美少女≠ミスコン

 昨日と同じようにシフトを終え、昨日と同じ空き教室でたこ焼きを昼ご飯として食べた。

「覚えてる?付き合う前に初詣でたこ焼き食べたの」

「覚えてるよ」

 確か、世界平和の話をした。

「あの時より美味しく感じる」

「たまたまだろ」

「そんなことないよ!多分、心の距離が縮まったから」

 紫苑がロマンチックなことを言おうとしていた。

「近接の法則って言って、物理的距離が近づくと心の距離も近いと錯覚するっていう現象が」

「そんな夢のないこと言うなし!」

 普段夢なんか〜とか言ってるのに。

 都合のいいヤツ。

「そうな」

「そうなじゃないよ!」

 むぅ!と可愛く膨れる紫苑。

 自分で可愛いと思ってしてる動作。

 何度見ても哀れで可愛い。

「ミスコン見に行くんじゃなかったっけ?」

「あ、そうだった。そろそろ始まる」

「ところでなんでミスコンなんか?」

「私の次に可愛い人ってどんな人か、見たいじゃん」

 とんでもなく不純な動機だった。

 そうして僕達は武道館に向かった。


 ミスコンは他推もありだが、最終的には出るか否か聞かれて、断ることもできる。

 紫苑は毎年断ってるらしい。

 去年は、当日に風邪を引いたのが理由で辞退している。

「だから私、ミスコンって見たことすらないんだよね。何やるかも知らないし」

「立ってニコニコしとくだけじゃミスコンにならないし、特技でもやるんじゃない?」

「何それ大道芸団じゃん」

「紫苑の特技が大道芸にかたよってるだけじゃない?」

「失礼でしょ!私バク転もできますぅ」

「これスカートのままやるらしいよ」

「……」

 ムスッと膨れた紫苑と一緒に前を見つめて、始まるのを待っていた。

「これより今年度のミスコンを開始いたします!!」

 歓声と共にエントリーした人たちが入ってきた。

「うわ、私誰も知らないや」

 人に興味のない紫苑が知ってるはずもなかった。

「あれ、白川出なかったのか?」

 そう言ってノコノコ現れたのは須藤だった。

 それとクラスメイト数名。

「え、なんで瀬戸と一緒に」

 The otherが驚いたような顔をする。

 こいつら僕に失礼すぎるだろ。

「ほら、シフト一緒だからそれのついでに」

 あぁ、なるほど!とバカ達が簡単に納得する。

 僕が言っても信じないくせに紫苑の事は信じるんだな。

「白川も出れば良かったのに」

「私は出ないよ、だってこういうの興味ないもん」

「一番ありそうなのに」

「別に私、自分が美少女だとかどうとか興味ないし」

 嘘つけ。

 一番興味あるしこだわりまであるくせに。

 その証拠にさっきから彼らと目も合わせず、前に立つ自分の先輩やら後輩やらを見ている。

 なのに周りの奴らは「おぉ、それでこそ真の美少女だ」なんて言っている。

 それを聞いて無意識に自慢気な顔をする紫苑。

 矛盾しかない。

 加えて普段、自分がそんな顔をしているなんて露も知らない。

 哀れで可愛い。


「意気込みを3年生からどうぞ!」

 司会の人が張り切って質問を始めた。

 くだらないな〜なんて紫苑が横で言う。

「最後の文化祭の思い出として、頑張って勝ちたいと思います!」

「文化祭の集大成として、一位になれたらなと思います」

「見てよ。あんなこと言いながら勝つ気満々なんだよ、あの人達。私があんな中入ったらボッコボコに殺されるよ。私、出なくてよかった〜」

 とか言いながら紫苑の目はマジ。

 自分なら勝てるかよく見てる。

 紫苑も立派に、あの前に立ってる人たちの一員。

「では5人目の、唯一の一年生の子、どうぞ!」

「今、学校にいる先輩達の中で一番美少女って言われてる白川先輩が出ていないので、私が勝つと思います」

 紫苑に名指し。

 ビックリしたように紫苑がこっちを見る。

 こっち見んなし!

「なるほど、なら白川さんが出てたら、負けてたって意味になりますけど、どうなんですか?」

 司会が掘り下げる。

 頼むからいらないことをしないでほしい。

「それでも私が勝ってました。絶対」

「はぁ!?あのチビ、私より可愛いっての!?上等だし。やってやんよ!」

 出たら良かったのに。

 さっきまでの「私はあの人達とは違うんです〜」みたいな顔はどこに行ったんだろう。

「瀬戸君もそう思うでしょ!?」

「あ、うん。そうだね」

 周りにクラスメイトも同学年もいっぱいいるんだから僕を名指しで呼ぶなよ!

 紫苑が僕のことを好きってバレル時点で面倒くさいんだから。

 でも今紫苑には多分、そんなことを考えてる余裕なんてない。

 ライバル意識むき出し。

 ちなみにチビとか言ってるけど、紫苑だって身長は変わらない。紫苑が163cmで多分あの子が160cmぐらい。

「俺たちも白川の方が可愛いと思うよな!な!」

 周りの同学年の男子達が騒ぐ。

 ミスコン参加してないんだから紫苑の名前出すなよ、と思うけど、多分そんなこと言っても誰も聞かない。

「ね!みんなもそう思うよね!」

「おう!白川も裏表なくて誰にでも優しい才色兼備、文武両道の完璧美少女だろ!」

「も?」

 紫苑が無駄な単語に反応する。

 あ、いや、と慌てる男子達。

「ふ〜ん、そうなんだ。皆もあの子可愛いと思ってるんだ。私が横にいるのに」

「思ってません!」

「だよね〜!」

 大満足の顔の紫苑。

 それでいいのだろうか。

 本人がいいなら、いいか。

「よし、平和は、戦って勝ち取るんだ〜」

「おお〜〜〜!!」

 体育会系、怖いね!

 後ろの方で盛り上がってるせいで、会場の視線がこっちに向いている。

 これが、共感性羞恥。

「あの〜、白川さんがそこにいらっしゃるなら、今から出ますか?」

 司会の人がマイクでこっちに向けて言ってくる。

「私、白川紫苑の代理の者ですけど出ないそうです〜」

 紫苑が自分で叫ぶ。

「えぇ〜〜!?」

 体育会系皆が口を揃えて驚く。

 僕だってこの流れで出ると思ったから意外。

「ふっ、敵は1年にあり」

 とか変なことを言いながら、ポケットに手を入れて武道館を後にしていた。

 張り合わずに終わってくれれば、一番平和でいいのに。

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