嫉妬心≠美少女

「おはよう!」

「おはよう!白川さん!」

「紫苑ちゃんおはよ〜!」

「白川おは〜」

「よう、白川」

 今日も私に、有象無象が話しかけてくる。

 名前も知らないし、知る気もない。だって目に見えてわかるから。私の容姿にしか興味ないって。

 このくだらない生活が始まったのはもういつだったか、わからない。

 女の子は私を見て媚を売る。

 男の子は私の胸と顔を見て媚を売る。

 男の子のその、プラスワンテンポが気持ち悪くてならない。

「なんで?」

 ある日唐突に、私に寄ってくる一人の女の子に、主語も文脈も何もなく聞いてみた。

「なんでって?どうかしたの?」

 この子は笑顔。私は真顔。

 あぁ、理解してくれないんだ。

 この子とは、半年以上、一緒にいた。今では名前も顔も思い出せないけど、当時はちゃんと覚えていた。私もそれなりに、気を許していたつもりだから。

 でも、失望した。

 結局表面上、か。


「白川さんが好きです」

「好きです。僕と付き合ってくれませんか?」

「白川可愛いよな、俺と付き合ってみない?」

「白川俺と付き合わない?お試しでもいいからさ」

 試すまでもない。し、興味もない。

 私の名前を呼ぶ前にまず、自分の名前を言ってほしかった。

 だって私、君達のこと知らないから。

 私は決まって「どうして私のこと好きなの?」と聞いてみる。

「顔がタイプ」

「話が合うからです」

「可愛いから」

「だって俺ら、いい感じじゃん」

 うっさい死ね。

 告白するときも目が合わない。私の胸みて話してるそんな人間に、興味なんかなかった。

 気取ったりイキってたりするわけじゃない。これでも、私は別に私の容姿が良いとか悪いとか気にせずに生きてるつもりだった。

 私も私自身を、表面で決めたくないから。

 別に可愛くあろとした努力もなかったし、実際その"実力"もなかった。

 表面が、可愛い。

 それ、だけ。

 だけどそれでも一応、自覚はあった。昔から、可愛い可愛いって、もてはやされてたから。

 だからこそ余計に、私は私の「内面」を見てほしかった。

 私に「私は生き物だ」って証明させて欲しかった。


 気がつけばそのまま、高校生。厨二病を拗らせたみたいな考え方は変わることなく、続いてる。

 だって誰も見てくれないから。

 一度くらい、見てほしかった。

 気づいてほしかった。

 入学式。クラス分け。知らない人たち。何一つ、中学校と状況は変わらない。私と中学校が同じだった人たちが、私に話しかけてくる。男女問わず。それは少し考えれば必然のことだから、勿論私は快く、笑顔で話した。明るいフリをして、陽気なフリをして、ノリのいいフリをして。

 高校生になって3ヶ月。気づけば私は人気者。陽とか陰?in?とかどうでもいいのに、決めたがる。

 そういうの、退屈。

 あ、でもでも、色んな人に話しかけれてもニコニコしてる私の方が退屈。自分を失ったみたいで窮屈。

 物を落とせば誰かが拾ってくれる。普通に嬉しい。嬉しいけど、男の子が屈んだ私の胸元を覗いてくるのは嫌。そっちの内面じゃないよ、死ね。


 部活にも入ってない私の夏休みが忙しいはずもなく、一人でゴロゴロしていた。一人っ子で親が共働きの私は基本、誰とも話さない。大量に来る同級生からの遊びの誘いをいなしつつ、雑誌を読んだり本を読んだり散歩に行ったり。あ、犬の散歩中の男の子とはよく話した。ほぼ毎日お辞儀をしてたら、犬に懐かれた。人間に懐かれるのは嫌いでも、動物に懐かれるのは好きだったみたい。そのうち、その男の子とも話すようになってて、気づいたら一緒に散歩していた。彼に興味はなくて、犬をもふもふするのに集中してたけど、同じ高校に通ってると聞いてちゃんと話すようになった。なんなら同じクラスだった。


 ちゃんと話すと言っても、彼は自分から話すのが得意ではないみたいで、私が会話を引っ張っていた。

 初めて話してから一週間くらいたって、私はちょっとした異変に気づいた。

「私の連絡先、いる?」

 夏で散歩中だから結構薄着の私に、まるで興味を持たなかったから、私から聞いてみた。一種の試験、みたいな。

「僕達、散歩で会うぐらいなので大丈夫ですよ。それに、お互いのこと、あんまり知らないですし」

 この人、内面で見る人なんだ。私の容姿に惑わされない。

 私を理解してくれるかもしれないという期待を感じられて、嬉しかった。

「いいじゃん。同じクラスなんだし、交換しよ!」

 なんて言って強引に私から交換した。

 瀬戸君。今初めて覚えた。

 それからもよく一緒に散歩して、犬のリードを私に渡してくれたりして、楽しかった。それだけで私の夏休みはもしかしたら過去で一番、充実していたかもしれない。


 新学期。遊べなくてごめんね〜、なんて適当に言いながら瀬戸君を探す。

 あ、いた。

 ちょっと嬉しくなる。

 様子を見てると、一人の女の子が何か瀬戸君に話しかけてた。

「羨ましいな〜」

 背もたれにぐっともたれて天井を見ながら呟く。周りの有象無象が「白川も来れば良かったのに〜」とか言ってるけど何の話かは私にはわからない。興味もなかった。

 私ももっと瀬戸君と話してみたい。それでそれで、もっと彼を知りたかった。

 本当に内面で人を見てるのか。

 私のことをわかってくれるのか。

 私の内面を、見てくれるのか。

 あ、私、瀬戸君のこと気になってるんだ。

 私にも恋心なんてモノがあるんだな、なんてふと気づいてちょっと恥ずかしくなった。

 少女漫画みたいなセリフで。

 その女の子が話してるのが、もどかしくてもどかしくてもどかしくて、どうすればいいのかわかんなくて、自分で立ち上がって思わず話しかけに行った。

「おはよ、瀬戸君。昨日ぶりだね!」

 照れるかな。デレるかな。そんなことを考えていると彼は目を反らして困った顔をした。ちょっと殺意が湧いた。勇気出したのに。

「おはよ」

 小さく答えてくれて、私のテンションは跳ね上がった。クラスの人達に連れてかれて適当にテンション上げてるカラオケのときより、全然高い。私自身もびっくり。そんなことを考えていると彼が急に携帯を取り出して何かを打ち込み、携帯を閉じると今度は私の携帯が震えた。

 ➝白川のことクラスで狙ってる輩が多すぎて、僕が話してると超睨まれる

 そんなこと気にしてて、ちょっと可愛いなと思った。私も返信する。横にいるのに、変な感じ。

 ➝わかった!なら、話しかけるの遠慮しとく!

 そう送って彼を見ると、ホッとしたような顔をしていたから、からかいたくなった。

「なんか楽しいね!」

 そう耳元で言うと、照れたみたいに目線をそらされた。

 そこで私は初めて、周りの男の子が瀬戸君を睨んでるのに気づいた。

 あんな人達より、君の方が魅力あるよ。

 そう思いながら、私のことを今尚睨んでる、さっきの女の子を見る。きっと、この子も瀬戸君のこと好きなんだろうな。

 私も負けないから。

 嫉妬心をむき出しにする私は、可愛くなかった。

 でも、これが「私」って感じで、なんだか生きてた。

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