第4話 真相
私は彼女の言葉を聞いた瞬間、私の第二の心臓かなにかを掴まれたような気がして息ができなくなった。たった一瞬、されど一瞬。自分を落ち着かせようと目をギュッと瞑り深く息を吸って吐いた。呼吸のリズムが戻ってきて目をゆっくり開くと、周りは何もなく白いのになぜか澱んだような空間にいた。先程まではカフェにいたはずなのに。折角落ち着きを取り戻したのに訳のわからぬ状況に目の前がくらりとした。
「いらっしゃい、ここはアタシの骨董品屋。なんの変哲もない、といえばうそになるけれど。なかなか風変わりでよい所でしょう。」
「帰してください、私は貴方の骨董品屋には興味がありません。いま、私たちはどこにいるのですか。いつの間にこんな所に来たのですか。」
「何を言っているの。アナタがここに、自分の意思で来たのよ。アタシはその手順をほんのちょっと、お手伝いをしただけなのヨ。」
このとき私は相手の言っていることが理解できなかった。もしかしたら私の頭が本能的に言葉を理解しようとしなかったのかもしれない。しかし、何故だか、この澱んだ空間を知っているような気がした。多少の恐怖感はあったものの嫌悪感は抱くことがなかった。
「私が見る限り、芸術作品やましては小物も置いていませんが。骨董品とは芸術作品や工芸品のことでしょう。それに店だといっていますがここには私とアナタしかいませんよね、あいにく私は高校生です。高額なお金も払えません。こんなところに監禁だか軟禁だかしておいてなんの役にも立てないと思いますが。」
「確かにこの空間は白くてなにも無いように見えるでしょう。最初はみんなそうなのです。けれど誰も芸術は目に見えるものだけだとは言っていません。音だって芸術でしょう?この白くて少しどよめいている空気はアナタが作り出した作品なのです。誰しもが何者かになりたいのです。素直に認めて気づけるのか、はたまた強がって自然と潜在意識の中へ吸い込まれて気づけないままなのか。この自覚はその人間の性格や人柄によって異なります。お嬢さんは後者みたいだけど。いまはその何かを知らずに彷徨っている最中なのです。けれどヒトという生き物は名前のつく何かになりたい願望を必ずもっているのよ。その証拠にこの店に来たんだから。」
私は何も言い返せなかった。自分の名前に違和感を感じるのはその言葉、音を受け入れてしまったらそれらに支配されて元々の名前のない
「アナタほど強情な人もたまにはいるけれどあまりみないわね、随分と面倒くさいわ。安心して、何にもとらわれていない自分自身を何かに差し出すことは誰だって怖くて勇気のいること。ここに来たみんなそうなのよ。それに急にその自覚が生まれたからといってなにものになりたいかということが分かっていなくてもそれで良いの。音のように可視化できないものも芸術に含まれるなら、人生だって芸術だと言えるのではないかしら。それこそ全世界中を探してもおんなじ作品は見つからないの。素敵でしょう。そして芸術は観覧者によって十人十色な見方ができるワケで正解がないと思うの。人生だって模範的な生き方なんて存在しないし生きた道が正しいのだから正解不正解なんてものは無いのよ。人間っていい生き物なの、なぜならなにものにもなれてしまうから。まあ、その状態にあるのもきっと怖いんでしょうケド。」
「・・・わたしは
核心を突かれてから、どうせこの女は人の心をよむことができるのだろうと諦めがついた。そしてわたしの本名を口にした。この音の組み合わせを発音することで違和感が口に残ったけれどいつもよりは力強く発することが出来たと思う。
「頼、アナタは納得してなさそうな顔をしているけれどアタシはアナタ自身と近しい何かを感じるわ。きっと運命ってやつがアナタのもとにこの音を運んできたのね。頼アタシは気に入った。改めてよろしくね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます