告白≠美少女
体育祭も文化祭も経て、2学期の終わりに近づく頃。瀬戸君と私の関係はずっと、変わっていなかった。ただ、私の環境はちょっとだけ変わってきていて、南さんがよく話しかけてくるようになった。
「勉強教えて!」
だの
「今日一緒に帰らない?」
だの。
正直面倒だけど、なんとなく南さんには気を許していた。そういえばかつて私が気を許した女の子がいたと思ったけど、忘れた。そしてそろそろ、あの質問をしてもいいんじゃないかと思いだしていた。私なりの、審査。
帰り道。沈黙したところに、突然聞いてみた。
「なんで?」
高校生にもなってこんな質問を突然するとか、今思うと、とんでもなくヤバい奴。私なら友達辞めてる。
「う〜ん、白川さん、面白い人だから」
ビックリして南さんを見ると、南さんは笑っていた。私のどこを見て面白いのか、気になった。もしかしたらこの子、独特の感性を持ってるのかも。
「ごめん。南さんの本名、私、知らないや」
「南ひなです。白川さん、よろしくね」
「ひなちゃん!私こそよろしく!ところでひなちゃんって、瀬戸君のこと好き?」
ぶっこむ私。キョトンとする南。そして黙って、私を見た。「何の話?」みたいな顔。
「私、瀬戸君とは本繋がりの友達だから、好きとかないよ?」
「あ、そうなんだ〜」
ふぅ〜ん。と、横に流れてる川を覗く。恥ずかしくて死にそうだった。
「あ、私、誰にも言いませんし、応援してますよ!」
「まだ何も言ってねぇし!」
やっとちゃんと私を見る友達が出来て、いきなりバトらなくてすんで、ちょっとホッとした。
「もう寒いね〜」
「そうな」
私と瀬戸君でいつもの散歩。会話がなくなったから適当に繋ぐ。12月上旬の空は雲ひとつなくて乾ききっていた。手がかじかんで、ポケットに入れる。
「瀬戸君ってさ、好きな人とかいるの?」
私、何聞いてるんだろ。恥ずかしくなってポケットの中に入れた手をパタパタさせる。
南がライバルじゃないと知って最近、余裕でいたから突然、それはもう、ビニール袋から出るでんぷんみたいに、ポロッと出た。
「いない、よ……」
濁したのがわかった。
私はこんなだから人の感情に反応しやすい。一種のレーダーみたいな感じ。
「あ〜、その反応はいるんでしょ!ほら!白状しなよ!」
私じゃなかったらどうしよう、という言葉が頭をよぎる。でもすぐさま否定して、自信を取り戻す。
問題は、"何"が、好きか。
私が彼を好きでも、彼が私の何を好きかで、運命は大きく変わる。
私だって出来ることなら振りたくないけど、仕方がない。
私は私が作ったルールは絶対に破らないから。
「またいずれ、言うよ」
瀬戸君は何か、決意を固めたみたいな顔をしてた。
何をそんな固くなるのか、私にはわからなかったけど。
「クラスみんなで、クリスマスパーティーしま〜す!」
「いえ〜〜〜〜い!!」
沸き立つクラス。変化のない私。でもキャラを崩さないために乗る。
「白川さんも来てくれるらしいぜ!」
「マジで!?なら俺も行くわ!」
「でもあれって結局、陽キャだけなんだろ?俺たちが行っても場違いだろ」
そんな会話が聞こえたから、なんとなく近くまで行く。
「私、君達も来てくれたほうが嬉しいな。ほら、だって、皆といたら楽しいじゃん?」
そう言って軽く手を振る。うわの空みたいになってる男の子を放っておいて、中心に戻った。
「いや〜〜、白川来てくれるのマジ助かる」
「紫苑ちゃんいると超盛り上がるもんね〜」
「白川ノリいいしな!」
私を触媒にすんなし。
どちらかといえば沸騰石にしてほしい。
盛り上がりを押えるような、そっち方面で行きたい。
何となく、気分的に。
「で、どこでやるの?」
「あ、それ決めてねぇ。誰かの家とか?」
「俺んち行けるわ」
「おけ、じゃあお前の家で!」
即断即決。私は気づかぬうちに、12/24のスケジュールを入れられた。
「カンパーイ!」
お酒も飲めないただちょっと背伸びしたいだけの初々しい若者の集まりで騒ぐ夜は、ただただむさ苦しくて見苦しい。
「白川さん楽しめてる〜?」
来てそうそう楽しめるわけないのに、何言ってるんだろこの子。
「もっちのろんよ!私が楽しくなさそうに見えるわけ?超楽しいわ!」
適当に声を張って楽しそうに見せる。あとはニコニコしておくだけ。
ヤバい、普通に疲れそう。
「ここにチキン置いてまーす!よかったら食べてね〜!」
私一人で食べきるんじゃないかというぐらい、目を向いて食べた。
何日ぶりかのご飯のような必死さ。
自分で想像しても、軽くホラー。
「白川チキン好きなんだ」
「私、ご飯はなんでも好きだよ。セロリ以外」
「セロリ苦手なの意外だわ。白川って好き嫌いとかなさそう。寧ろ野菜の方が好きそう」
私のことを女神かなんだかと間違えてると思う。
私は皆が思うような完璧な神様みたいな人じゃない。
私はちゃんと欠けてる。
私はちゃんと人間。
「セロリは食べ物じゃないから」
「白川の謎理論出た」
「私そんな謎理論言わないし、セロリは多分事実食べ物じゃない」
「普通に食べてるし栄養とかいいんじゃねえの?知らんけど」
「私、将来セロリは食べ物じゃないって証明するために農学に進むよ。みんな応援しててね〜!」
「面白そうじゃん。うちの庭に花植えてあるし今から外に見に行こうぜ」
誘われて外に出る。出てから上手く誘い込まれたな、と気づいた。我ながら凡ミス。私、天才なのに。穴があったら入りたい。
「クリスマスって、なんで祝われるんだろうな」
クリスマスパーティーの主催者が自分の意思に疑問を抱いてるのが滑稽で笑えた。
私に聞くなし。
「私にそんなこと言われてもわかんないな〜」
ニコニコして、楽しそうに、且つ適当に答える。話題にまるで興味なかったし。
「人間って、祝うの好きじゃん?」
「そうだね。私も祝うの好きだよ」
「あ、これ、花」
庭にある小さい花壇の花を眺める。横にいる有象無象より花の方が存在感があって、私は花に熱中した。と言っても何も考えていないけど。
「白川って好きな人とかいる?」
「私?」
「そう、白川」
「う〜ん、どうだろうね〜」
男の子を見ると、真剣な眼差しで私を見ていて、目があった。
多分、私のこと好きなんだろうな。
男の子が何も話さないから、気まずくなって私が口を開く。
「私思うんだけどさ、好きって、なんだろうね」
普段興味ない人にこんな話しないのに、なんだか今日は話す気になった。
「好きは好きだろ」
私のこの男の子への興味メーターは元々0だから、どんな返答が来ようと下がることはなかった。
「そうじゃなくてね。私、好きって感情がよくわかんなくて。だってそれってつまり、どっちかと言うと私にとって都合が良い人間かどうかってことでしょ?」
男の子の方を見ても黙って私を見てるだけだから、続けて私が話す。
「今までに誰かと付き合ったことある?異性でも同性でもいいよ」
「ある。てか、同性はないだろ」
「そう。そこなんだよ。なんで同性は駄目なんだろ」
あ、別に私が同性が好きって言ってるんじゃないよ。と誤解を抑止する。
「好きって感情って、変だよね。異性でも同性でも好きなら別にいいのに、誰が言い出したのか、同性を恋愛的に好きなのは異常って言う。そもそもなんでさ、好きな人と付き合いたいの?」
「好きだからだろ」
「なら今君は私と、付き合いたいってこと?」
そう言うと、男の子は照れたか恥ずかしいかそんな風に俯いて目を反らし、前髪をいじる。
「そうだ。白川、俺と付き合ってくれね?」
「ごめん、無理かな」
薄く笑って、気遣いもせず、断った。
「こういう夜ってさ、私、物事を俯瞰的に見ちゃうんだけど、なんでだろうね」
「なんでだろうな」
冷たい風で私の髪がなびく。
耳も冷たくなってきて軽く、手で抑える。
唇の乾燥も気になって、下唇を軽く舐める。
あ、リップ持ってきてるんだった。
でもなんだかどうでもよくなって、もう一回舐めた。
なんで私、このパーティー来たんだろ。今頃瀬戸君、どうしてるのかな。
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