mission11

「あら。掃除に来ました。なんて言わないでよ。騙されないから」

 恐らくホワイトの一人娘、ミルキー・ホワイトだろう。

 あっさり見つかってしまった。

 きっと先輩に怒られるだろうなぁ。

「あなたが何者なのかは知らないけど、今夜誰かが来るっていうのは聞いていたの」

 どういうこと?

 あたしたちの行動は筒抜けだったってこと……?

 一体どこから漏れたんだ?

「お目当ての物は確かにここにあるわよ。突き止めることができたのは褒めてあげるわ。でも、生きて帰れるかしら?」

 何だって?

 このお嬢様があたしと戦おうってか?

 ホワイトの人間がいくらおかしいからって、あたしと同じような人種とは思えない。

 大丈夫。

 倒せる。

 殺しはしないけど、気絶させるくらいなら難なくできる。

 ――と、あたしは隠し持っていた銃に手を伸ばそうとした。

 が。

「おっと。その手を動かしたら、どうなるかわかるよね?」

 カチッという音がして、あたしはピタッと動きを止めた。

 あたしの視界には今、ミルキー・ホワイトしかいない。

 後ろだ。

 あたしの後ろに誰かいる。

 そしてそいつは、あたしに銃を向けている。

「コラコラ。手以外も動かしちゃあ駄目だ」

 振り向こうとしたが、それも許してもらえなかった。

「上手く隠れたつもりだった? 残念。ずっと気づいていたよ」

 相手の方が一枚上手だった。

 背中を取られるとは。

 こりゃ普通じゃないね。

「ごめんねぇ。俺らも金が必要なんだわ。だから持ってかれると困っちゃうってわけ。そこのお嬢様からの支援だけじゃあちょっとばかし厳しくってね」

 失礼ね!

 と、ミルキー・ホワイトの目がつり上がる。

「君、俺より年下かな? 可哀想に。こんな所へ寄越されてさ。きっと俺たち同類だよな」

「……違うと思う」

 相手の顔を見ていないが、直感でそう言った。

「違う? 何で? 人殺しだろ、君も」

 ……人殺し?

「あんたは人殺しなんだね。じゃあ、あたしは違う」

「えらく頑ななんだな。銃の扱い方わかってるやつが人殺しじゃあないって? そんなことないだろ」

「決めつけるな!」

 確かにあたしは汚れた人間だ。

 物心ついたときから鍛えられ、普通の子どもとは違った生活を送ってきた。

 だけれども、あたしに今銃を向けているこの人間は、もっと汚れている!

「……やめなさいよ、キッド。一応彼女もレディなのよ。あまり失礼なことを言っちゃあ駄目よ」

 やれやれ。と、ミルキー・ホワイトがため息をついた。

「あなたも落ち着いたら? 美味しいお茶を特別にごちそうしてあげるわ。リザ! もう一つカップを持ってきてくれる?」

 彼女はどこに向かってかわからないが、使用人を呼んだ。

「呑気なお嬢様だな」

 今度はあたしの後ろにいる男の方が呆れていた。

 ほどなくして、メイドさんが台車を押して入ってきた。

 さっき見たメイドさんのようだ。

 こんな状況、普通なら卒倒するところなのに、彼女はあたしたちの方に見向きもしなかった。

 使用人まで慣れているとでもいうのか……

「ありがとう」

 新たに持ってきたカップと、ミルキー・ホワイトのカップにも温かいお茶が淹れられる。

 それを彼女が口にしようとしたときだった。

「おい、待て。飲むな」

 なぜか、男がストップをかけた。

「……どうしてよ?」

「死ぬぞ、お前」

「!?」

 彼女は放り投げるようにカップをテーブルに置いた。

 中身が揺れて、こぼれる。

「あと、動かない方がいい」

 立ち上がろうとした彼女にさらに忠告。

 メイドが、ミルキー・ホワイトの首筋にナイフを当てていたからだ。

 もしや、このメイドさん……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る