mission3

 翌日、あたしと先輩は今回の任務完了の報告をする為、とある場所を訪れた。

 唯一、近所と呼べる家だ。

 しかも、豪邸。

 この豪邸に住む、とある男に用がある。

「やぁ、二人とも。お疲れ様。上手くいったようだね」

 女秘書さんに案内された、客間で待っていると、スーツを着た若い男が現れた。

「聞いたよ、ソフィアちゃん。大活躍だったってね。頑張ったね。ご褒美にケーキをあげよう」

「ケーキ!?」

 すると、メイドさんが色んな種類のケーキが乗ったお皿を持ってきてくれた。

「わぁ、美味しそう! 食べていいの!?」

「もちろん」

「わーい! ケーキ!」

 と思って手を伸ばそうとしたが、先輩の冷たい視線を感じ取ってしまった。

「あ……そうだ……あたしダイエットしなきゃいけないんだった……」

「ダイエット? 君、痩せているじゃないか」

「う、うるさい! 女の子には色々事情があるんだよッ!」

 フン! と顔をそむけて、あたしはケーキを諦めた。

 あぁ……食べたかった……

「そういやミリアル……隈ができているけど、寝てないの?」

 ニコニコしているが、よく見ると彼の目の下には隈ができていた。

「あー……うん、まぁ。二日くらい寝てないよね」

「二日!?」

 あたしだったら無理。

 死んじゃう。

「忙しいんだね」

「本当にね……はぁ……僕、何でこんなに働いているんだろうね……」

 目が虚ろだ。

 誰か、こいつに睡眠を与えてあげてよ……

「あたしが言うのもなんだけど、程々にしておきなよ。せっかくの男前が台無しだよ」

「ありがとう。ソフィアちゃん。君は優しいね」

 力なく、彼は微笑んだ。

 紹介が遅れたが、こいつはミリアル・スマイル。

 スマイルカンパニーっていう超大企業の社長。

 そして、この豪邸の持ち主だ。

 ミリアルの会社は貿易商っていうらしいんだけど、何をやっているのかはあたしは知らない。

 聞いたけどよくわからなかった。

 ミリアルが何の仕事をしているかなんて、あたしにはどうでもいいけどね。

 ミリアルのお父さんが一代で築き上げた会社らしいんだけど、それを二十六歳という年齢で受け継ぐなんてすごいよね。

 さすがにそれくらいはわかる。

 若いし地位も権力もお金もある。

 ついでに言うと、ルックスも悪くない。

 玉の輿を狙った女の人が多いとかなんとか。

 そんなミリアルとあたしたちの繋がりだけど。

 お父さんの代からそうじ屋とは関わりがあったようで、仕事を依頼してきたり、逆にその立場を利用させてもらったりと、何かとその関係を維持してきている。

 ミリアルが会社のトップになってからは、主にあたしたちとのやりとりだけになっている。

 ……きっと、あたしたちを近くに住まわせたのも、この為だろう。

「忙しいのなら俺たちはそろそろ帰るぞ。他に聞きたいことは」

 先輩が素っ気なく言って、立ち上がる。

「もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「さっさと買い出しに行きたいので結構」

 冷たいなぁ、先輩は。

「行くぞ、ソフィア」

「あ。あたしは山に行ってくるよ」

「……は?」

 部屋の温度が5℃くらい下がったような気がした。

 しまった……

「え……えーと……買い物、一緒に行こうか?」

 明らかに「俺一人で行けって言うのか。お前は手伝わないのか」という目をしていた……

「イオンと行くからいい」

「そ……そう……ですか……」

 やってしまったー!

 怒らせてしまったー!

 スタスタと部屋から出て行こうとする先輩の背後であたしは頭を抱えた。

 なぜ! なぜ山と言ってしまった! あたしよ!

「ソフィアちゃん。山へ一体何をしに行くの?」

「自主練と言うか……」

 ここはド田舎なので、山も近い。

 あたしはトレーニングと称して、よく一人で走り回っているのだ。

「そっか。偉いね」

 ミリアルは苦しむあたしの頭をなでた。

「大丈夫だよ、行っておいで。リン君の機嫌は僕が直しておいてあげよう」

「え……? どうやって?」

「内緒」

 イタズラッ子のような笑みを浮かべて、ミリアルは先輩の後を追って出て行った。

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