美少女曰く、幽霊とは己の魂らしい

「お化け側っていう言い方、なんだか神妙というか、奇抜ではないけど、妙じゃない?」

 何かを解った風な気取った顔で紫苑が語りかけてくる。

 はっきり言って紫苑のほうがよっぽど奇抜で妙。

「それはつまり、生きてるサイドか死んでるサイドに分けてるみたいに聞こえるからってこと?」

「That's right」

「英語喋っちゃうとそれは幽霊じゃなくてゴーストだよ」

「バスターしちゃう?」

 どこからか持ってきた掃除機で紫苑が遊び出した。

 それを僕はしまわせる。

 なぜなら僕たちは今、吸われる側の仕事をしているから。

「ほら、次のお客さんきたよ」

「なんだかゾクゾクするね!」

「先に紫苑で、追いかける役が僕だからな。さっき紫苑が出ないから二人で出てカオスになったし覚えておいてくれよ。企画者だろ?」

「な、まるで私が理解してないみたいな言い方しないでよ!わかってるから!」

「ほら来た紫苑!行け!」

「白川紫苑、行っきまーす!」

 小声で気合いをいれて突っ込んでいった。

「ぶっ殺しちゃうぞー!」

 超物騒。

 そしてあまり怖くない。可愛いがどうしても勝るから。

「このお化けかわいー!」

 先輩の方だったみたいで、違うベクトルの悲鳴が聞こえてきた。

「な、ちょ。驚いてくださいよ!ほら!怖いですよ!」

 お化け屋敷→お化けのコスプレした女子高生が出てくる迷路

 に変更したほうが良さそう。

 ニコニコで去っていった先輩達を僕がストーカーのように静かに跡をつけ、最後は走って追いかける。


「影薄い瀬戸がやったら怖いんじゃね?身長も高くもないし低くもないから丁度いいだろ」

 という半分悪口みたいな理由で、クラスのほとんどの男子によりここの役目にされた。

 その後色々いじった結果紫苑が僕と同じ役割となったそう。

 もうクラス全体に紫苑が僕のこと好きなのバレてるのではないか、と思った。


 無事に僕に怖がって(色んな意味で)くれたみたいで、教室を出ていった。

「瀬戸君、マジで面白いよ、それ」

 紫苑が僕を指さして笑っていた。

 静かに、だけど僕にはかなりうるさく聞こえた。

「紫苑はもうちょっと上手くやれよ」

「わかった。本物の幽霊になってやるよ」

「おいおい、勝手に死ぬなよ」

「死ぬよ。人間はいずれ」

 平気でこういうことを言うのが紫苑。

 普通の美少女なら人生楽しいだろうに、この性格のせいで全く楽しくなさそうだと思うと哀れに思えた。

 哀れで可愛い紫苑に、仕事を忘れて見惚れる。

「あ、次の人来るよ。私に見惚れる暇あったら私の魂に見惚れてよ」

「どういうこと?」

「幽霊って魂じゃん?」

 紫苑はつまり、本物の幽霊になった気でいる、ということ。

「そうだね」

「だから私の魂に見惚れな。幽霊っていうのは、己の魂の鏡だよ」

 意味のわかるようでわからない話を自慢げに語る。

 多分、自分がカッコいいと思っているところが哀れで、可愛かった。

「元々見惚れてるよ。それよりほら、準備して」

「任せろし!全員恐怖で鎮めてやんよ」

 だから鎮められるべきなのはお化け側だって。


「ところでさ、前家に行ったとき犬飼ってなかったけど、あのワンちゃん死んじゃったの?」

 次の人を待つ間ふと、紫苑が聞いてきた。

「違うよ」

「あー、つまり、おじいちゃんとかおばあちゃんの犬、ってこと?」

 察しが早いおかげで会話がスムーズに進むのが紫苑のいいところでもあった。

「そうだよ。休みの日は僕も暇だし、かわりに散歩してる」

「なるほどね。また一つ瀬戸君の謎が解けたよ」

「僕に謎なんてないよ」

「あるよ、私にだってあるし」

「紫苑はありすぎるぐらいあるね。だいぶその謎、見えてきてるけど」

「その言い方、なんかイヤらしい」

 なんでそうなるんだよ。

「別にそんな言い方してないじゃんか!」

「あ、次で交代だから瀬戸君と私これで終わりね」

「話聞けよ!」

 僕達は最後の仕事を終えて、控室に戻った。

 ちなみに最後まで紫苑に驚く人はいなかった。存在感がありすぎるからな気がする。

 なんだか紫苑は、生命感が強すぎるところがあった。

 だからつまりどん感じかというと、抽象的だけど、人混みにいてもどこにいるか、かなりわかりやすい感じ。


「瀬戸と白川お疲れ〜」

 同じ時間にシフトに入っていた男子やら女子やらに迎えられる。

「ありがとー!お疲れー!」

 紫苑がニコニコと接する。

「白川、なんか不便とかなかった?」

 一人のバスケ部っぽい顔つきの男子が聞いてきた。

「全然ないよ?」

「それならよかった」

 なんだこいつ。

 あぁ、紫苑に媚び売りたいだけか。

 媚び売っても無駄なのにな〜、と白い目で見る。

「瀬戸が役たたなかったら、言ってくれれば俺が変わるぜ」

 キリッとした顔で言う。

 僕は無視。

 僕の扱いは虫。

「結構です!」

 紫苑が笑顔で言う。

 でもその目は笑っていなかった。

 怖えーーー。

「俺、驚かせる上手いし」

 僕のクラスにはメンタルの防弾チョッキを着てるやつが多いらしい。

 あの目を見ても食い下がらないバケモノだった。

「瀬戸君、影薄くて忍び寄るのキモい程上手いから適任だと思うけど」

 変わらない笑顔。

 怖えーーー。

「あ、それはそうと白川、次お化け役から店番」

「そうだった」

 紫苑が携帯に何か打ち込み、キョロキョロして誰も自分を見ていないことを確認してから僕にウィンクした。

 可愛くて照れた。

 僕がそうしてる間に紫苑は、さっさと仮装して教室の外の受け付けに入っていた。


 退屈。

 去年は一人でも楽しかったのに、今年は退屈。

 紫苑といるときの楽しさを知って、僕も欲張りになっていた。

 人の波に乗りながら、適当に見て歩く。

 どこも友達とやらカップルとやらが多くて、一人で虚無を感じながら歩いているのは僕一人だった。

 紫苑が来てくれればいいのにな、なんて思う。

「私のこと、今待ってた?」

 そう聞こえたように感じて、驚きながら、それも期待しながら振り向いた。

 そこには、やはりとんでもない美少女がいた。

 人の願望まで叶えてくれるような、そんな完璧な美少女。

「そう見えた?」

「見えたよ。また意識、シャットダウンしようとしてたでしょ」

「え、店番は?」

「一人称が拙者の奴に変わらせてきた」

 変わらせたって……

 えぇ……

「よく受け入れてくれたな」

「脅せば一発」

 紫苑が怖かった。

「そんなことよりさ、早くまわろうよ!楽しみにしてたんでしょ!」

「そうな」

 バレるから一緒にはまわれないとか言ってた自分が愚かしく思える。それに無様にも。

 僕は素直に、紫苑の後ろについていった。

 これからも楽しいことを、期待して、紫苑の後ろについていく。

 思えばいつもそうだ。

 背後霊のようだな、と思った。

 やっぱり幽霊は、己の魂を写し出してるのかもしれないな、と紫苑の意見になんとなく、納得した。

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