disguise18

 銃口はウィリアムではなく……メロディーおねーさんに向いていたのだ。

 明らかに彼女の意志だとは思えない動きだった。

「え!? 何で!?」と、本人もビックリである。

 恐らく……

「動くな! 怪盗ウィンディー! ブラック・リボンを撃つぞ!」

 あの不思議な力を使う女の子の仕業だった。

「姑息な……僕にそんなはったりが通じるとでも」

「はったりなものか! お前が動けば大事な女の命はない!」

「っ……」

 さすがのウィリアムも下手に動けなくなってしまう。

「リース、そのまま怪盗さんたちの相手をしておいて。俺はこっちに用がある」

 ルイは先輩のほうへ向かって歩き出した。

「……来るな。止まれ」

 すかさず銃を構える先輩。

 あたしもルイの方に狙いを定めた。

「そんな顔しないで。俺はずっと君を探していたんだ」

「何のために? さっきから言っているが、俺はお前なんて知らない」

「知らないだろうね。でも俺は知ってる」

 ニヤリとルイは笑った。

 何だかゾッとするような笑いだ。

「君も俺も同じ。ずっと暗い所で生きてきた。誰も助けてくれない。俺の声なんて聞いてもらえない。逃げたくても逃げられない」

「リン君! 聞くな! 聞いちゃ駄目だ! 耳を貸すんじゃない!」

 あたしの後ろでミリアルが叫んだ。

 何で、あんたが。

「……!?」

「君は逃げられたと思った? 違うよ。君はまだ、捕らわれたままだ」

「……お前は俺の何を知っている」

 先輩の声がわずかに震えていた。

 ルイは質問に答えず、ただ微笑んでそこに立っていた。

「――ウィル、ごめん。走って!」

 一方、硬直状態が続いていた怪盗たちのほうは、メロディーおねーさんの一言により、戦況が変わった。

「なっ……!」

 ミルキー・ホワイトが顔面蒼白になる。

 なぜなら、おねーさんが開け放たれた窓を目がけて、王冠をぶん投げたからだ!

「一度ならず二度までも! お宝を放り投げるなんて!」

 悲鳴をあげるように叫ぶミルキー。

 ウィリアムは走って王冠を追いかける。

 おねーさんはその隙に、一枚のカードを投げつけ、ミルキーが持つ銃を真っ二つに切断した。

「きゃああああっ!? お、おのれ! ブラック・リボン!! この私を殺める気!?」

「あんたは殺したくてもしぶとく生き残るでしょーが」

 忙しく叫ぶミルキーに対し、呆れたようにため息をつくおねーさん。

「リース! 早く何とかしなさい!」

「無茶言うなよぉ~!」

 半泣きになりながらも、女の子は宙を舞う王冠に向かって手をかざす。

「させないわよ!」

 メロディーおねーさんがすぐさまカードを投げる。

 しかし、銃声が響き撃ち落とされてしまった。

「それはこっちの台詞」

 ルイだ。

 まずい、あいつ。

「メロちゃん!」

 ウィリアムの足が止まる。

 ルイの持つ銃は、メロディーおねーさんを狙っていた。

 先輩! 何やってんだよ!

「リン! 撃ちなさい!」

 ――と、ユーリさんは言ったが、撃ったのはあたしだった。

 ルイに向かって発砲した。

 が。

「……ハハ。ビックリした。ソフィアって案外心が強いんだね」

 くそ! 外した!

 あたしは舌打ちをした。

 迷いとか、そんなものはなかった。

 単なるあたしの腕前の問題だ。

「今日はこのくらいにしておこうか。王冠も取り戻せたみたいだし」

 ウィリアムが足を止めたせいで、女の子が王冠を抱えていた。

「じゃあね、ソフィア。今度は一対一で。どちらかが倒れるまで戦おう」

「ふざけんな! お前なんか、いままここでっ」

「ソフィア様! 駄目です。ここは我々も退きましょう」

 すぐに引き金を引こうとしたが、ユーリさんに止められてしまった。

 何で!

「本当は君を連れて帰りたかったんだけどな。今はやめておいたほうがよさそうだ」

 連れて帰る?

 先輩を……!?

「名前を変えて、逃げ切れると思った? 彼が諦めたと思ってた? 甘いなぁ。君はまたあそこへ戻ることになる。俺の手によって」

「……!?」

「だって君を連れて帰ったら、きっと褒めてもらるもんね!」

 先輩は、ルイの額に狙いを定めた。

 でも、その手は震えている。

 ルイをにらみつけているその目は、恐怖の色に染まっていた。

 乱れる呼吸。

 あのまま撃っても外すだけだ。

「お前は、何なんだ! お前の言う彼って、まさか――」

「俺はもう行くよ。また会おう!」

 ルイがそう言った瞬間、突然、強い風が開いた窓から吹き込んできた。

 目も開けていられないくらいの、強い風だ。

 そして、やんだ頃にはもう、やつらの姿はなかった。

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