mission4

 どうやってあの先輩をなだめるつもりなんだろう?

 疑問に思いながらも、あたしは山へ向かった。

 トレーニングなんて言ったが、ほぼ一人で遊んでいると言ってもいい。

 そんなことをしていると先輩にバレたら、怒りが爆発するに違いない……

 怒ったときの先輩を想像してしまい、あたしは身震いをした。

 大丈夫、大丈夫……一応、修行はしてる。

 言い訳はできるぞ。

 山への入り口(あたしが勝手に決めた)が見えてきたあたしはそこを目がけ、一気に走って行った。


 虫や鳥の鳴く声をBGMに、あたしは木に登ってくつろいでいた。

 ――え? 修行はって?

 一通り暴れたから、こうやって休憩しているんだよ。

 いやぁ、心地良いね。

 丁度良い風、温かい日差し。

 まさに春という感じだ。

 気持ちがいいから、だんだん……眠くなってきた……よ……

 コクリコクリと船を漕ぐうちに、意識も薄れてきた。

 昨日の疲れがきっとまだ残っているんだ。

 おやすみなさぁーい……

「――危ないッッ!」

「!!?」

 そんな声が周囲に響き渡り、あたしは飛び起きた。

「わああぁっ!?」

 自分が木から落ちそうになっていることに気がつき、慌ててしがみつく。

 あ……あぶな……

 あのまま眠っていたらあたしは、今頃病院行きだ。

 考えただけでゾッとする。

「ねぇ、君! 大丈夫?」

 危ないと言ってくれた声が、下から聞こえてきた。

「う、うん……!」

 返事をしながら下を見ると、青い瞳がこちらを見ていた。

 あたしと同じ年か、少し年上かくらいの男の子だ。

「駄目だよ。木の上で居眠りなんて。危ないよ」

「ご、ごめんなさい……ありがとう。起こしてくれて」

 木から降り、あたしはお礼を言った。

「君、よくこの山にいるよね。近くに住んでいるの?」

「え、あ、うん」

 あたしは内心ビクッとした。

 まさか、誰かに見られているとは思いもしなかったからだ。

「俺はルイって言うんだ。君は?」

「ソフィア……」

「ソフィア。よろしくね」

 よく見ると、ルイは爽やか系イケメンだった。

「ソフィアはこの山でいつも何をしているの? 走り回っている姿をよく見かけるけど」

「え……えーっと……」

 うわ! どうしよう!

 やっぱり自主トレの最中を見られてしまっていた!

「実はあたしぃ、そうじ屋っていう暗殺組織の見習いなんだぁ~」なんて言えるわけがない!

 言ってしまったら、各方面から怒られる。

 先輩だけでは済まされない。

「走って体力をつけているんだ……」

 嘘が下手なあたしは、よくわからないことを言ってしまった。

「体力? ソフィアは何かスポーツでもやっているのかい?」

 当然、質問攻めにあう。

「え!? う、うん……今度大会があって、どうしても優勝したいんだ……」

「そうなんだ。頑張ってね」

「ありがとう……」

 幸いにも、何のスポーツかとは聞かれなかった。

「ルイもこの近くに住んでいるの?」

 話をそらすべく、次はあたしが質問をした。

「うん。そうだよ。実は最近越してきたばかりでね。――いいよね、この山は。人がいなくて静かだ」

 そう。

 そうなんだよ。

 お金持ちしか住んでいないせいなのか、何なのか知らないけど。

 狩りに来る人もいなければ、山菜を採りに来る人もいない。

 少々危険もあるが、良く言えば非常にのどかで快適だ。

「俺と同じ年頃の子が近くにいて嬉しいよ。どこを見ても畑しかないし、あっても金持ちの家ばかりだし」

「だよね……わかるよ、その気持ち」

 あたしも昔は同じことを思ったけれど、あたしのような人間からすれば、この方がとても安全なのだ。

 誰にも正体を知られずに済む。

 なんて安心する日々も、今日で終わりを告げたけど。

 あたしはそこからしばらく、ルイとお喋りをし、あたしのオススメスポットを案内したりして共に過ごした。

「ソフィア、ありがとう。楽しかったよ」

「あたしも」

 日が暮れる頃、山への入り口の前で、あたしたちは別れた。

 ルイとは家が反対方向のようだ。

「また、会えるかな?」

 帰ろうとしたルイに向かって、あたしは尋ねた。

 何だからしくないな、とは自分で思ってしまった。

「――もちろん。ここでまた会おう」

 にこりと、微笑んだのを見てあたしは嬉しくなり、大きく頷いた。

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