mission6

「ソフィアちゃん。手を出して」

 その翌日もまた、あたしたちはミリアルの屋敷を訪れることとなった。

 会うなりそう言われたあたしは、掌をミリアルに差し出した。

「はい、あげる」

 そう言って置かれたのは、指輪。

 それも、大きなダイヤの付いた。

「え!? え!? こ、これっ……!?」

 とてつもなく高価なものなのでは!?

 あたしがあたふたしているのを、ミリアルは笑って見ていた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。それ、偽物だから」

「偽物……」

 わかった途端、安心感に包まれた。

 よ……よかった……

「ここから本題だ。僕の会社は宝石の輸入なんかも取り扱っていてね。そういう指輪とかをグループ会社に卸しているんだけど、先日、ある事件が起きたんだ」

 ミリアルは深いため息をついた。

「その会社の社員一名が、偽物の宝石とすり替えて、販売を行っていたことが発覚した」

 その先のことは容易に想像できた。

「じゃあ本物は、そいつが持ち逃げしたってわけだ」

「その通り。気がついたときにはもう遅かった。かなりの数の商品が裏市場でかなりの高値で売却されていたよ。非常にまずい事態だ」

 しかも裏市場ときたか。

 何かありそうだね、これは。

「失った物を取り返すのは無理だからね。あとは犯人を捕まえればいいだけなんだけど……」

「それを捕まえてこいって?」

 どうせそんなことだろうと思った。

「冴えてるね、ソフィアちゃん。願わくば、まだ売りに出ていない分も取り返してくれると嬉しいよ」

 っていうことは、やっぱり本物を触らなきゃいけない!?

 あたし、その方が怖いよ……

「犯人まで突き止めておいて、未だ野放しの状態は?」

 頭を抱えるあたしにはお構いなしに、先輩が質問した。

 そうだ! そうだよ!

「恐らく、普通の人間ではない」

 ……なるほど。

 簡単に手出しできなかったんだね。

「単独で彼は潜入したが、間違いなく手助けをしている協力者がいる。これは、組織による犯行だ。僕も会社側から相談を受け、捕獲作戦を実行したけれど、あらゆる追跡の手をかいくぐって見事に逃げられたよね」

 やれやれ。と言っているわりには、あまり深刻そうに見えない。

「逃げているやつを探して捕まえろだなんて、無茶じゃない?」

「実はもう彼の居所はつかんでいる」

 何だって?

「あとはそこへ行って、追い込むだけ」

 とても難易度低めに聞こえるけど……?

「ちなみに……その人はどこへ?」

「ホワイト家の別荘」

「……」

 やっぱりタダでは済まなかった。

 ホワイト。聞いたことある。

 絵に描いたような悪徳貴族だ。

 お金だけはあるからって、様々な事業に手を出したりするが、どれも問題を起こしては消えていっている。

 でも、ホワイト家は滅ばない。

 なぜなら、お金があるから。

 警察も逮捕しようとはするものの、尻尾を掴めず、泣き寝入り状態である。

 裏の裁きでも受ければいいのに……と、思いたいところだが、それすらも叶わないのでしぶとい一族だよ。

「じゃあ、ホワイトが手を貸しているってことだよね」

「それだけじゃあないと思うけど……まぁ、ほぼそういうことになるね」

 ん?

 何だ、今の言葉を濁した感じは。

「実はうちのスパイを一人潜り込ませていてね。彼がそこにいるっていう確証は得ているんだ。本当に後は君たちが捕まえてくれればそれで終わりなんだよ。任せたよ!」

 そうじ屋の仕事というよりは、ミリアルの手伝いだ。

 ……タダ働きじゃないからいいけど。

「現地にはキャシー君が連れて行ってくれるからね。いってらっしゃい!」

「えっ?」

 今すぐ行けってか?

 何となく後ろを振り向くと、部屋の扉の前に眼鏡の女の人が立っていた。

 ミリアルの秘書、キャシーさんだ。

「それではお二人とも。参りましょう。表に車を止めてありますので」

 うへぇ。

 あたしたちに休息はないのかぁ。

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