mission2

 さて、先程あたしがヒップドロップをかましたオッサンは他のそうじ屋仲間に引き渡し、後処理を任せた。

 生かすか殺すかは、あたしたちの知るところではない。

 暗殺組織とは言ったけれど、暗殺が全てではない。

 組織壊滅へ追い込む仕事も少なくはない。

 無事任務を終えたあたしたちは、帰路につく。

 本当は、依頼人に報告しなくちゃいけないけど、夜も遅いので翌日にすることにした。

 あたしと先輩の住居として、小さな二階建ての一軒家が与えられている。

 十代の子ども二人が一軒家だなんて、と思われるかもしれないが、住んでいるところが田舎で、近所と呼べる家もないので、その点は安心である。

 ご近所さんがあるとすれば、それは大半お金持ちの別荘だ。

 買い出しには不便だけれど、悪い所ではない。

 そんな田舎に、あたしと先輩は二人暮らし……というわけでもないんだよね、これが。

「おかえりなさぁい……ふわぁぁ……」

「……」

 あたしよりも小さな女の子が、大きなあくびをしながらあたしたちを出迎えた。

「どうやら上手くいったようね。ご苦労様……」

「あたしたちがこんなに頑張っているのに、アンタは寝る気満々なんだね」

 パジャマを着て、ナイトキャップまで被っちゃってさ!

 さすがにイラッとくるよね!

「頑張っている、ですって?」

 眠そうな目が一変、キッとあたしをにらみつけた。

「ソフィア。あんたがこの仕事を成功させるために、この私がどれだけ寝る時間を惜しんで情報を集めたのか……わかっているかしら? たった一日夜更かししただけのあんたにごちゃごちゃ言われる筋合いはないわ。私と、そしてリン様のおかげであんたは仕事を成功させた。――わかる?」

「はいはい……」

 眠いんじゃなかったのかよ。

「まぁ今回は運良くソフィアが、やつの上に落ちてくれたからな。半分はお前のおかげでもある。良かったな。お前のその体重が丁度天井が崩れるくらいで」

「え? 何それ? バカにしてるの?」

 好きな人に体重のことを言われるのは、乙女として辛い……

 ダイエット……しよう……

「なぁに、それ。面白そうだから、また明日詳しく聞かせてちょうだい、リン様」

 あたしには強く当たってきたくせに、先輩には色目使ってやがるよ、こいつ。

 先輩の腕に絡みつくイオンを見て、あたしは少しムッとした。

 あ、イオンっていうのがこのチビッ子の名前。

 小さい女の子の姿をしているけど、実際の年齢は不明。

 あたしや先輩よりも年上なのかもしれない。

 彼女の職業は、情報屋。

 その名の通り、あらゆる情報を提供してくれる。

 イオンは、あたしたち専属の情報屋だ。

 今はナイトキャップを被っているけれど、普段は猫耳のようなものをつけているという、何とも不思議な格好をしている。

 但し、本人曰く、

「これは猫耳じゃなくて狼の耳よ」

 だそうだ。

 うーん。

 猫と狼じゃ全く違うと思うけれど……

 ま、本人がそう言うのならば、そういうことにしておこう。

 狼の方が確かに強そうだしね!

 うんうん。と、一人頷いていると、

「それじゃあ、おやすみ」

「あら……何も食べないの?」

「いい。疲れたから寝る」

「そう。ゆっくり休んでね」

 というやりとりが二人の間で交わされ、気がつけばあたし一人だけになっていた。

「あれ!? 誰もいない! あたしを放置するなんてひどいよ!」

 とは言ったものの、誰も戻ってきやしない。

 仕方ない……何か食べてから、あたしも寝よう。

 このとき、すでにあたしの脳内からダイエットという言葉は消えていた。

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