mission13

 そう言った瞬間、ドカーン! という爆発音のようなものが屋敷中に広がった。

「な、何!?」

 地震のような揺れも起きる。

 焦げ臭い。

 本当に爆発!?

「おいおい……責任ってこれのことか? やるねぇ。見習いちゃん」

 あたしの仕業だと勘違いされている。

 ……全く身に覚えがないんですけど。

「わわわ、私の別荘がぁ~!」

 ミルキーがパニックになるのと同時に、再び爆発が起きる。

 先程よりも一段と大きな揺れがくる。

 ――チャンスだ!

 あたしはずっこけるふりをして、振り向いた。

 銃口より低い位置にかがみ、相手に向かってタックルした。

「おわっ!?」

 発砲されることなく、男が持っていた銃は彼の手から離れていった。

 あたしは男の上に馬乗りになり、額に銃を突きつけた。

 男は、少年だった。

 と言っても、あたしや先輩よりもお兄さんだ。

 赤が混じった茶髪に、瞳の色は焦げ茶色。

 何だ、こいつ……

 何でこの状況で笑っていられる……!?

「えらいえらい。よくできました。――でもやっぱり見習いだ」

「いっ……!?」

 銃を持つあたしの手首をとても強い力で捕まれた。

 引き金なんて引けるわけも無く、銃を落とす。

 あたしは手首を捕まれたまま、遠くに投げ飛ばされた。

 くそっ……!

 宙を舞うあたしの体は何かにぶつかってそのまま倒れた。

 一瞬先輩が受け止めてくれたのかと思ったが、違った。

 あたしと男が落とした両方の銃を拾って、逃げる敵に向かって発砲していた。

 が、全て命中せず。

 ……ハッ! ミルキー・ホワイトは!?

 あたしは突然彼女のことを思い出し、そちらに目を向けた。

 彼女は床に倒れていた。

 まさか……死んでいる!?

「いや、気絶しているだけだ」

 頭上で声がして、我に返る。

 誰だか知らない人の上に乗っかったままだ。

「ご、ごめんなさい!」

 慌てて立ち上がると「気にするな」と、その人は言った。

 サングラスにスーツ。

 外にいた見張りの人と同じ格好だ。

 誰だろう、このお兄さん……

「気にするな。困ったときはお互い様だ!」

「はぁ」

 それはそうだけど……

 あんた誰だよ。

「目的は果たした。あとはあいつを捕まえることができれば……」

 お兄さんは、先輩からの攻撃をかわし続けている男のほうに目をやる。

「俺も応戦した方が良さそうだな」

 そう言って、お兄さんはサングラスを外し、銃を構えた。

 あ、あたしも!

 ナイフならあるからまだ戦える!

 慌てて、あたしも武器を持つ。

「3対1とかずるくない!? さすがの俺もそれは無理だわー」

 そのわりに、男は余裕の表情だった。

 銃弾を器用にかわしながら、倒れているミルキー・ホワイトを拾う。

 逃げる気だ!

 こんなタイミングで銃弾が切れ、先輩は舌打ちをしながら自分が持っていた物に持ち替えた。

 弾を入れ替える時間すら惜しい。

「おっと。これ以上は撃たせねーぞ」

「っ!」

 先輩の手に向かって何かが飛んで来、銃がはじけ落とされる。

 拾おうとするが、それよりも目の前に敵がいた。

 ミルキー・ホワイトを抱えているほうとは反対ので、やつは先輩の首をつかんだ。

 片手だというのに、息の根を止めそうな力強さ。

 苦しさに顔をゆがめる先輩。

 引き離そうとしても、びくともしない。

 ど、どうしよう!

 何とかしなくちゃ!

 あたしがあたふたしている一方で、あのお兄さんが照準をやつに定めている。

 それに気づいてか、男は先輩を盾にした。

「撃ってろよ。仲間に当たるぜ」

 卑怯な……!

 ピンチに追い込まれたあたしたち。

 いや、でも、まだだ。

 あたし、何もしていないじゃないか。

 あたしが……あたしがやらなきゃ!

「先輩をっ……離せぇぇぇっ!」

 あたしは何も考えずに走り出し、持っていたナイフで、先輩の首をつかむ腕をめがけ突き出した。

 空振りはしたものの、相手のバランスは崩れ、ようやく先輩から手が離れた。

「先輩……。そういう関係なんだ、君ら」

 なぜか意外そうな顔をされたが、構っていられない。

 あたしは先輩が落とした銃を拾い、何の躊躇いもなくやつに発砲した。

 外した……というかかわされてしまったが。

「急に撃つなよ! こっちは丸腰なのにさ。ひどいね」

 次の弾を撃とうとしたが、大きな揺れが起き、突然――、目の前から彼の姿が消えた。


 文字通り、消えた。

 忽然と消えてしまったので。

 この揺れのせい?

 ――そんははずがない。

 起きている事態についていけずにいると、どこからが声が聞こえてきた。

「悪いけど、この辺で俺らは退散させてもらうぜ」

 あの男の声だ。

「どこにいる!?」

「安心しろよ。もうあんたらのクライアントの物には手を出さねぇ。別のやつに今度からはするよ」

 あたしの質問には答えていない。

「きっとまた会うことになるだろうよ、そうじ屋さん――」

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