disguise11

 停電が起きる、数分前――。

「やぁ、これはこれは、ミリアル・スマイル君。会えて嬉しいよ。今日も美人な秘書を連れているねぇ」

「どうも……」

 恰幅のいい中年男が、ミリアルに挨拶をしてきた。

 よそ行きの笑顔を見せ、ミリアルは男と簡単にビジネスのことについて話した。

「それでは、また」

 男の方から離れて行き、キャサリンは軽く頭を下げた。

「ふぅ……」

 ミリアルは軽くため息をついた。

 表情が「帰りたい」と言っている。

 パーティーといった類いのものが嫌いなことで有名なミリアルだが、仕事の一環でいつも仕方なく顔を出している。

「時間の無駄のように感じるんだよね」

 何も言っていないのに、ミリアルはそんなふうに言った。

「そういえば、知ってた? 今日、別会場でオークションやっているんだって。あのホワイトが何かを出品するようでね。ダークムーンって怪盗がそれを盗むと予告状を送りつけてきたそうだ」

 ホワイト。

 ダークムーン。

 色々気になるが、なぜ突然そんなことを話し出したのか。

 ……まさか、バレてる?

「何だか妙なタイミングだねぇ。偶然なんだろうか……」

 彼がそうつぶやいたときだった。

 会場の明かりが消えたのは。

「ああ……きっとこれは、ダークムーンの仕業なんだろうね」

 何も見えていないというのに、冷静なミリアルの声。

 まるで、こうなることを予期していたかのようだった。

『こちら、イオン――』

 そのとき、耳元でイオンの声が聞こえてきた。

 安否確認のようだった。

 ソフィアたちも無事らしい。

『リン様の方は?』

 イオンに話をふられ、キャサリン――に扮したリンは、口を開いた。

「大丈夫だ。ミリアルが言うには、この停電は……」

 と、言いかけたところで、電気が復旧。

 会話も自然と途切れた。

「気になるなら行っておいでよ。僕はソフィアちゃんたちの近くにいるし」

 ミリアルはリンの方を見て言った。

 やはり、本物のキャサリンではないと気づかれていた。

 リンは何も言わずに彼の傍を離れ、会場を出た――。

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