主導権≠美少女

 どうも、絶世の美少女こと、白川紫苑です!

 紫苑は〜?

 今日も可愛いー!

 はい。

 ということで現在、文化祭の打ち上げ帰りの電車です。

 ホントは彼と二人で帰りたかったのに、同じ方面の人が多くてちょっと、いやかなり、ガッカリしてます。

 外はもう暗くなっていて、まだ少し肌寒いような季節。

 このぐらいの気温になると、映画を観に行ったあの日のことを思い出します。

 おっと、最寄り駅についたので可愛い寝顔で寝てる彼を起こして一緒に降りないと。

 なんだか面白くなって、私は彼の顔をビンタして起こしてみた。


 私達以外にも何人か同じ最寄り駅がいて、私は少し焦った。

 歩いて帰るときぐらい、二人が良かったから。

 安心したことに、他の人達は違う方に歩いていって、私達二人になった。

「今日、どうだった?」

 寝起きでまだボーッとしてる彼に聞く。

 何か話したくて。

「楽しかったよ。ブュッフェとか」

「それ私との会話でしょ!」

 あはは、と私は笑う。

「いつか、僕達二人でああやって暮らせたらいいのにな」

 彼が珍しくそんなことを言う。

 普段は照れて、絶対言わないのに。

 何気に打ち上げ帰りでテンションがハイになっているのだろう。

「そうだね、私はずっと、楽しみにしてるよ」

 二人でゆっくり帰る。

 私に歩幅を合わせてくれる彼が愛おしくて。

 この時間が、愛おしくて。

 なるべく長くしたくて。

「来年も紫苑と、まわりたいな」

「同じクラスだといいね」

「成績順だし、同じクラスだろ」

 彼はクラスの真ん中と言っても、何気に頭はいい。

 私と違って勉強してるところを見たことがないから多分、天才型。

 私は色々と努力で掴んでるけど、彼は努力無しで掴み取る。

 羨ましいな、と思った。

 あ、この顔だけは生まれ持ってるので。

 正直、顔とかどうでもいいけど。

「ちなみにどこの学部に行くか決めた?」

「僕は経済」

「なら私も経済」

 そう言うと呆れたような顔をして彼が私を見る。

「なんか文句ある?」

 不貞腐れたように私が言う。

「別に何も」

 諦めたような顔をする彼。

 そういう顔も、可愛かった。

 私なんて比にならないくらい、彼は可愛い。

 だからこそ、不安なんだよ?

 君が取られないか。

 いつか私から、強引に奪ってくる人がいるかもしれない。

 如何せん私は性格が終わってる。

 悪いわけじゃないけど、人に興味がないし、夢とか未来とかに興味ないから。

 彼との未来にだけしか、興味ないから。

「ところでさ、紫苑」

 沈黙が流れて、二人で近くの公園付近にたどり着いたところ。正確に言えば、普通に歩いてあと家まで5分ちょいのところ。

 そこで彼が足を止めた。

 なんだろう。

「何?」

「僕、紫苑を取られたくないんだ」

 彼は急にこんなことを言うからずるい。

 私は照れて、顔を赤くした。

「急にどうしたの?」

 誤魔化すようにちょっと笑って私は言った。

「今日、打ち上げを見てて、横からわかるぐらい、紫苑は色んな人に狙われてる。僕はこんなだから、いつか紫苑に呆れられるかもしれないって、不安なんだ」

 実際、打ち上げ中に2、3人に告白された。

 もうこのクラスで私に告白した人は4人ぐらい。だから、今や合計6、7人。

「大丈夫だよ、私が瀬戸君を裏切ることなんて、絶対にない。だって、私の心の中、見えてるみたいだから。こんな人、君以外いないよ」

 そう。

 寧ろ捨てられるなら私の方なんだよ、と思う。

 彼が不安なのと同様に、私も不安。

 だから、愛を確かめたい。

 だから、こうして話す。

「紫苑、こっちに来てくれる?」

 私は意味もわからず吸い寄せられるように、彼に近づいた。

 私は彼に右を向けと言われれば右を向くし、死ねと言われれば死ぬし、生きろと言われれば生きる。

 だから今回も、素直に近づいた。

「何?」

 彼の冷たい手が、私の顔に触れる。

 彼の冷たくても、その奥底は暖かい手に、私は溺れる。

 彼の手に顔を擦らせて、気持ちよくなる。

 すると私の顔は、彼の両手に固定された。

 あ、するんだ。

 直感だけど、そんな雰囲気だった。

 私は静かに、目を閉じる。

 そして、小さく、口を開く。

 彼は私の待ち顔を見て、何を思うだろう。

 可愛く見えてるかな?

 あ、ヤベ、私ニンニク食べてなかったっけ?

 食べてないや、大丈夫。

 彼が近づいてくるのを感じて、心を落ち着ける。

 そして、私達の唇が重なるのを感じた。

 彼が私の中に流れるのを感じる。

 それが気持ちよくて、安心できて。

 私はもっと深く、彼を感じたかった、

 彼が私の唇から離れるのを感じた。

 薄く、目を開ける。

 顔を真っ赤にして私から目をそらしている彼が見えた。

 なんだか可愛くて、愛おしくて。

 今度は私からキスをした。


「2回もキスしちゃったね」

 そう言うと、彼はまだ恥ずかしそうにいた。

「そうな」

 この返事をするときは呆れてるときか照れてるとき。

「これから何回もするんだから、私の唇、よく覚えておくんだよ?」

 そう言って私はリップを塗り直す。

 正直なところ、もう一回ぐらいしときたかったから。

 でも、そんな私が主導権を握るようなことは、美少女として出来ない。

 だから、彼から来てくれるのを待つ。

 私に出来るのはそれだけ。

「じゃあ、また明日ね」

 結局、出来ないまま彼の家についた。

 私の家は更にここから10分ぐらい歩いたところ。

 ここからは一人か〜、と少し寂しく感じる。

 そんなことを思っていると、彼がなかなか家に入らないのに気がつかなかった。

「どうしたの?」

「やっぱり、送っていくよ」

 私は嬉しくなって、思いっきり彼の腕を掴んだ。

 私の心臓から、ポンプのように感情が溢れ出す。

 もっと一緒にいられるんだ。

 私の文化祭はまだ終わらないんだ!

 そのままなんだか嬉しくて、彼を引っ張って走った。

 私としたことが、しくじった。

 思ったより早く家についたから。

「今度こそ、お別れだね」

「別に今生の別れってわけでもないのにそんな言い方するなよ」

 薄く笑う彼。

 私は諦めて家の鍵を出し、鍵を開けた。

「じゃあ、また明日ね」

 そう言おうと振り返った。

 すると、言おうとした私の唇は塞がれた。

 ビックリして、何がなんだかわからなくなる。

 ただ、彼も寂しかったのかな、なんて思った。

「いつか絶対、寂しくならないようにするから」

 唇を離した彼はそう言って、私に手だけ振って帰った。


 家に戻った私は、玄関で力を無くしたかのように膝から崩れる。

 今でも状況が読み込めていない。

 あの引っ込み思案で奥手の彼が?

 あれが現実かどうか、私にもわからない。

 私がして欲しさに見ていた、夢なんじゃないか。

 唇を触る。

 わずかにまだ湿っていて、彼を感じた。

 舌で軽く唇を舐める。

 その行いが我ながらキモすぎて、ビックリして、顔を赤くした。

 ヤバい。

 今日の夜、一人冷静でいられるかな。

 ドキドキして、心臓バックバクで、ばっくばっくばくーんで、身体が熱い。

 あぁ、今日は、早く寝よう。

 寝れたらの話だけど。

 私はそうして、無我夢中で、私の文化祭を終わらせた。

 次の日、テンション高めでガンギマリの私が出来上がったことは言うまでもないよね。

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