平和を許さない現実、戦って勝ち取る平和
僕は激怒した。
現実に対して。
あれだけ平和を熱望したのに。
紫苑だって初詣で世界平和を望んでいたのに。
「白川先輩って、まだ来てないんですか」
ショートカットのまだ初々しい、ミスコンのあの、一年生。
スタイリッシュな、スポーティーなイメージの子。
本気で追い出したかった。
本来なら僕は関係ないのに、紫苑のせいで思いっきり関係あるから。
「僕に言ってる?」
「目、合ってるじゃないですか」
「あの、お願いだから話かけないで欲しいんだけど」
「失礼ですね。ミスコンチャンピオンの私に話しかけられて、光栄じゃないんですか?」
紫苑と同じ自信過剰属性だった。
とりあえず僕はこの子を無視して席についた。
「ちょ、さっきからなんで無視するんですか!」
「頼むからやめてくれ!命が無くなる!」
強く言うと少したじろいでくれた。
「あの、私、なんかしました?」
「今やってるよ!」
そう言うと、強く教室のドアが開く音がした。
しかも、割と乱暴に。
あぁ、来てしまった。
「瀬戸く〜ん、誰とお話してるのかな〜?」
朝からピリピリしてる。
どうやったらそんな元気が朝から出るのか教えてほしい。
「白川先輩、やっと来ましたね」
「ちょっと瀬戸君、どういうこと。このクラスには私という超絶美少女、クレオパトラだって恐れおののいて伏して控えると言われているこの私がいるのに、どうしてこのチビにうかうかしてたの?」
「白川先輩、私のこと覚えてますよね?」
紫苑はまるでこの子の話を聞いてない。いや、聞こえてないみたいな顔をしてる。
いきなりカオス。
僕を巻き込むなよ。
笑顔なのに目が笑ってない紫苑。
紫苑を睨むミスコンの子。
ショートする僕。
それを静観するクラス。
死にたい。
「あの、私の話聞いてます?」
「今忙しいし!後にしてくれる?」
「白川、あの子の話聞いてあげろよ」
「それで後輩ちゃんはどうしたの?」
恐ろしい程の作り笑顔でその子に振り返った。
流石にその子もビックリしている。
そりゃ誰だってビビるわな。
「私には瀬川奈緒っていう名前があるんで、その後輩ちゃんっていう呼び方やめてもらえます?」
「それで後輩ちゃんはどうしたの?」
目の笑ってない笑顔。
怖すぎ。
諦める瀬川さん。
「今日は宣戦布告に来ました」
「よっしゃかかってこいやぁ!」
いきなり紫苑が叫ぶ。
「白川先輩って、テンションの上げ下げどうなってんですか……」
「で、勝負でしょ、何すんの?」
人の質問には全く答えない相変わらずのマイペースさ。
「そろそろ朝のホームルーム始まるんで、昼休みに言いに来ます」
「あ、私昼休みは委員会で図書室にいるから」
また来て〜と手をヒラヒラさせる。
「流石白川だぜ!ミスコン優勝者を手玉にとってやがる!」
「こりゃもう勝負あったんじゃねぇの!?」
「いやでも、瀬川も結構かわ……」
「お前それ言ったら白川に殺されるぞ」
「わりぃこと言わねぇからやめとけって、おめぇ殺されっぞ」
クラスの男子達が外野から騒ぐ。
得意気な顔の紫苑。
やられたみたいな顔をする瀬川さん。
もうやめましょうよ。
命がもったいない。
「図書委員会って死ぬほど楽だよね」
僕達以外誰もいない図書室で机に、寝そべり転がる紫苑。
見つかったら絶対怒られる。
「先輩、普段はそんなだらしないんですか」
「そうそう、私は普段はぐうたらするのが好きで〜って、図書室では静かにしろやい」
本も何も持たず、瀬川さんが立っていた。
「白川も悪いけど、図書室では静かにしてくれな」
「すみません」
「ところで、本も持たずにどうしたの?」
僕が聞くと、紫苑を睨みながら答えてくれた。
「私も図書委員なので」
当番じゃなければ図書委員も図書委員じゃないだろ……。
「今日の当番は私達だけど、後輩ちゃんなんか用?」
何気に顔は覚えてるんだな、なんて思う僕。
多分、名前も覚えてるけど引くに引けないんだろうな。
「私と勝負って言いましたよね」
「言い出したのそっちだけどね!」
あはは、とバカにしたように笑う。
今日の紫苑、なんかハイになってる。
「2ヶ月後、先輩のクラスでアンケート取ります。私の方が可愛いか先輩の方が可愛いか。それで票数の多かった方の勝ちでどうですか?」
それって、紫苑が圧倒的に有利じゃないか?
「それ、私の方が有利だけど、いいの?」
紫苑も同じことを思ったみたいだ。
「これで勝たないと、白川先輩を超えたことにならないじゃないですか」
「ちなみに私、それについてはどうでもいいから好きに超えたや劣ったや言ってもいいよ」
そう言うと、瀬川さんが驚くような顔をした。
「あれだけ美少女にこだわってた先輩が、どうしたんですか!?」
なんだか話が見えてこない。
まるで紫苑を知っていたかのような口振り。
「別に。だって、私の方が可愛いのが事実だから、勝手に名乗ればいいと思うだけだよ」
何かに驚いたみたいに瀬川さんが震える。
僕からするといつも通りの紫苑だった。
自分が良ければ全て良しの。
「中学のとき、あれだけ言ってたのに……」
「白川、後輩?」
「いや、知らないけど?」
「後輩です!なんなら部活も一緒で仲良かったじゃないですか!それに敬語もいらないって!」
紫苑が半ニヤケ顔で天井を向いて、「えっと〜」とか言ってる。
この顔は本気で忘れてるな。
「もういいです。白川先輩が意味わかんない質問してきて、それ以来話さなくなったんじゃないですか」
「あぁーー!!!思い出した!!」
こいつが一番うるさかった。
「白川、図書室」
あ、すみません。と声を潜める。
「思い出してくれましたか?」
「思い出したよ!そう言えば瀬川だった」
結構ひどいな、と思う。
「私、あれから努力して先輩に認めてもらえるぐらいに可愛くなりました」
僕は状況を整理する。
紫苑が何か質問をして、それに紫苑の納得の行く答えを得られなかった。
それ以来、紫苑が話すことはなかった。
もしかしてそれって、可愛いとかそういう問題じゃないんじゃないか?
「あの質問についてよく考えもしました。それでも未だに、意味がわからないんです。だから、私が勝ったらあの質問の意味、教えて下さい。そして、私と一緒にもう一回ソフトボールやってください」
「ちなみに何だけど、それってどんな質問?」
僕が聞いてみた。
「さっきから横にいますけど、あなた誰ですか?」
「瀬戸君だよ。私と同じ図書委員!」
何故か紫苑が喜んで答える。
「そうですか。ちなみに質問は、なんで?だけでした」
やっぱり。
紫苑は、それで自分のことを理解しているか問いたかったんだ。
それて思ったような答えが返ってこなかったから、この子に興味がなくなったんだ。
ていうか紫苑、ソフトボールやってたんだ。
全然知らなかった。
「瀬川さん、その質問は多分」
「待って瀬戸君」
紫苑が僕をそう、制する。
「奈緒ちゃん、いいよ。その勝負乗ってあげる。それともう一つ、ルールを追加してもいい?」
「なんですか」
「その質問の意味を理解した時点で奈緒ちゃんの勝ちでいいよ」
「わかりました。では、私はこれで失礼します」
そう言って瀬川さんは、図書室を後にした。
図書室には、変わらず机でぐうたらしてる紫苑と僕だけ。
また、沈黙が流れるけど、すぐに破られた。
「あ、私負けたらソフトボールやらなきゃいけないんだ!!!」
ポンコツ具合では、紫苑の方が上そうだった。
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