mission5
友だちができた。
あたしにとって、とても嬉しい出来事だった。
先輩はあたしとは友だちじゃあないし、イオンも違う。
ミリアルだって違う。
――あたしには、友だちと呼べる人がいない。
友だちだと思いたくても、向こうはそう思ってくれないことばかり。
でも、ルイは違う!
ルイは、あたしの友だちなんだ!
「お帰り」
帰宅すると、あたしは普通に出迎えられた。
「あ、うん。ただいま」
「もうすぐ飯ができる。洗濯物を取り込んでおいてくれるか」
「……わかった……」
あたしたちだけで住んでいるので、当然、自炊しなければいけない。
今やすっかり先輩やイオンが料理係になってしまったが、あたしだけは未だに料理だけはてんで駄目だった。
おかしいなぁ。
先輩だって最初からできたわけではないのに……
そんなことよりも。
ミリアルの言った通り、先輩の機嫌が元通りということに驚きだ。
元通りというか、通常運転。
つかみどころがない感じ。
表情が読めない。
「ちょっと。何突っ立ってんのよ」
一方で、イオンはプリプリしていた。
「……何をそんなに怒ってんのさ」
「怒ってる? 私が?」
鼻で笑われた。
「ええ、そうね。腹を立てているわね。あんたがリン様の手伝いもせずフラフラと遊びに行ったせいで、どこぞの社長様がリン様の機嫌取りをしたことにね」
ミリアルのことか。
というか、わかっていたけど結構どうでもいい内容だった。
「ふーん。ミリアルは何をしたの?」
「ケーキ」
「え?」
「ケーキ、あんたの分も冷蔵庫にあるわよ」
どういう意味なのか、さっぱりわからなかった。
「むしゃくしゃしたから全部食べてやろうかと思ったけど、リン様の悲しむ顔は見たくないからやめた」
「ミリアルがケーキをくれたの?」
バカなあたしなりに察したつもりだ。
もしや、さっきミリアルの所で食べ損ねたケーキ?
「よりによって、リン様が前々から注目していたケーキ屋ときたじゃないの。……あぁ、忌々しい!」
「あれ? ミリアルって先輩が好きな食べ物とかって知ってるんだ?」
怒りに包まれているイオンをよそに、あたしは首をかしげた。
「さぁね。どうせあのお坊ちゃんのことだから、どこかで情報を手に入れたんでしょう。全く、私のリン様をこうも簡単に手懐けるなんて!」
――あんたのものじゃあないし。
という言葉は飲み込み、「そっかぁ」と、あたしはつぶやいた。
先輩がああ見えて、甘い物が好きだ。
辛いのとか苦いのは苦手。
本人の口から聞いたわけじゃないけどね。
……なるほどね。
ミリアルは「内緒」と言ったけれど、ケーキを使ったわけだ。
先輩も案外チョロいな……
「悔しいわ……この私があのお坊ちゃんに後れを取るなんて……」
あんたは何に対抗しているんだよ……
しかも、ミリアルのことをお坊ちゃん呼ばわりか。
イオンって実際のところ、いくつなんだろうね?
「こんなの、あってはならないことだわ……」
何やらブツブツ言い始めたので、あたしはそっとイオンから離れたのだった。
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