disguise15

 アルフレッドにミリアルを紹介すると、彼はキラキラした目で一生懸命ミリアルに話し始めた。

 ミリアルはニコニコしながら、未来ある若者の質問に答えていた。

 ……ふぅ。

「お疲れ様っス」

 小声でそう言って、アビーがオレンジジュースを持ってきてくれた。

「ありがとう……」

「本当にアルセウスさんは狙われているんスかね? 不気味なくらい何も起きない……」

 アビーの言う通りだ。

 何の変化もない。

 あたしの身に危険が及んだりもしていない。

 もしや、カナベル・カスケード本人でないとバレたりしてないよね?

「怪盗がどうとかは関係なさそうだし……」

 関係ないだろうね。

 あの人たちがここにいるのは偶然なんだろう。

「このまま何事もなければいいのだけど……」

 そんなことを思ったときに限って、事態は急変する。

「――殺気!?」

 アビーがシャンと、背筋を伸ばし、きょろきょろしだした。

 あまりに一瞬のことで、あたしにはわからなかったが、彼女が嘘を言っているとも思えない。

 同じように周囲を見渡した。

 どこだ……どこだ……どこにいる!?

 ――後ろ!?

 あたしは背後を振り返った。

 お金持ちたちに混じり、灰色のフード付きマントを着た人物が立っていた。

 異様な光景なのに、誰も気づいていない。

 そいつは片腕をあげた。

 マントの下から覗く、銃。

 アルセウスさんを狙ってる!?

 ――いや、違う!

 あいつが狙っているのは――

「危ない!!」

 あたしは走り、ミリアルに突進した。

 銃声が響き渡った。

 会場内じゃ一瞬静まりかえったが、すぐさま悲鳴があがり、人々が逃げ惑い始めパニックに陥った。

『アルセウスさんを避難させるわ! ソフィア! 無事でしょうね!?』

 倒れたあたしの耳に、イオンの声が飛び込んできた。

「大丈夫……あたしもミリアルも……」

 間一髪のところで、銃弾はかわせた。

「ソフィアちゃん、怪我はないかい!?」

 あたしの下敷きになっているミリアルが、少し体を起こした。

「平気……あんたは」

「僕は大丈夫、ありがとう。でも、何で」

 ミリアルは混乱しているようだった。

 あたしだってわかんないよ。

 本当の狙いはアルセウスさんじゃなくて、ミリアル――?

「まさか、彼は僕をおびき出す為の餌にしかすぎなかった……? 僕が彼と交流があることを知っていたとでも言うのか……?」

 ブツブツと、ミリアルは何か言っている。

 推理は後だよ、後!

「何者っスか! その銃を下ろせ!」

 あたしたちの前に立ち、アビーが警告する。

 気がつけば、あたしたち以外の人はいなくなっていた。

 あたしも立ち上がり、スカートの下に隠していた銃を構える。

「……あんたが脅迫状を送ってきたのか? 本当の目的は何?」

 問いかけても、そいつは何も言わない。

「答えろ! ミリアルはあたしの大事なクライアントだ。殺そうってなら容赦しないよ!」

 あたしがそう言うと、何がおかしいのかそいつは笑い始めた。

「何がおかしい!」

「おかしいよ。君、そんな顔、できるんだ」

「――!?」

 何……何だって?

 君?

 そんな顔?

 ――この声……

「ずっと楽しみにしていたよ、ソフィア。君とこうして銃を向け合える日をね」

「ルイ……!?」

 フードの下から現れた顔を見て、血の気が引いた。

 何で? 

 どうして?

 ルイが、どうしてここに――

「一体どうなっているっスか!? なぜ、あんたが……!」

 アビーも混乱している。

 ああ……なんて浅はかな。

 バカだ、あたし。

 友だちができたと思っていたのに。

「ソフィアちゃん……知り合い……?」

「――今この瞬間から知り合いじゃなくなったよ」

 先輩が知ったら何て言うだろう。

 イオンは怒るだろうな。

 ――おばあちゃんは呆れたように、ため息をつくに違いない。

「騙したのか、ルイ! 許さないっスよ!」

 裏切りを激しく嫌うアビーから、激しい怒りを感じる。

 そうだ、これは裏切りだ。

「騙す? そうだね。確かに俺は君たちを騙した。けどね、アビー。君はソフィアにも怒りをぶつけるべきじゃあないか?」

「それが最後の言葉か? 今すぐ黙らせてやる!」

「ソフィアは君に、隠し事をしている」

 こいつ……知ってる!

 あたしのことを知ってやがる!

「隠し事……? ソフィアが、自分に……?」

 やつの言葉を聞き入れてしまったアビーは、ゆっくりとあたしの顔を見た。

 言うなと言われてきた。

 あたしも言いたくなかった。

 だって知られたら……誰もあたしのこと、対等に見てくれないじゃないか。

「ずっと疑問だったんだ。どうして君は、そんなにもソフィアと友だちのように接しているのだろうって。関係者ならみんな敬って、相手が子どもだろうと、様を付けて呼んでいるのにね」

「何のことを言っている……!?」

「哀れなソフィア。彼女を友だちとして傍に置きたいがために、隠したんだね」

 無理だ。

 もう、隠せない。

「ソフィアが自分の口で言わないのなら、教えてあげるよ、アビー。彼女の名は、ソフィア・リプトン。リプトンって聞き覚えない?」

「……六代目と同じ名前……?」

「そう。ソフィアはそうじ屋六代目当主の孫。もうわかるだろう? 君の隣にいるのは、八代目候補の一人なんだよ!」

「ソフィア……が……!?」

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