disguise8

 みっちりお嬢様レッスンを受け、日が暮れ始めた頃。

 あたしとアビーは、アルセウスさんと共に車に乗っていた。

 今のあたしは、ソフィアではない。

 カスタード・カスケード社長、アルセウス・カスケードの一人娘、カナベル・カスケードだ。

「ソフィアさん、本当にありがとう。娘と同じ年の君にこうやって私の警護を頼むのは、非常に心苦しいが……」

「気にしないでよ。これがあたしの仕事だから。ボランティアでも何でもない。ちゃんと対価をもらってやっていることだし」

 あたしとしては、とても大人なことを言ったつもりだったけれど、アルセウスさんは釈然としない様子だった。

 そりゃそうだよね。

 だって、あたしたちは子どもなんだもん。

「ところで……これから参加する立食会は、一体どういう集まりなんスか?」

 アビーの言う通りだ。

 何も聞かされていなかった。

「あらゆる食品メーカーや企業の交流会……と言えばいいかな。定期的にこうやって行われるんだ。我々は食品を取り扱っているから、料理の一つとして自社の菓子なんかも出してもらえたりするからね。ただのパーティーではないんだ」

 ほえー。

 じゃあ、美味しいものを食べられるってことだよね!?

 少し楽しみになってきたよ!

「ミリアルがそんな所に呼ばれる理由は?」

「彼はあらゆるところから呼ばれるさ。決して関係がないわけではないしね。彼と親しくなれば、もしかすると自社の製品が他国で売られるかもしれない。それだけ影響力はあるよ」

 ふーん。

 やっぱりミリアルはすごいんだね。

「どうしてミリアルとアルセウスさんは知り合いなの? 見たところ、年も離れているようだけど……」

「確か……何かのパーティーで知り合ったんじゃないかな。私のことは信用してくれたみたいだ」

 アルセウスさんはいい人っぽいもんね。

「そういう君はどういう繋がりなんだい?」

「自分も気になるッス! ミリアルさんのこと、何も知らないッス!」

 アビーもはい! と、手を挙げた。

 そういえば、話していなかった。

「あたしも詳しくないけど、ミリアル、というよりはミリアルのお父さんの代からあたしたちそうじ屋と繋がりがあるみたいだよ」

「意外だな。お父上が亡くなった途端、まるで父親がいたという痕跡を消すかのように、そういった繋がりは断ち切っていったと聞いているが」

 そう。

 そうなんだよ。

 アルセウスさんの言う通り、ミリアルは早くにお父さんを亡くしたので、あの若さでスマイルカンパニーというとてつもなく大きな会社を受け継ぐこととなった。

 普通ならたまったもんじゃない。

 なのにミリアルときたら、お父さんを信じてついてきた会社の重鎮たちを全て解雇、自分に逆らう者も解雇……

 取引先も、また新しくイチから取り直してきたという。

 そんな中で残った繋がりのうちの一つが、そうじ屋だ。

 なぜ、ミリアルがそうじ屋との関係を残したのかはわからない。

 そして、あたしへ仕事を与える理由も――。

 ――まァ、これに関してはおおよそ察しはつくけど、今ここでその話をするのはやめておこう。

「ミリアルにとって、あたしらは何でも屋みたいなもんじゃないの。こっちとしては、仕事をもらってお金ももらえているから、構わないんだけど」

 特に損な関係ではない。

「本当にそれだけなんスか……?」

 他に何があるというんだ。

 アビーは一体、何に納得がいかなかったのか。

 でも、あたしは何も言わなかった。

「……おや。もうじき着きそうだね」

 アルセウスさんがそう言い、この話は終わった。

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