disguise17

「うわぁぁぁんっ! 助けてー! ルイー!」

 ルイと同じく、フード付きマントを羽織った女の子が、穴の開いた壁から入ってきた。

「って! 捕まってるじゃん!」

 ルイの有様を見て、彼女は泣くフリをやめた。

「助けてほしいのはこっちだよね~」

 アハハ。と、笑うルイ。

 それが、まるで何かの合図だったかのように――、女の子の目つきが変わった。

 ルイが落とした銃が不思議なことに宙に浮き、なんと彼女の手に収まったじゃないか。

 女の子は銃を構え、撃った。

 ――アビーに向かって。

 反応できなかった。

 アビーもまた、動けていなかった。

 まずいと思ったときにはもう、時すでに遅し。

 弾は飛び出していた。

 二発の銃声と共に。

 そう。銃声は二度聞こえたのだ。

「ふーん。案外やるじゃないですか」

 つまらなさそうな声が、あの崩壊した壁から聞こえてきた。

 見ると、真っ黒の服装の人物が銃を持っていた。

 その後ろにはもう一人黒ずくめの人物がいる。

 そいつが言葉を発したのだろう。

 ていうか、あれ、ブラック・リボン!?

 ……と思ったけど、よく見たら先輩じゃん。

 何であんなブラック・リボンみたいな格好してんの……?

 でも、何が起きたのかは理解できた。

 先輩が発砲して、あの子が撃った銃弾を撃ち落としたんだ。

 ものすごい命中率だ。

「そこのガキンチョ! 動くんじゃないわよ! 動いたら私のカードであんたの頭、串刺しにしてやるんだから!」

 ああ!

 やっぱりいたんだ、怪盗ダークムーン!

 でも何で先輩はあの二人と一緒にいるんだろう?

「……先輩……?」

 部屋に中央にいるユーリさんを見て、先輩が首をかしげた。

 ややこしいけど、ユーリさんは先輩にとっての“先輩”みたいだね。

 あたし、初めて知ったよ。

「どうしてここに……一体これはどういう……」

「状況説明をしている暇はありません。見てわかるでしょう。――よくもまぁ、のこのこと現れてくれたもんだ」

 あたしにはあんなに優しくしてくれたユーリさんが、とっても素っ気なく言った。

 な、なんか先輩への当たりが強いね……?

「先輩! 本当の狙いはアルセウスさんじゃなくて、ミリアルだったんだ! ルイ……ユーリさんが今捕まえてくれてるやつが、ミリアルを撃とうとした!」

「ミリアル……?」

 もう何が何だかというふうに、今度はあたしの傍にいるミリアルをチラッと見た。

 あたしにだってよくわかんないよ!

「“先輩”? 君が、ソフィアの“先輩”?」

 ゾクッと、背筋に寒気が走った。

 ルイに、先輩のことを知られてはいけない。

 そんな警鐘があたしの中でうるさく鳴り始めた。

「リース、見つけたよ。最高の土産だ!」

 ユーリさんがさっき言った。「よくもまぁ、のこのこと現れてくれたもんだ」――と。

「やっと会えた!」

 それはこの、あたしが感じた嫌な予感が彼も感じていたからだ。

「誰だ、お前は。俺はお前なんて」

「初めましてだよ、俺たちは。この間君、メイドの格好をしていたでしょう? 仲間から聞いたよ。今日はブラック・リボンの格好?」

「……!?」

「黙りなさい。さもないとその口、二度と開けないようにしますよ」

 ペラペラと喋りだしたルイの頭を、ユーリさんがさらに強く床に押しつける。

 先輩は戸惑った表情をしている。

 やぱい、この状況。

 早く。

 何とかしないと。

 むしろあたしたちの方が退かなければいけないのでは。

「ユーリさん……駄目だ。そいつの生け捕りは無理だよ。殺さないと。この場で。今すぐに」

「ひどいなぁ、ソフィア。友だちだろ?」

 違う。

 違う!!

 あんたはもう友だちなんかじゃない!

「ルイはあたしの仲間! 殺させない!!」

 女の子が声を上げた。

 すると、物という物が宙に浮き始めた。

 重いテーブルまで。

 狙うは、ルイを押さえつけているユーリさん。

「ユーリさん!!」

 あたしの叫び声と共に、彼の姿は見えなくなった。

 あれじゃあルイも巻き添えなのでは!?

 何て思ったのは、ほんの一瞬。

 二人とも無事だった。

「……何なんですか、あの少女の力は」

 咳き込みながら、ユーリさんはどこからか現れ、あたしの隣に並んだ。

 良かった。逃げられたんだ。

「酷い目にあった。リース、俺まで殺す気?」

「だって! どうすればいいのかわからなかった!」

 逃げ延びたルイから抗議を受け、女の子は頬を膨らませた。

「……で、どうするかな。この状況。怪盗さんたちに物は盗られるし、そうじ屋がこんなにも沢山いる。どう考えても不利だよね」

「笑ってる場合かヨ!」

 女の子はそう言いながらも、ルイを盾にするように隠れた。

「ま、王冠なんてどうでもいいんだけどね!」

「どうでもよくないわよッ!」

 カチッという音と、声がした。

 壁の向こうの部屋に、白髪の少女が立っていた。

 ミルキー・ホワイトだ。

 彼女は、王冠を持つウィリアムに銃口を向けている。

「その王冠を高値で売り払うんだから……! 返してもらうわ!」

「どうぞ、撃ってください。大事な王冠を盾にするので」

 ウィリアムは挑発するように応える。

 こいつ、本当に盾にしそうだ。

「ふざけんじゃないわよ……いくらあなたとて、容赦しない!」

「ふざけてなんかいませんよ。いい加減あなた方の存在にうんざりしてきたところだし、今日こそけりをつけましょうか」

 怒る彼女に対し、ウィリアムはひどく冷静な様子だった。

 メロディーおねーさんに王冠を預け、腰に下げている剣を抜いた。

 彼は、剣の達人だと聞いている。

「や、やれるもんならやってみなさいよ!」

 怖じ気づいた彼女の声。

 震えている手。

 やっぱりあの女には撃てっこない。

 そんなことわかっているはずなのに、ウィリアムは動き出した。

 あいつ、ミルキー・ホワイトを本当に殺す気!?

 これじゃあ先輩のときと同じじゃないか!

 やめろと言いたかったが、彼女の手が突然、向きを変えた。

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