disguise10

 突然だったので、人々は戸惑い、ざわめきだす。

 あたしは暗闇でも目が慣れているので、周囲のことは見える。

 目の前のアルフレッドは、不安そうにきょろきょろしている。

 それを、あの執事のお兄さんが、庇うように立っていた。

 まるで――お兄さんも暗闇に目が慣れているように感じられる光景――。

 ……ひとまずお兄さんのことは後にしよう。

「アビー、あたしは大丈夫だから、アルセウスさんの傍にいてあげて」

 小声で言うと、彼女は頷き、すぐに向かった。

 アルセウスさんは他の人同様、見えない中できょろきょろしていた。

『こちらイオン。停電したみたいだけど、各々状況は』

 イヤリング型無線機から、イオンの声が聞こえてきた。

「あたしは平気だよ。アビーもアルセウスさんも……そっちは?」

『私も問題ないわ。……リン様の方は?』

『大丈夫だ。ミリアルが言うには、この停電は……』

 え? 先輩はミリアルといるの?

 フォーメーションを聞かされていないので、ちんぷんかんぷんだ。

 先輩が説明してくれようとしたその瞬間、電気が復旧した。

「えー、皆様。お騒がせして誠に申し訳ございません……」

 係の人が出てきて、何やら説明しだすが誰も聞いちゃいない。

「大丈夫でしたか。お怪我は」

 心配して、アルフレッドがあたしに声をかけてきた。

「少し驚きましたけど……平気ですわ」

 あたしは彼に微笑んでみせた。

「何か温かいものでも持ってこさせましょう。ユーリ、頼む」

「かしこまりました」

 執事さんはユーリというらしい。

 恭しく頭を下げ、行ってしまった。

「どうやら怪盗の仕業のようですね」

「怪盗?」

 別に聞いていないのに、彼の方からそう教えてくれた。

「ダークムーンという者たちをご存知ですか」

「もちろん。噂は」

 まさか。あの人たちが?

「今日、このホテルの別会場で、オークションが行われているようで。そこで、出品される物を盗むと予告があったようです」

 先輩が言おうとしたのは、このことか。

 怪盗ダークムーン。

 巷で話題になっている、二人組の怪盗。

 訳ありな物を盗むので、庶民からはヒーロー扱いされている。

 彼らと出くわすなんて……

「……一体何を盗むのでしょうね?」

「聞いた話によると……」

 げぇ。そんなことまで知っているのか。

 もういいんだけど……

「ホワイト家が出品する王冠だそうで」

 なんだって?

 ホワイト……前回、娘のミルキーを取り逃がした。

 先輩……また殺しに行かなきゃいいけど……

「……おや。彼は……」

 アルフレッドは何かを見て、声を上げた。

 視線の先を追うと、アルセウスさんたちの輪の中に、いつの間にかミリアルがいた。

 あれっ? キャシーさんがいないな……?

「いかがされました?」

「あ、いえ。あなたのお父上が、かのミリアル・スマイル氏と話されていたので……」

「父は彼と親しいのですよ。時折家にもいらっしゃいます」

「そうなんですか?」

 知らないけど。

「紹介しましょうか?」

「えっ。いいんですか?」

 ミリアルはやはり有名人だ……

 みんなお近づきになりたいんだろう。

「これも何かの縁ですわ。さぁ、行きましょう」

 少し強引だったか。

 あたしは彼の手を引いていった。

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