mission12

「ちょ、ちょっと! 何とかしなさいよ! キッド!」

 自分の命が危うくなったとたん、あたふたしだすお嬢様。

「金品なら返してあげるわ! あの程度の物ならお父様とお母様が何とかしてくれるもの!」

 呆れた……

 ま、正しい選択だけれども。

「いやいや何言っちゃってんの。お前は困らないだろうよ。困るのは俺たちだから」

「私はこんな所で死にたくないのよ!」

「ハイハイ」

 ……何でこの人、ここに来ちゃったんだろうね?

「その子が侵入してきたことには気がついていたんでしょう!? だったら私の使用人が入れ替わっているのもわかっていたのもわかっていたのよね!?」

「うーん。この子だけかなぁ」

「ハァ!?」

 侵入者はあたし一人だけだと思っていたのか。

「そー。だからちょっとビックリしているし、ショック受けてんだよね。俺に気づかれずに侵入してくるなんてさ」

 メイドはうんともすんとも言わないし、無表情のままだ。

「そりゃそうか。こんな見習いみたいな子、一人で行かせるわけないか」

 悪かったな!

 見習いで!!

「……ちなみに」

 あ、やっと喋った。

「飲み物には何も入れていないが」

 えっ? そうなの?

 てっきり毒でも入っているのかと……

「言ってみただけだよ。どんな反応するのかと思ってな」

「そうか。良かったな。勘の良いやつを仲間に持って」

 結局何か入ってんの!?

 もー!

 誰が本当のことを言っているのかわかんないよ!

「そうは言っても騙されるとこだったぜ。変装まで俺並にクオリティが高いじゃねぇか。さすがの俺も女は無理かなぁ」

「えっ!?」

 ミルキーが驚きの声をあげる。

 気づいていなかったようだ。

「意外と骨のあるやつがいて俺は嬉しいよ」

「よく喋るやつだな……。お前がベラベラと話している間にこの女の首を切り裂かれてもいいのか」

 ヒィ! と、悲鳴をあげるミルキー。

「別にいいけどさァ……今は困るな。大事な資金源だし」

「資金……ねえ……」

 メイド、もとい先輩の目が細くなる。

「何をそんなに金を求める。この女のだけでは足りないなんてよっぽど入り用らしい」

「そりゃあ……生きるためには金がいるだろ。幼い仲間たちにも食わしてやんないといけねーし」

 幼い……?

 あたしはその言葉に引っかかる。

「あとは、武器、かな」

 武器……!

 やっぱりこいつ、人殺しなのか……!

「そういうこと……ね。今になって仕事の内容が理解できた」

 何!? どういうこと!?

 先輩は何をわかったっていうの!?

 あたし、全然わかんないよ?

「こちらとしても、その見習いに死なれては困る」

「そっか。じゃあお互い困るってことだし、穏便にここは大人しく解放しようか」

「いや、この女は殺す」

 どっちが人殺しかわからないようなことを言い出す先輩。

「悪徳貴族の娘が死のうが、世間の誰も悲しまないだとう……むしろ喜ばれるんじゃないのか」

 それはそうかもしれないけど、言ってることが悪役っぽいよ、先輩。

「お前は生かしたまま捕まえる。それが命令だからな」

 目が本気だ。

 ああ、もう!

 ダメダメダメ!

 絶対にダメ!!

「先輩、ダメだよ! その人は殺しちゃあ! だって関係ないじゃん!」

 あたしの言葉にミルキーが必死に頷いている。

「関係なくはないだろう。お前に銃を突きつけている男に手を貸したやつだぞ。生かして逃がしたりなんかすれば、今後またいつどこで世に影響がでるかわからない。どうせいつか殺すなら、今でも同じことでは」

「それなら今じゃない方を選んでよ!」

 何言ってるんだよ、わけわかんないよ!

 確かにホワイトは善ではない。むしろ悪だ。

 けど、まだこいつ自身はあたしを殺そうとはしていない!

 敵意はあっても殺意は向けられていない!

 そんな人を殺すっていうのか!?

 あたしには無駄だよ!

「だったらお前、ここで死ぬのか?」

「先輩がそいつを殺せば、間違いなくあたしは死ぬだろうね!」

 あたしが銃を取り出し、振り向いて引き金を引く。

 その動作をしている間に、あたしはきっと撃たれるだろう。

 相手の顔はまだ見ていないけど、そのくらい力量の差があるってことくらいはわかる。

「どうするんだよ」

「……元はと言えば、あたしが気づかれるような侵入の仕方をしたから悪いんだ。あたしの未熟さのせいだよ」

 敵に気づかず、背後も取られた。

「――あたしが責任を取るよ」

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