戦略≠美少女

 おはようございます、こんにちは、こんばんは。

 美少女こと、白川紫苑です。

 ダァー。

 謎の掛け声を挟んで彼の家のドアを開ける。

 ちなみに、インターホンなんてもう押す必要ない。だって、彼の家に入ると私の分の朝ごはんが置いてあるんだから。

 もうこれは、家族同然ってことだよね!!

 絶対違うけど。

 まぁ、私に遠慮なんてものは似合わないし。ズカズカ入って椅子に華麗に座る。

「白川先輩!おはようございます!今日も可愛いです!」

 この子は彼の妹。カオルちゃん。

 某漫画に影響された名前が多いから覚えやすくて、私としては助かる。本人達の意見は知らない。

「カオルちゃんおっは〜!」

 そう言いながらバターに加えて贅沢にジャムも塗る。何気にピーナッツジャムが好き。

「おはよう、紫苑」

 彼のご登場。

 決して容姿はカッコよくはないけど、私のことを一番わかってくれてるから、好き。

 大好き。

「瀬戸君おはよ〜。今日もなかなかイケてるね」

「からかうんじゃないよ」

 眠そうで可愛かった。


「それじゃあお義母さん、行ってきま〜す!」

 普段家に誰もいないから、こんなこと言ったこともなくて、私はなんだか張り切ってる。

 そして彼と駅まで一緒に歩く。

 他愛もない雑談をしたり、時には笑い合ったり。時にはちゃんとした話をしたり。

 私の理想の関係性。

 そうそう、私はこんなことを考えてる場合じゃなかった。

 私はあの有象無象共に、どうしても、知ってもらいたいことがある。

 それは勿論、彼と私が付き合ってること。

 何故って?

 ふふーん、知りたい?

 なぜなら〜〜〜〜〜?

 デレレレレレレレレレ

 じゃじゃん!

「自慢したいから!」

 作戦はこう!

 まず、私がパーフェクトニヤニヤ顔でデレる。

 その後、それに周囲が気づく。

 そしたらきっと、瀬戸君は尋問される。

 でもでも、最初はきっと彼に誤魔化される。

 そこまで読めてる私は天才!恐ろしく自分を理解していると言っても過言じゃないね!

 それでそれで、私は無意識にどこかで絶対、またデレたりする。

 最悪、文化祭一緒にまわろ!って誘えばいい。

 それで多分、周りは付き合ってるか、私が一方的に好きだと勘違いする。

 それできっと、瀬戸君は何かしら言われるか嫌がらせされると思うの。

 そこを、私がカッコよく制する!

「やめて!瀬戸君のライフはもう0よ!」

 なんて言って!

 かぁっくぅいい(カッコいい)!!

 流石私。天才美少女。

 ちなみにそうやって彼に迫った人はもう、二度と認識するつもりはない。

 何であれ、私のせいであれ、彼が傷つくような、嫌に思うようなことをした人を私は絶対に、許さないから。

 大好きだから。


「瀬戸君、看板塗り終わりそう?」

 看板塗りなんて面倒くさいから彼に任せて、私は携帯をいじっていた。

 要するに、サボり。

 彼は真面目だから、丁寧に塗ってる。

「僕は終わりそうだけど、須藤の方は全然」

 私達のクラスは結局、お化け屋敷をやることになった。

 私が料理がある程度しか出来ないのがバレそうだったから、慌てて変えた。

「須藤君もさっさと終わらせて家帰ろうよ〜」

「俺美的センスねんだわ」

「ピカソみたいなのでいいからさっさとして」

 対応が少々荒くなる。

 面倒くさいから仕方ない。


「白川は終わって暇してんの?」

 クラスの他の男子二人が私に話しかけてくる

 誰だっけ。

「そうだよ〜〜、退屈なのよね〜」

「じゃあ俺たちとカラオケいかね?」

「う〜ん、どうしよっかな〜」

 そう言って彼の方を、目だけで見る。

 無表情。

 多分、好きにしたらいいっていう目。

「今日は気分じゃないからいいや、須藤君の色塗り終わってないから手伝わないとだし」

 そう言って断った。

 実質一人カラオケみたいなところにわざわざこんな時間から行くのも面倒。

「須藤君、早く終わらせてくれる〜?」

「まだ慌てるような時間じゃない」

「もう5時すぎてるよ」

 本来は16時20分に帰宅出来る。

 そこから彼と話したり遊んだりして遅くても19時には家に帰ってたのに、今日は時間なさそう。

 普通に須藤君が嫌いになった。

「Hey,Siri.須藤君をあの世へ飛ばすやり方教えて」

「物騒だな」

「ほら、口を動かす前に手を動かす」

 だんだんイライラしてきて美少女が崩れていくのがわかる。

 私は焦ってる。

 あのゴールデンウィークから私はもっと、瀬戸君と距離をつめたいと思っていた。あの日々が楽しかったから。

 もっと彼に認められて、もっと好きになってもらいたい。

 私は君の思ってる数倍可愛いと、わからせてやりたい。


「やっと終わったな」

 須藤君は割と疲れてなさそう。

 私はクタクタ。

 結局8割ぐらい私がやった。

 南を呼んで、交代させればよかったと後悔する。

 これも美少女としての務めか……。

「早く帰ろうよ」

「おい瀬戸〜、どっか買い食いして帰らね?」

 本気で潰すぞ、須藤。

 そして私をチラチラみる彼。

 気にしてくれるなんて優しい……。

 どっかのボケの須藤とは大違いだ。

「私は誘わんのかい!」

「え、白川も来んの?」

「そういう問題じゃないよ!これだけ待たせて私だけ放置して帰らすとか、イジメか!」

「白川ってこういうの来ないと思ってたわ」

 確かに瀬戸君がいなかったら誘われても無視してたか断ってた。

「私を誰だと思ってんのさ!行くよ!」

「じゃあ南も誘うか」

 そう言って南に電話し始めた。

 あれ?

 もしかして、ボケと南って……。

「ひなちゃんと付き合ってるの?」

「おん」

 知らなかった。

 この美少女にも回ってこない情報があったとは!

 これからは情報収集も心がけるようにした。

 いつかのオタクみたいに、いつの間にか気づいてるやつもいるかもしれないし。

 見つけた場合、処理しなければならない。

 あの野郎は「黙っていて欲しかったら、拙者と接吻をするでござるよ!」とか言ってたから私の靴の裏とキスさせた。

 喜んでたのが気持ち悪さを際立たせてたし。


 南と合流して私達はハンバーガーを食べた。

 これはこれで楽しくて、作戦とか意味ないんだな、と思った。

 まぁ全て、なるようになるでしょ!

 彼と付き合うときもなんとかなったし。

 私は作戦なんか捨てて、素で挑むことにした。

 彼を全員に認めさせるために。

 私は彼のためだったら、なんでもするから。

 彼のためだったら私なんか、死ねばいい。

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