんが帰っていった。

「白川さん、私は白川さんに投票するからね」

 と、南さんは紫苑に言っていたけど、紫苑はもう半分諦めていた。


「そういう問題じゃないんだよね〜」

 下校のとき、電車を降りた後二人で歩いていると、紫苑がそう言った。

「そうだろうな」

「私、奈緒ちゃんが嫌いなわけじゃないんだけど、私の自分ルール上、駄目なんだよね〜」

「紫苑から聞いての意味がわかっても、意味ないもんな」

 そうなんだよね〜、と困ったように言っていた。

「2ヶ月の間に意味に気づけず、このままこのやり方で進んだら、私が負けたとしてもソフトボール部に入らないだろうね」

「そうな」

「瀬戸君はどっちに投票する?」

「紫苑」

「良かった。瀬戸君まで私のユニフォーム見たいとか言い出したらどうしようかと心配になってたんだよ」

「それは見たいけど、紫苑の方が可愛いからね」

 というと、ビックリしたように僕を見た。

「見たいんだ、私のユニフォーム」

「そりゃ見てみたいよ」

「休日暇ならキャッチボールでもする?」

「僕、投げれないし取れない」

 あちゃぁ、と紫苑は肩を落とす。

 だけど、何かを思いついたように笑顔になった。

「球技大会あるし、やっててもいいんじゃない!?」

「確かに。ならやろうかな」

 やった!と嬉しそう。

「それにしても、意味に気づけたら私がまたソフトボール部か〜〜」

「嫌なの?」

「スポーツ飽きたんだよね。eスポーツはやりたい」

「それじゃ瀬川さん、怒るでしょ」

 うーん。と空を見上げる紫苑。

「奈緒ちゃん、私と正反対なんだよね」

「だよね。裏表、ない感じ」

「瀬戸君流石だね。わかるんだ」

 それはそれでなんかなー、と紫苑がぼやく。

「しかも奈緒ちゃんって、ホントに誰にでも優しくて皆の名前覚えてるんだよ。自信満々なところだけ私と似てて、それ以外正反対」

「ツンツンしたところもあるしね」

「私はデレデレっていいたいんかい!」

 そう言って僕の顎に頭をグリグリする。

 今まさにデレてるじゃん。

「それでも紫苑の方が可愛いだろ」

「昨日私にあんなことしておいて、奈緒ちゃんの方が可愛いとか言い出すわけないもんね!」

 ちょっと根に持ってそうな笑顔。

 僕は苦し紛れに、はははと笑っておいた。

 僕だってそれなりに寂しいんだよ。

「で、紫苑は作戦とかあんの?」

「ないよ。適当に過ごす」

「僕に何か出来ることは?」

「奈緒ちゃんに何か聞かれたらさ、上手くヒントは上げてあげてよ」

 やっぱり、嫌いじゃないんだろうな、と思った。

 紫苑は自分で気づいてないけど、ちゃんと未来のことをよく考えてる。

 自分の仲のいい人、認めた人限定だけど、話も聞くし気にもしてる。

 意外と繊細な人間。

 それを隠すように、こんな性格をしてる。

 哀れで可愛い。


 ちなみに僕としては、ソフトボール部に紫苑が入るのは反対だった。

 個人的な理由だけど、遊べる時間が減ると思うから。

 夏休みの間も多分、練習だろうし。

 平和に争いなく決めたらいいのにな〜なんて思う。

 全部僕の都合だけど。

 だって勝負して、無理矢理紫苑をソフトボール部に入れて、それで紫苑がちゃんと来るのかわからないし。

 そうなったら結局、何も生まれない。

 誰にも何も、生まれない。

 上手く平和にやってほしい。

 できれば僕の都合のいいように。

 ふと、自分の身勝手な都合に気がつく。

 考え方が自ずと紫苑に、似てきてしまっているかもしれない。

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