trio2
不定期に行われる、会議。
それに参加するために、俺とラン先輩はリプトン家のお屋敷を訪れていた。
ただし、参加するのは俺たちのような下っ端構成員。
八代目候補のキャロル様たちは参加しない。
「思ったよりも早く着いちゃったね。お茶でも飲んで待ってようかー」
先輩の言う通り、開始時刻までそこそこある。
オールディス家からここまで長旅だったので、少し疲れた。
会議が始まるまで休憩しておくべきだろう……。
そんなわけで、俺と先輩は屋敷内にある食堂へ向かった。
そこには、すでに人がいた。
「ローズちゃあああぁぁぁんんん!!」
先にお茶を飲んでいた人物を見て、先輩の態度は一変。
嬉々として赤い髪が印象的な女性のところへ飛んでいってしまった。
「久しぶりだね。元気だった? 一段と可愛くなったね」
そして、定型文のような口説き文句を機関銃の如く並べる。
やれやれ……
「ふふ。ランちゃんは元気そうね」
先輩のそんなアピールも、聖母のような微笑みでさらりとかわす。
さすが、ローズ先輩……
俺たち後輩にも優しい、本当に聖母みたいな人だ。
「よぉ! スノー! 久しぶり!」
ローズ先輩にデレデレなラン先輩を呆れた目で見ていると、とんと、肩を叩かれた。
「ブロッサム!」
同期のブロッサム。
ローズ先輩と一緒に、八代目候補の一人であるノア様の下で働いている。
「元気だった?」
「おうよ。お前は相変わらずひょろいなー」
そう言うブロッサムだって、ガリガリだ。
……とてつもない馬鹿力だけど。
何かと年上の多いそうじ屋。
こうやって気兼ねなく話せる同期というのは少ない。
ブロッサムが唯一の友だちのようなものだ。
話したいことは色々ある。
「まぁまぁ、立ち話もなんだし、座ったら? こっちにお菓子もあるよ」
何から話そうかと考えていると、そんなふうに声を掛けられた。
今の声は……
「ソ、ソフィア様!?」
よく見たら、ローズ先輩の隣にとんでもない人が座っていた。
ソフィア様。
八代目候補の一人……なのだが、最も八代目に近いと言われている人……。
俺たちと同じ年の普通の女の子にしか見えない。
「どうしてここへ……?」
さっきも言った通り、候補……いわゆる幹部クラスの人たちは参加しない会議だ。
「暇だから先輩についてきちゃった。あ、でも会議には参加しないよ。みんなに会いたかったんだ」
もぐもぐと、無表情でクッキーを頬張る。
ソフィア様はよく、同年齢の俺たちと話したがる。
様を付けるのはやめてと言われるが、そうもいかない。
きっと、彼女は友人を作りたいのだろう……
俺にはそんなふうに感じる。
それにしても、会いたかったと言う割には、いつものような明るいソフィア様じゃない。
どうしたんだろう。
何か、変だな。
「――そこ、俺が座ってたんですけど」
ソフィア様の向かいの席に座ったのと同時に、ドン! と、テーブルに追加のお菓子の缶とお湯が入っているであろうポットが置かれた。
「わーい! お菓子!」と、空気を読まずにソフィア様とブロッサムがお菓子の缶を奪い取っていった。
ラン先輩はがゲッ! という顔をする中、俺は恐る恐る見上げると……
無。
感情を一切読めないくらい無の表情で、リン先輩が立っていた。
こ……怖い……
「だ、だから何だよ。誰も座っていなかったから、今は僕が座っている。それの何がいけないわけ? 嫌なら名前でも書いておけば?」
「こう言えばわかるか。邪魔なので、そこをどいていただけますでしょうか」
「ハァ!?」
ああ……また始まった……
俺はこっそりため息をついた。
「あらあら。二人ともケンカは駄目よ」
「ローズちゃん。悪いけど今日という今日は、こいつを一発殴らないと僕の気がおさまらないね!」
立ち上がる先輩。
「そうそう。ローちゃんの言う通り。ケンカはよくないよ。ランランもいちいち先輩の言うことを気にしてたら、キリがないよ」
ソフィア様が珍しく仲裁に入る。
……けど、どうでもよさそうだ。
うるさいから静かにしろと言わんばかりだ。
本当に、どうしたんだろう。
「ソフィア……俺の前でよくそんなことが言えるな……」
ソフィア様をにらみつけ、呼び捨てにできるこの人物は……リン先輩。
ラン先輩やローズ先輩と同期で、ソフィア様に付いている人……なんだけど、どうも俺たちとはその関係性が違うようだ。
……で、問題はラン先輩とリン先輩。
名前こそは似ているが、性格は正反対。
そのせいか、顔を合わせればよく言い合いをしている。
いつも仲裁役は、ローズ先輩だ。
「だってぇ、ソフィア様ぁ。いつもいつもこいつときたら、僕をバカにするんだよ!? 僕が何をしたって言うんだよぉ。何とかしてくれない?」
「おい、コラ。ソフィアにまで媚びを売るんじゃない。その糸目を開眼してから出直してこい」
「うるさい! 僕の素敵な糸目をバカにするな!」
「どこが素敵なんだよ」
そのやりとりを聞いて、ブロッサムがブハッ! と、クッキーを吹き出した。
ブロッサム! 笑うなよ!
「もう……リンちゃんもランちゃんもいい加減にして。久しぶりに会ったんだから、少しくらい仲良く出来ないの?」
「ローズちゃん! 僕は悪くないでしょ!? こいつが先にケンカを吹っかけてきたんだ!」
ラン先輩……なんてみっともないことを……
子どもか……
「お前、自分で言ってて恥ずかしくないのか」
「恥ずかしい!? 何が!? 意味わかんないんだけど」
「……お前みたいな底辺と喋っていると、こっちまで恥ずかしくなってくるからもういい」
「何だと!?」
噛みつきそうな勢いのラン先輩。
そっぽ向くリン先輩。
ローズ先輩は深いため息をついている。
「ローズ、お前もいちいちこんなバカの相手をするな。ありきたりな褒め言葉を並べられてニコニコしてんじゃねーぞ。お前のそういう思わせぶりな態度が、こういうバカをつけあがらせる」
「リンちゃん……私にも結構酷いことを言うのね……」
ローズ先輩を心配しているのか、けなしているのかよくわからないリン先輩の物言いだった。
「お前ってやつは本当……女の子への配慮ってものがなってないな! もっと言葉を慎め!」
ここぞとばかりにラン先輩は反撃しだした。
リン先輩の目が、一気に殺意に満ちあふれたものになるが、ラン先輩は気づいていない。
「女の子には紳士の心を持って接すること! これ、すなわちモテる男の秘訣!」
「その紳士の心とやらに、浮気をしてもいいっていうのも含まれているんだな」
「浮気!? この僕がいつ浮気をしたと! 言いがかりはやめてもらおうか!」
……別の女性と名前を呼び間違えて、ビンタを食らう先輩。
女性と歩いていると、これまた別の女性と鉢合わせて、女同士のケンカに巻き込まれた挙げ句、どちらからもフラれる先輩……。
人妻に手を出し、その旦那が町で襲ってきたこともあったのを、俺は忘れていない……。
「何だよ。何でみんな黙るんだよ」
鈍感であることに定評のあるラン先輩が、さすがにこの空気には気づいたようだ。
「そんなに僕って信用ない? みんな酷いなぁ! 僕のことをなーんにもわかっていない! ――ねぇ、スノー! 言ってやってよ! 僕がいかに一途な人間であるかってことを!」
「一途……?」
「首を傾げるとこじゃないよ、スノー!」
何を言っているんだろう……この人は……
一途って言葉の意味、わかっているのだろうか。
「言っておくけど、僕にはずっと想い続けている人がいるからね!」
慌てて弁明しだす先輩だが、その内容は衝撃的なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます