mission7

 車の扉を開けると、イオンはふんぞり返っていた。

「あれ? イオンも行くの?」

 あたしは助手席に座り、先輩はイオンの隣に座った。

 運転はキャシーさん。

「私が行かなくて誰があんたに指示を出すのよ。情報だっているでしょ」

「愚問でした」

「あら。ソフィアのくせに愚問なんて言葉使えるのね」

 バカにしやがって!

 あたしだってそのくらいわかるってぇの!

 最近知ったけどね!

「ねぇ、キャシーさん。ここから結構時間かかるの?」

 あたしは運転する彼女に聞いた。

「ええ、そうね。夕方頃には到着の見込みよ。目的地の近くにあるホテルで関係者と落ち合う予定」

「関係者?」

「まんまと賊に宝石を持って行かれた間抜けな会社の専務」

 トゲがいっぱい刺さっていそうな言い方だった。

「グループ会社なんだよね?」

「そう、プラネット・ファクトリーというジュエリーブランドをご存知?」

「うーん」

 聞いたことあるようなないような。

 きっと有名なのだろう。

「大手中の大手だというのにこの失態……。うちの社長には痛くもかゆくもないのでしょうけど、後処理に走らされるこっちの身にもなってほしいわね!」

 キャシーさん……怒ってる……

 そこから延々と、愚痴が始まり(ほぼミリアルに対するものだ)、あたしは相槌を打つしかなかった。

 誰か……助けて……

 と、後ろの二人を見るが、イオンは持参している雑誌や新聞を読みあさっているし、先輩は寝ていた。

 助手席に座ったのが間違いだったか。

 せめて仕事に関係のある話をしたかった……

「ちょっと、ねぇ。聞いてる? ソフィアさん」

「聞いてます聞いてます。キャシーさんも大変だね。でも、キャシーさんってミリアルと付き合い長いんでしょう」

 危ない、危ない。

 ちゃんと聞いていないのがバレるとこだった。

「ええ、そうね。彼は、大学のときの後輩だし」

「へぇ、そうだったんだ。知らなかった」

「学部が同じだったから、授業でよく顔を合わせるのよ」

「そんなに長く一緒にいて、好きになったりしなかったの?」

 誰もが聞きたくなるであろうことを聞いてみると、彼女は大人の笑みを見せた。

 何だ、その表情は。

「私のタイプじゃないから」

 シートベルトをしているけど、転げ落ちそうになった。

「私とあの人はあくまでビジネスパートナー。それ以上になることはないわ。そもそもあの男だけは絶対にない」

 キャシーさんの意思はとても堅かった……

 近くにいるからこそ、良いところも悪いとこもわかってるってやつだね。

「あの男とつきあう女の気が知れないわ」

 ひどい言われようだな、ミリアル。

「キャシーさんは今、彼氏いるの?」

 普段恋バナできる人もいないので、この話の流れのついでで、ワクワクしながら聞いてみた。

「ああ……うん……まぁ……」

「ソフィアさんはまだ若いんだし、もっと素敵な恋をするのよ……」

「う、うん……」

 一体何があったんだ。

 あたしは聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。

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