優越心≠美少女

 ➝今日話してた女の子、あれ誰?

 ➝なんでもないよ。ただ、同じ本を前に読んでてそれ以来話してるだけ

 ➝瀬戸君本読むんだ。私も読むよ

 ➝意外!

 授業中。意外と不真面目な瀬戸君と私のメッセージのやり取り。背徳感満載。楽しい。

 ➝次体育だね

 ➝僕体育嫌いだから何も楽しみじゃないよ

 ➝部活入ってないの?

 ➝入ってたら夏休み、あんな昼間に会わないよ

 ➝靴紐ってさ、結んでも結んでもほどけるモードに入ることない?

 ➝わかる。固結びがオススメだよ。二度とほどけない

 私は君と私を固結びしたいよ、なんてね。

 ➝今日一緒に帰らない?

 ➝嫌だよ。そんなとこ誰かに見られたら世紀末の始まりだ

 ➝You are shock!

 ➝……白川さんってアニメとか見るんだね

 結局その日は一緒に帰れなかった。私が他の色んな人に捕まって結局カラオケに連れて行かれたから。思いっきり恋愛ソングを歌ってやった。男子が大喜び。諸君達のために歌ったわけじゃないのにね。哀れ哀れ。

 ➝おやつにポッキーを食べるかトッポを食べるか、それが問題だ。byシオンウィトゲンシュタイン

 ➝トッポがいいよ。僕はそっちが好き

 ➝ポッキーにしないの逆張り出てて

 ➝好きだよ

 悪戯すると、ちょっとの間返信が帰ってこなかった。照れてるのを想像して、ベッドの上で足をバタバタさせる。

 ➝世間の意見に流されたくないだけだよ

 ➝出た〜!負け惜しみぃ〜!

 二人でメッセージをやり取りする時間は、私にとっては幸せだった。何も気兼ねなく話せて。

 だからずっと、続けたかった。

 でも、いつか終わるんだろうな、なんてちょっと悲観的になる。

 もし彼が、私の内面を見てくれなかったら。

 もし私が、彼をちゃんと理解出来なかったら。

 そう思うと身震いして、心臓がバクバク言い出した。

 落ち着いて深呼吸をする。

 これが、いわゆる初恋。

 別に一番最初の恋とか関係ないでしょ。とか思ってたけど、想像以上にキツかった。

 でもでもそれより、一緒にいる時間が、繋がってる時間が楽しかった。


「今度私とお出かけしない?」

 ビクッとしたように彼がこっちを向く。散歩中の犬までビクッとしたから、私は緊張がちょっとほぐれた。

「お出かけって、どこに?」

「本屋行きたいんだ。オススメの、教えてよ」

 あの女の子が知ってて私が知らないことがあるのが、許せなかった。

 本は自己を投影すると思ってる。だから好きな本でも、どんなのが好きかで考えてることがわかったりする。

「いいよ。それなら、放課後とかに行かない?」

 放課後デート。脳がそれで埋め尽くされた。私は結構賢いと自負してるけど、そうでもなかったみたい。恋してる間はバカになるって誰かが言ってたけど、その通りだった。リスクとか何も、考えてない。

「私は全然いいよ!それじゃ、楽しみにしてるから!」

 そう言って、なんだか嬉しくて走って帰った。あの女の子に、何かで勝った気がする。「私の方が上じゃい!」とか謎に競い合う。


「これ、僕が好きな本。南さんもこれ、好きらしいよ」

 あの女の子の名前は南さんと言うらしい。もう同じクラスになってから6ヶ月ぐらいたってるのに、初めて知った。

「なら私、これ買おうかな」

 いつも話すときはあまり話さない方なのに、今日はよく喋った。緊張してるからかもしれないけど、楽しんでくれてたら嬉しいな。

「あ、私からはこれオススメするよ!」

「初めて見た。余命系のやつだね。僕も買ってみるよ」

 自分がオススメしたのに対してすぐに興味を持ってくれるのが嬉しい。「そんなところが好き」とか言いたいけど、怖くて言えなかった。関係、ぶち壊しそうで。

「あ、ねね、まだ時間あるならカフェとか行かない?」

 有無を問わず私は強引に彼を連れて行った。前から気になってたところ。どうしても、彼と来たかった。


「あ、この、恋に恋する青春パフェ、ください」

「あ、ちょっ!」

 そうやって止める瀬戸君をしたり顔で見る。悔しそうに、でも照れてそうで可愛かった。

 責任者を呼んでほしいぐらい大きいハート型のクッキーが乗ったパフェが運ばれてきて、二人でつついた。照れてるところを勝手に写真撮ったりして、楽しい時間。でも、現実はそれを許さない。忌々しい。

「あれ、瀬戸君?」

 誰、この子。と思ったけど、見覚えがあった。

「あ、南さん」

 気まずそうな彼を見て、笑いそうになった。

 私はこの状況を見て、楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 溢れ出る優越感。

 それが私の脳を支配する。

 驚き、残念そうで、自信を無くしたようなポニーテールの女の子を私はどんな目で見ていたのだろう。

 今思い出しても、ゾクゾクする。

「瀬戸君と白川さんって、付き合ってたんだ」

「違うよ!付き合ってなんかないから!私が本屋に行ったときに出くわして、同じ本読んでたから話してるところなの!」

 泣き出しそうな南さんに同情心が勝って、口先が動いていた。

「じゃあ、そのパフェは?」

「あー、これは、私がからかおうと思って頼んだだけ」

 そう言うと、南さんがムッとした。

「瀬戸君をからかうなんて、可哀想だよ」

「いいじゃん。それが私なりの接し方なんだから」

 普段抑えてる「我」を出してるからか、アドレナリンがドバドバ出る。戦闘態勢。

「あれ、瀬戸じゃん」

 そう言って南さんの後ろから男の子がひょっこり現れた。

「あ、須藤」

 沈黙。結局、4人で食べることになった。


「瀬戸と白川さんって、仲良かったっけ?」

「たまたま会ったんだよ!本屋で!」

「確かに、学校からここまで、近いもんな」

 私は自慢したかったけど、瀬戸君が嫌がってるから、我慢した。

「俺らもこれ、食べていい?」

「あ、どうぞお好きに」

 正直、私と瀬戸君のを取られることは、私にとっては腸が煮えくり返るほど怒って止めるようなレベルだけど、ここで怒ると「私は瀬戸君が好きだから取らないでほしい」と言ってるのと変わらなかったから諦めた。でも、南さんが瀬戸君の食べてるとこをスプーンですくって食べたことは許せなかった。

「あ」

 思わず声が出る。

 ビクッとする南さん。何事かわからない二人。

「昔のさ、恥ずかしいこと思い出したとき、突然声出ない?」

「あ、僕は鼻歌派」

 何それ!とか言って笑う。

「私も言っちゃいます、それ」

 うるさい黙れし。

「俺も〜〜」

 適当に返事する須藤君を無視しつつ、私はなんとかクルクル回して瀬戸君の食べたところを食べられないか考えていた。

 そのうちに全部食べられて、お開きになった。

「あ、白川さん、私今日は、話せて楽しかったです」

「私も楽しかったよ!」

 男女問わず人気のエンジェルスマイルで返す。その間何やら、須藤君は瀬戸君と連絡先を交換してるみたいだった。私は束縛しない女なので、何も言いません!

「じゃあ、俺と瀬戸、こっちだから」

「私もそっちだよ!一緒に帰ろ!」

「あ、私も一緒に帰っていいですか?」

 無視して追いかける。南さんは来なければいいのにと思ったけれど、付いてきた。

 ➝今日、楽しかった?

 電車の中、携帯を見てる瀬戸君に送る

 ➝楽しかったよ

 それだけ聞けて、私は満足した。

 ➝違ったら悪いんだけど、もしかして、白川って、結構裏表ある?

 追加で来たメッセージ。私はドキッとした。

 まずい。

 ヤバい。

 私は嬉しかった。

 私のこと、ちゃんと見てくれてる。

 私をちゃんと、わかってくれている。

 それだけが、その事実だけが、確認出来て私は、舞い上がりそうだった。今すぐ電車のドアを破壊してレールの上を走って帰りたいぐらいに。


 家に帰ってから私は一人、そのメッセージを見てニヤニヤする変態になっていた。私、キモすぎる。

 きっといつか、私と彼は結ばれる。なんだかそう、確信した。

 それでも今はとりあえず、また明日も、彼に会いたかった。

 今はただ、それだけ。

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